ひと口に歯科衛生士といっても、一般歯科や矯正歯科、小児歯科、審美歯科といった診療領域ごとに、または外来や地域包括ケア病棟といった勤務先によって、その仕事内容はさまざま。転職先を考える上で、ほかの診療領域などでの歯科衛生士の仕事内容を知りたい人も多いでしょう。
この「歯科衛生士の仕事」シリーズでは、そんな人たちのために、診療領域や勤務先ごとでの歯科衛生士の仕事をピックアップして紹介します。
今回取り上げるのは「審美歯科」です。一般歯科医院でも審美歯科領域の診療を行っているところはありますが、この記事では審美歯科を専門としている歯科医院(審美専門歯科医院)での、歯科衛生士の仕事内容、やりがい・魅力、向いているタイプ、職場の探し方などを解説。
審美歯科に関する専門性の高いスキルや知識を身につけたいと考えている人はもちろん、どんな働き方ができるのか気になった人もぜひチェックしてみてください。
<目次>
1 審美歯科専門の歯科医院(審美専門歯科医院)の特徴
審美専門歯科医院とは「歯や口元の美しさ」に焦点を当てた治療に特化している歯科医院のことです。白い歯や形の良い歯にする、歯並びを整えるといったように見た目の美しさを重視した治療を中心に行い、かつ機能面の向上を図ることで健康的かつ美しい口元をつくるのが審美専門歯科医院の役割となります。
一般歯科医院の中には審美歯科を行っているクリニックもありますが、審美専門歯科医院では審美歯科の臨床実績が多い経験豊富な歯科医師が常勤し、患者の希望に沿った診療を実現しやすいのが大きな特徴といえるでしょう。
●代表的な治療内容
代表的な治療内容としては、歯の色を白くするホワイトニングや、歯の欠けた箇所などをきれいに補修するセラミック治療、失った天然歯を人工の歯で補うインプラント治療などがあります。
一方、いわゆる「一般歯科」の診療範囲である虫歯や歯周病の治療は扱わないところが多いです。審美歯科の診療中に虫歯などが見つかった場合は、患者は一般歯科を扱っている別の歯科医院で治療を受ける必要があります。
●治療期間と患者層
審美専門歯科医院で行う治療の期間は内容によって違いはあるものの、ホワイトニングは数週間〜数ヵ月、セラミック治療は2~3ヵ月、インプラント治療は数ヵ月〜1年と、一般歯科での虫歯や歯周病の治療よりも長期にわたります。
また、審美歯科は保険対象外のものが多いので、自費診療となるケースが大半です。そのためか、患者層は成人が中心で、特に経済的に余裕のある30〜50代が多いようです。
2 審美歯科の歯科衛生士の仕事内容
歯科衛生士が審美専門歯科医院でどのような業務を行うのか、代表的な仕事内容を詳しく紹介します。併せて、求められるスキルについても解説しますので、一つずつ確認していきましょう。
●主な仕事内容
・歯科医師の治療行為の補助
主にカルテの記録や処置前の口内清掃、補助器具の消毒や管理などを行います。セラミック治療やインプラント手術の歯科医師のアシスタント業務を受け持ちます。
・クリーニング
スケーラーでプラークや歯石を除去したり、歯の表面を研磨して整えるポリッシングを行ったりします。特にホワイトニングでは歯の表面についた汚れやステインを除去しておくことで、薬剤の効果を発現しやすくします。
・ホワイトニング処置
歯を内側から白くすることを目的としたホワイトニング処置は、審美専門歯科医院の歯科衛生士の代表的な業務。歯に薬剤を塗って照射器で光を当てることで漂白させ、色戻りしにくい白い歯をめざします。ホワイトニング処置は、歯科医師の指導や監督が必須です。
また、患者が自宅で行うホームホワイトニングの指導も歯科衛生士の業務です。
・医療材料や薬剤の管理
治療に使用する、医療材料や薬剤、また消耗備品の在庫管理を任されることもあります。使用期限を切らしたり、欠品を起こしたりしないために、適切な発注や在庫数の把握をしていきます。
・口腔ケアに関する指導
審美歯科における口腔ケアの指導は、ホワイトニングやセラミック治療などの診療中や診療後に患者自身が状態を維持できるように、ケアの方法や生活上の注意点などを伝えることが中心となります。
