ひと口に歯科衛生士といっても、一般歯科や矯正歯科、小児歯科、審美歯科といった診療科ごとに、または外来や地域包括ケア病棟といった勤務先によって、その仕事内容はさまざま。転職先を考える上で、ほかの診療科などでの歯科衛生士の仕事内容を知りたい人も多いでしょう。
この「歯科衛生士の仕事」シリーズでは、そんな人たちのために、診療科や勤務先ごとでの歯科衛生士の仕事をピックアップして紹介します。
今回取り上げるのは「矯正歯科」です。一般歯科医院でも矯正歯科を標榜して治療を行っているところはありますが、この記事では矯正治療を専門としている歯科医院(矯正専門歯科医院)での、歯科衛生士の仕事内容、やりがい・魅力、向いているタイプ、職場の探し方などを解説。
矯正歯科に関する専門性の高いスキルや知識を身につけたいと考えている人はもちろん、どんな働き方ができるのか気になった人もぜひチェックしてみてください。
<目次>
1 矯正歯科専門の歯科医院(矯正専門歯科医院)の特徴
矯正専門歯科医院は、その名のとおり矯正をメインに実施している歯科医院のこと。ワイヤー矯正、裏側矯正(舌側矯正)、マウスピース型装置を用いた矯正などさまざまな方法を駆使して患者の歯並びや噛み合わせの改善をめざす、矯正のエキスパートともいえる存在です。
矯正治療も行っている一般歯科医院の場合、矯正治療を担当する歯科医師が非常勤だったり、難しい症例の矯正治療はカバーしていなかったりするところが少なくありません。対して矯正専門歯科医院の場合、矯正治療の臨床経験が豊富な歯科医師が常勤し、幅広い症例に対応できるところが大半です。
一方、虫歯や歯周病といった基本的な歯科疾患は治療の対象外としているところが多いことも、矯正専門歯科医院の特徴といえるでしょう。そのため、矯正治療前や治療中にこれらの疾患が見つかった際は、患者は別の一般歯科医院などで治療することになるのが一般的です。
矯正治療は基本的に自費診療です。ただし、歯科医院によっては、顎の骨などの手術を伴う外科的矯正治療(歯科口腔外科と連携して行う治療)や、口唇口蓋裂やダウン症といった先天性疾患による不正咬合の治療など、健康保険の適用対象となる治療を実施しているところもあります。
矯正治療は幼少期や学生~20代といった若い時期に受ける人が多いですが、近年は30代以降の患者も増加傾向にあるといわれています。例えば、医療テック事業を展開している株式会社DRIPSが、2020年(令和2年)と2017年(平成29年)の厚生労働省「患者調査」の比較から、30代前半の患者数の増加率が最も高かったことを明らかにしています(参考:『3年間で3.6倍と増加、最新の厚労省患者調査からわかる歯科矯正初診患者数』/株式会社DRIPS)。
また、矯正専門歯科医院のホームページでも、子どもから大人まで幅広い年齢層の患者を受け持っていると自院の紹介しているところが多数あります。
このように、かつては子どもが受けるイメージが強かった矯正治療は、年齢を問わないものに変わりつつあります。今後も矯正治療のニーズが高まっていくことが予想され、矯正専門歯科医院の果たす役割も大きくなっていくことでしょう。
2 矯正歯科の歯科衛生士の仕事内容
歯科衛生士が矯正専門歯科医院でどのような業務を行うのか、代表的な仕事内容を詳しく紹介します。併せて、求められるスキルについても解説しますので、一つずつ確認していきましょう。
●主な仕事内容
・歯科医師の治療行為の補助
主にカルテの記録や歯科医師の処置前の口内清掃、処置中のバキューム操作、器具の消毒や管理などを行います。矯正治療に伴う抜歯の際は、アシスタントも担います。
・写真撮影の担当または補助
歯並びや噛み合わせ、顔の骨格などを正しく診断・把握した上で矯正治療を行うためには、口腔内写真やレントゲン(「セファロ」という頭部を正面と側面から撮影できるものを使用)、歯科用CTなどの撮影が欠かせません。口腔内写真の撮影を担当したり、スムーズにレントゲン撮影が進むように患者を誘導したりするなど、歯科衛生士は撮影に関する業務にも携わります。
・矯正用ワイヤーの交換や結紮(けっさつ)
ワイヤー矯正の場合、歯科衛生士はメンテナンスの一環として、患者の矯正用ワイヤーやゴムを必要に応じて交換したり、ワイヤーをブラケットに縛ったり(結紮)します。
