いずい歯科クリニック (大阪市生野区／北巽駅)
泉井 秀介 先生の独自取材記事
大阪メトロ千日前線の北巽駅から徒歩4分の場所にある「医療法人 あかり会 いずい歯科クリニック」。2018年7月に生野区に開院した新しいクリニックだ。代表の泉井秀介先生は、歯科医師だけでなくスパイス研究家としても多彩な活動を展開している。また、開業医でありながら現在も大阪大学大学院歯学研究科に所属する泉井先生が注力するのが予防歯科だ。各個人に合わせてオーダーメイドのメンテナンスプログラムを作り、一生を通じての「健口」サポートに尽力している。そんな探究心にあふれる泉井先生の胸の内を存分に語ってもらった。
予防の重要性を普及する身近な存在として開業
ユニークな経歴をお持ちと伺いましたが、歯科医師をめざされた経緯を教えてください。
高校を卒業し、大阪外国語大学在学中からカレー好きが高じて、関西中のカレー屋さんを食べ歩いたり、フリーランスでライターとしてカレーに関する記事を書いたり、カレー研究家として活動するようになりました。そんな中ブラジル音楽を好きになりDJを始めたことがきっかけで、レコードの輸入販売も手がけていきました。不思議なことにカレー好きな人には音楽ファンが多いので、カレーと音楽を合わせたイベントも開催していました。そうして食べる楽しみを満喫する一方で、一生おいしく食べるには歯が大事だなと改めて感じるようになり、もともと医療に関心があったことから、歯科に着目するようになっていったのです。
そして大阪大学歯学部に入学されるのですね。
歯学部に入学してからも続けていたカレー研究家としての活動は大学には内緒にしていたのですが、当時の上官の先生がたまたま私が出演しているテレビ番組をご覧になっていて、スパイスに関する研究を提案してくださったのです。カレーのスパイスとして有名なターメリックには抗菌作用があることが知られているので、歯周病菌の増殖を抑制する効果があるかを科学的に証明してみてはどうかと。その一言をきっかけにスタートしたスパイス研究は、今なお継続中です。ターメリックのポリフェノール成分であるクルクミンは抗菌・抗炎症作用など、さまざまな役割を持っていますので、歯周病予防素材としてのスパイスの応用に向けて取り組んでいます。
開業を決められた理由を教えてください。
私が所属していた大阪大学歯学部附属病院の予防歯科は、歯科に関心の高い方が多く通って来られ、いわば予防歯科における大阪での北の拠点だと感じていたので、私は南の拠点として、もう少し皆さんが気軽に通えるクリニックを作って、予防の重要性を身近に広めていきたいと考えました。引き続き大学とも連携を行っていますので、ここでの治療が難しい患者さんには、大学の協力を得て診療できる強みも生かせます。この地域は代々住んでこられた世帯が大半で、小・中・高と学校が近くにあることから学生さんも多く、外国の方の居住割合も高くて多様性に富んでいます。私はこれまで大学と並行して、開業歯科での一般歯科診療経験も積んできましたので、小さなお子さまから高齢の方まで幅広いニーズに対応した診療で、地域のお役に立ちたいと思っています。
一人ひとりの細菌バランスに応じたアプローチ
先生のご専門は予防歯科ですね。
一昔前は虫歯を削って詰めていた時代ですが、今後は病気を防いで守る時代に移っていくと感じ、予防歯科に注力してきました。所属していた大阪大学の予防歯科学教室では、科学的根拠に基づいた発症予測や疾患の予後予測、病因論に基づいた予防処置を徹底して教え込まれました。その教えをもとに当院でも先端の検査機器を導入し、細菌検査や唾液検査をご希望に応じて行っています。この検査では各個人の虫歯・歯周病の発症リスクに基づき、その人の口腔状況を把握した上での予防ケアが可能です。例えばお口の中の細菌の量が少なくても、悪い菌を多く保有している人は歯を悪くしやすいため、口腔状態を見定めた上での対応が重要です。ブラッシングケアにおいても、100点磨きをしているのに虫歯になりやすい人、歯磨き技術が高くないにも関わらず虫歯になりにくい人がいるのは、こうした個人のお口の中の菌のバランスが影響している可能性があるんです。