・患者のカウンセリング
治療前の患者へのカウンセリングも歯科衛生士の基本業務の一つ。患者の悩みや希望、治療中の気がかりといったことを確認した上で歯科医師に共有していきます。患者と歯科医師を橋渡しする、非常に大切な役目です。
●求められるスキル
審美専門歯科医院で働くための必須資格は、基本的には歯科衛生士の国家資格のみです。
審美歯科の臨床経験がどれだけ重視されるかは職場によって異なります。働きながら経験を積んで知識・技術を身につけてもらう方針を取っている職場も多く、そのような職場では経験不問で募集をかけていることも。一方、ホワイトニングやインプラント治療などに関わった経験が選考や待遇面で重視されるケースもあります。求人情報の応募条件で確認しましょう。
業務においては次の3つのスキルが求められることが多いです。
・患者一人ひとりに対するこまやかなコミュニケーション力
審美専門歯科医院には、エステ感覚で審美歯科に臨む患者から深く悩んでいる患者までさまざまな人が来院します。治療への理解度や理想とする完成形もそれぞれ異なるため、患者ごとに応じた対応や気遣いが不可欠。患者の心情をくみ取った上で、それぞれが抱える不安や悩みを軽減し、治療への安心感を高められるように、一人ひとりに合わせたコミュニケーションや気配りが求められるでしょう。
・歯科医師が治療に集中できるようにするサポート力
診療をスムーズに進めるため、歯科衛生士には歯科医師が次に行う処置を先読みし、適切にアシストすることが求められます。それには、治療内容への理解や集中力はもちろんのこと、不安や緊張が強い患者に声をかけるなど、治療に集中している歯科医師が気づかないような細かいところをフォローするサポート力が大切です。
・美意識や美的感覚への理解力
ひと口に「口元の美しさ」といっても、美しさの尺度は人によってさまざま。患者に寄り添った診療を行うには、その患者が持つ美意識や美的感覚への理解が欠かせません。そのためにも、カウンセリングやコミュニケーションの際は、「この患者さんにとって、理想の口元はどういうものか」を探求する姿勢が求められます。
3 審美歯科の歯科衛生士のやりがい・魅力
ここまで審美専門歯科医院での仕事内容や求められるスキルを見てきました。次に、そんな審美専門歯科医院での仕事で挙がることの多い、やりがい・魅力を紹介します。
・審美歯科に対する専門的な知識や経験が積める
ホワイトニングやセラミック治療といった審美歯科に関する知識や技術が身につくなど、専門領域に深く関わることによるスキルアップが見込めます。また、働きながらホワイトニングコーディネーターや日本歯科審美学会歯科衛生認定士などの認定資格の取得をめざす歯科衛生士も少なくありません。
・患者からの信頼が得られやすい
審美歯科では、カウンセリングなどを通じてデリケートな悩みやコンプレックスといった患者の内面にふれることも少なくありません。そのため、「その気持ちを何とかしてあげたい」という思いで患者と向き合う歯科衛生士も多く、そのような真摯な姿勢は患者の信頼を得るきっかけになるでしょう。
また、審美専門歯科医院のほとんどが予約制。急患を慌てて対応する……といったことはなく、治療も長期間にわたることが多いことから、患者と密接なコミュニケーションを図りやすいです。そうして信頼関係ができた患者が治療後に「治療して良かった」「ありがとう」という喜ぶ姿や、患者からの感謝の声に充足感を抱く人も多いようです。
・給与条件の良い職場が多い傾向にある
勤務先によって違いはあるものの、審美専門歯科医院の歯科衛生士の給与水準は、比較的高めといわれています。これは審美専門歯科医院が自費診療を中心に扱っていて売上高が大きい傾向にあることや、歯科衛生士の業務に専門性の高さが求められること、ホワイトニングなど歯科衛生士が中心となって取り組む業務が少なくないことなどが要因として挙げられます。
なお、審美専門歯科医院の中には、売り上げノルマや歩合制を取り入れているところもあります。求人をチェックする際は、給与額だけでなくこういった条件をしっかり確認して、自分の希望する働き方にマッチしているか判断するようにしましょう。