・クリーニング、虫歯や歯周病の予防処置・指導
矯正治療中のメンテナンスとして、患者の歯石やプラークの除去、フッ素塗布やシーラント処置などを行います。また、矯正器具を装着した状態での適切な歯磨きの仕方や食事の指導も、虫歯や歯周病を予防するための歯科衛生士の大切な役割です。
・MFT(口腔筋機能療法)の指導
矯正治療後の歯並びの悪化を抑制するために、口腔周囲の筋力を鍛えながら口腔習癖(爪を噛む癖や歯ぎしり、口呼吸など)の改善をめざす「MFT(口腔筋機能療法)」を実施している歯科医院の場合、MFTの患者指導も歯科衛生士の仕事です。また、MFTの技術取得・向上のために、定期的なセミナー受講も業務の一環となります。
・矯正治療の経過観察に関する資料の作成
矯正治療中は歯の状態を観察・記録して、現在の治療状況や今後の治療方針を患者に共有します。その際の資料作成も、歯科衛生士が担当することが多いです。
●求められるスキル
矯正専門歯科医院で働くための必須資格は、基本的には歯科衛生士の国家資格のみです。
矯正治療の臨床経験がどれだけ重視されるかは職場によって異なります。働きながら経験を積んで知識・技術を身につけてもらう方針を取っている職場も多く、そのような職場の求人では経験不問で募集をかけています。一方、一般歯科などで矯正治療に関わった経験が選考や待遇面で優遇されるケースもあります。求人情報の応募条件で確認しましょう。
業務においては次の3つのスキルが求められることが多いです。
・患者一人ひとりに対するこまやかなコミュニケーション力
患者の歯並びや噛み合わせなどへの悩みの深さは人によってさまざま。矯正治療は数年かけて行うため、長期にわたって患者一人ひとりの心情に寄り添ったコミュニケーションが求められます。
特に子どもの場合、体や心の成長、進級や進学などの環境の変化によって、矯正治療への向き合い方も変わりやすいもの。多感な時期も前向きに治療に臨んでもらえるように、コミュニケーションを通じた信頼関係の構築が大切といえるでしょう。
・スムーズな治療を実現するためのサポート力
矯正治療をスムーズに進めていくには、歯科医師の指示に的確に対応し、適切なアシストが求められます。その上で、患者の治療内容や経過状況への理解はもちろんのこと、患者側が抱えている不安や悩みを引き出し、歯科医師に共有するといったサポートが歯科衛生士の重要な役回りとなります。
・矯正治療の知識・技術への探求力
矯正治療は専門性の高い分野なので、歯科衛生士の業務でも歯列矯正の知識・技術が不可欠。未経験で入職した場合、仕事を通じて技術や知識を身につけていきますが、その際は教えてもらえるまで待つといった受け身の姿勢ではなく、積極的に習得に取り組む姿勢を持ち続けることが大切です。
・パソコンスキル
撮影した写真の分析や検査データの整理などを行うため、パソコンの使用頻度はほかの歯科領域よりも多め。パソコン作業は仕事を通じて教わることが一般的で、特別なパソコンスキルを求められることはありませんが、パソコンに慣れていると業務がスムーズに進めやすいです。
3 矯正歯科の歯科衛生士のやりがい・魅力
ここからは、矯正専門歯科医院での歯科衛生士のやりがいや魅力を紹介します。
・歯科衛生士としての専門性を高められる
矯正治療に特化した環境に身を置けるので、日々の業務を通じて歯列矯正に関する知識や技術が身につきます。「矯正歯科に強い歯科衛生士」として自身の活躍の場をさらに広げていくことができるでしょう。
・スキルアップしやすい環境が多い
専門的な知識を深めるために、セミナーや外部の勉強会の受講を推進しているところも多く、やる気次第でスキルアップが見込めます。
また、矯正治療の一環で実施することが多いMFTは、歯周病予防として取り入れている一般歯科医院があるなど、診療科の垣根を越えて波及しています。このように矯正歯科で身につけた知識や技術が、歯科衛生士としての自身の強みとなってくれることが期待できます。
・患者との信頼関係を築きやすい
矯正治療は長期にわたります。その分患者一人ひとりとの付き合いも長くなり、治療が進むにつれて、患者との関係性も深まりやすいでしょう。患者の歯並びや噛み合わせの悩みが解消されていく様子を間近で見届けられ、喜んでいる姿を目にできることが大きな充実感となっているという声もあります。