ではブラッシングだけでは限界があるのですね。
確かにそのとおりですが、あくまでも毎日の歯磨きケアによる土台があってこその歯科医院でのメンテナンスです。当クリニックの特徴は、患者さん一人ひとりの口腔状況を十分に理解した上で一人ひとりに適したオーダーメイドのメンテナンスプログラムを提案する点にあります。例えば、虫歯や歯周病の発症リスクが高いと考えられる方には、メンテナンスの間隔を短くした強化プランで歯の健康をサポートしていきます。また良い状態の口腔内を維持するにはメンテナンスに通い続けていただくことが重要ですので、技術面はもちろん、きめ細かな接遇にも配慮し、ゆったりとリラックスしてメンテナンスを受けていただける専用ルームを設けています。
診療において気をつけておられるのは、どんなことですか？
患者さんのお話にじっくり耳を傾けて、お悩みをしっかりキャッチすることです。患者さんは十人十色のお口のトラブルを抱えて来院されますが、中には歯科への苦手意識や恐怖心、持病がある方もおられますので、治療にかかる前によくお話を伺い、適切な治療提案をさせていただきます。歯科にトラウマがある方は、どうしても痛くなってからの来院になりがちです。その場合、症状が進んだ状態であることがほとんどで、いくらか痛みを伴う治療が必要になることも考えられますし、状態によっては麻酔が効きにくいこともあります。しかし、極力痛みの少ない治療を心がけて、苦手意識レベルを下げていただけるように尽力しています。プロによる定期的なチェックとお手入れの必要性を理解されて、安心して通えるクリニックを見つけることがその人の歯を守ることにつながりますので、一人でも多くの人のトラウマを解消していくことも予防歯科の役目だと思っています。
「敷居は低く」「奥行きのある診療」をコンセプトに
開業から1年を迎えられ、感じておられることはありますか？
地元の皆さんに愛されるクリニックであるために、スタッフ一同、「患者さん第一」の精神で取り組んでくれているので、会話を楽しみに来られる方も大勢おられます。通いやすい環境づくりとして、お昼休みは1時間と短く、土曜日も20時30分まで診療を行っています。また、保育士免許を持つスタッフがおりますので、要予約となりますが託児サービスも行っており、安心して通っていただけています。さらに高齢化社会により訪問診療が必要になる方が、これからどんどん増えていくと感じますので力を入れていきたいですね。ご家族や介護スタッフの方が歯科の専門的なケアを施すのは無理があり大変です。介護に従事される方々の負担を軽減する意味でも、歯科の果たせる役割が大きい分野だと感じますので、地域医療の一助となれれば幸いです。
休日はどのようにお過ごしですか？
数年前の誕生日に妻からタンドールをもらいました。タンドールというのはインド料理屋にあるナンやタンドリーチキンを焼く壺窯です。当時の業者の方の話によれば、個人宅にタンドールがあるのは日本において2番目だったそうです。休日はそのタンドールを使って家族や友人たちとカレーパーティーをすることが多いですね。得意なのは現地でしかなかなか手に入らないカレーリーフというスパイスを使った南インドのカレーです。実は今もテレビ番組でお勧めカレーを紹介するお仕事を続けています。カレーがきっかけで歯に関心を持っていただけることは、カレー研究家であり、歯科医師である私にとって感慨深いことですね。
伝えたいメッセージや今後の展望について聞かせてください。
歯は持って生まれた財産ですが、失ってから気づかれる方があまりにも多いと感じます。健康である時にそうでない状態を想像するのは難しいですが、せっかくの宝物を失う前に、強力な対処法として「予防」をライフスタイルに組み込んでほしいですね。それには子ども時代から歯を大切にする意識が芽生えることも重要ですので、妊娠時の健診ではお母さんに正しい知識を得ていただき、生後に虫歯菌を定着させないよう気をつけていただいています。「もう少し早く気づいていれば」という悲しい声を一つでもなくし、一生を通じて「健口」でいるためのサポートを使命として地域に尽くしていきたいです。