・残業が少なめ
先述のとおり、審美専門歯科医院は予約制を取っているところが大半。その日その日に来院する患者の数が決まっていて駆け込みの診療で急に残業が発生するといったケースはほとんどなく、患者対応以外の業務での残業も少ない傾向にあります。
ワークライフバランスを重視している人にとって、勤務時間が安定していることは大きな魅力に映るでしょう。
4 審美歯科の歯科衛生士に向いているタイプ
紹介してきた審美専門歯科医院での仕事内容や仕事のやりがいなどを踏まえて、どんなタイプの人が審美専門歯科医院の歯科衛生士に向いているのか見ていきましょう。
・審美歯科に関して興味がある人
当然のことではありますが、審美専門歯科医院では審美歯科を専門とした診療が中心になります。審美歯科への興味や関心が高く、本格的に取り組んでみたいと思っていた人にはまさにぴったりの環境です。
・専門性の高いスキルを習得したい人
ホワイトニングやインプラント治療などに関して、専門性の高いスキルや知識の吸収が期待できる審美専門歯科医院。歯科衛生士として積極的にスキルアップしていきたいタイプの人にとってチャレンジのしがいがある職場の一つといえます。
・患者に深く寄り添い、支えていきたいと思う人
患者に深く寄り添いながら、歯科衛生士として支えになりたいという思いの強い人にとって、カウンセリングを通じて患者の内面にふれた上で、治療が終わるまで長期にわたって患者を支え続けることのできる審美専門歯科医院は、充足感を満たしやすい職場といえるでしょう。
5 審美歯科の歯科衛生士への転職に役立つ志望動機
志望動機は採用担当者にやる気や熱意を伝えるための大切なアピールポイントです。以下に例文を用いて解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
〈ここがポイント〉
応募する歯科医院の特徴を捉えつつ、自身が感じたことや強みを端的にまとまめましょう。この歯科医院が掲げるコンセプト、審美歯科の特性についてもしっかり理解することで、ミスマッチを防ぐことにつながります。
6 審美歯科の歯科衛生士の求人を探すには
審美専門歯科医院をはじめとする審美歯科の歯科衛生士の求人は、求人サイトや転職エージェント、ハローワークなどで扱われているのが一般的です。審美歯科に少しでも興味が湧いた、自分にマッチした職場だと感じた人は、希望する勤務地や条件面などに合わせてリサーチしてみましょう。
当サイト「ドクターズ・ファイル ジョブズ」では、審美歯科の歯科衛生士の求人を多数掲載しています。
エリアや駅、雇用形態はもちろん、「ブランクOK」「子育てママ在籍中」「退職金あり」などのこだわり条件でも絞り込めるので、自分が重視している条件で求人を探しやすいです。ぜひ活用してみてください。
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ここまで、審美専門歯科医院を中心に審美歯科の歯科衛生士の仕事全般を解説してきました。高度なホワイトニングやセラミック治療、インプラント治療に関する業務に携わることができ、治療を通じて患者の喜びを実感しやすかったりと、やりがいを感じられる仕事です。
この記事をきっかけに、審美歯科をぜひ転職先の選択肢に加えてみてください。
〈志望動機 例文〉
口元の印象は、その人の印象を大きく左右すると考えます。歯科衛生士として、患者さまの気持ちを前向きにする審美歯科の診療経験を積みたく、貴院を志望しました。
口腔内クリーニングや口周辺のマッサージなど、貴院では虫歯や歯周病の予防、嚥下機能の維持にもつながる取り組みも重視されているとお見受けします。貴院のコンセプトである「機能的にも、審美的にも『きれいな口元』をめざす」を体現する診療スタイルに感動しました。
ホワイトニングやデンタルエステの知識を身につけるだけでなく、前職の一般歯科医院で培ったコミュニケーションスキルを生かし、患者さまのニーズを引き出せる歯科衛生士をめざしたいと考えております。