・残業は少なめ
矯正治療は予約制を取っているところが大半で、突然の口腔内の痛みや矯正器具のトラブルなどでの急患対応もそれほど多くないといわれており、歯科衛生士の残業は少ない傾向にあります。
退勤後のプライベートの時間を確保しやすいのは、ワークライフバランスの観点で魅力的なポイントです。
4 矯正歯科の歯科衛生士に向いているタイプ
次に、どんなタイプの人が矯正専門歯科医院の歯科衛生士に向いているのか見ていきましょう。
・歯列矯正に関して興味がある人
矯正専門歯科医院では歯列矯正の診療が中心となるため、矯正治療への深い興味・関心がある、本格的に取り組んでみたいと考えている人には最高の環境といえるでしょう。
・専門性の高い知識・技術を習得したい人
セミナーや勉強会に参加する機会も多く、専門性の高い診療を追求していく矯正専門歯科医院での仕事。歯科衛生士としてのスキルアップを望んでいる人には得るものが多いでしょう。MFTが一般歯科で応用されているというケースからもわかるように、矯正歯科で身につけた知識や技術を将来的に幅広く生かせる可能性も大いにあります。
・気配りやサポートに自信のある人
歯科医師の診療補助や予防に関する業務だけでなく、MFTの指導や経過観察の資料作成など歯科衛生士の仕事内容は多岐にわたります。 時にはスタッフのフォローに回る場面もあるでしょう。広い視野を持ち気配り上手で、臨機応変にいろいろとサポートしたり、対応したりすることを好む人はやりがいを感じやすいです。
・長期的な治療に寄り添い、患者を支えていきたい人
年単位での治療を行っていく矯正専門歯科医院では、一人の患者と長期的に関わりを持ちます。患者に深く寄り添った診療を届け、治療後の喜びを共有したいという思いのある人が向いています。
5 矯正歯科の歯科衛生士への転職に役立つ志望動機
志望動機は採用担当者にやる気や熱意を伝えるための大切なアピールポイントです。以下に例文を用いて解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
〈ここがポイント〉
経験を通じて得られた気づきなど、心の動きや矯正歯科に対する関心の高まりが順序立てて述べられています。また、自らセミナーに参加するなど、関心事に対する行動力の高さが感じられます。
6 矯正歯科の歯科衛生士の求人を探すには
矯正専門歯科医院での歯科衛生士の求人は、求人サイトや転職エージェント、ハローワークなどで扱われているのが一般的です。仕事内容に少しでも興味が湧いた、自分にマッチしていそうと感じた人は、希望する勤務地や条件面などに合わせてリサーチしてみましょう。
当サイト「ドクターズ・ファイル ジョブズ」では、矯正歯科の歯科衛生士の求人を多数掲載しています。
エリアや駅、雇用形態はもちろん、「ブランクOK」「子育てママ在籍中」「退職金あり」などのこだわり条件でも絞り込めるので、自分が重視している条件で求人を探しやすいです。ぜひ活用してみてください。
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ここまで、矯正専門歯科医院での歯科衛生士の仕事全般を解説してきました。ワイヤー交換や結紮、MFT、経過観察の資料作成といった専門性の高い業務に携われたり、患者と長く関わり治療が進む喜びを実感しやすかったりと、やりがいを感じられる仕事です。
この記事をきっかけに、矯正歯科をぜひ転職先の選択肢に加えてみてください。
一般歯科医院で8年間、診療補助と口腔ケアに従事しておりました。患者さまから矯正中の日常生活や口腔ケアに関する相談を受けることもあり、専門知識を身につけるべく矯正歯科に関するセミナーなどに自主的に参加するようになりました。
本格的に矯正歯科の専門性を磨き、生かしたいと考えるようになっていた中、「事前カウンセリングに力を入れている」という貴院の理念にふれ、患者さまの矯正に関する悩みに応えたいという私の矯正歯科の原点と重なり、強く共感したことが志望の理由です。
これまで経験を積んできた口腔ケアに加え、事前カウンセリングで患者さまの不安や悩みに応えていき、矯正歯科における口腔管理のエキスパートとなるのが目標です。