酒井医院 (東大阪市/長瀬駅)
酒井 宏純 院長の独自取材記事
近鉄大阪線長瀬駅前の住宅街に「酒井医院」はある。長瀬川沿いに立つクリニックには、地域の患者たちが集まる。多くの循環器疾患・呼吸器疾患を診てきた酒井宏純院長が、病気になる前段階で行う予防の大切さを実感し、患者の生活習慣を少しでも良くするために診療を行っている。病気を治すのは、患者の努力こそが大切というポリシーの院長は、縁の下の力持ちとして、地域の人々をサポートし続けている。訪問診療も介護保険制度が始まる前から実施し、常に患者のニーズに寄り添ってきた。さまざまな相談を持ち込まれるという院長の、愛される素顔に迫った。
循環器と呼吸器の豊富な臨床経験を生かして
まず、先生が医師になろうと思われたきっかけから教えてください。
周りに医師をめざす人がなぜか多かったので、その影響でいつの間にか志していました。不思議なもので、当時、医師になりたいと思っていた人は、みんな夢をかなえています。幼なじみで、仕事も同じで、ずっと付き合いがあるのですよ。そんなふうに選んだ医師の道ですが、良かったと思っています。直接人の役に立てると実感できる仕事というのはなかなかありませんから。常に良い緊張感を持ちながら仕事ができていると思います。
大学院ではどのような研究をなさったのですか?
大学院ではずっと心臓病の研究を続けていて、実習にも参加させてもらったのですが、その過程で循環器、呼吸器など、たくさんの病気を診ました。大学院を修了して、もっと研究に重点を置きたいとアメリカに留学しました。研究のテーマは心臓の心筋細胞のエネルギー代謝について。当時の日本ではできなかったようなことをさせてもらえたと思います。エネルギー代謝がわかると、病気の本体がよくわかるので、どのように治療介入したら良いかということが判断できるのです。
開業時のコンセプトを教えてください。
開業前に勤めていた病院が大阪市生野区にありましたので、隣接した東大阪市からもたくさんの患者さんが来られていました。その人たちを継続して診察したいという気持ちがありましたので、通いやすいこの場所を選びました。開業時に一番思ったのは、なるべく自分のところで検査も治療も完結できるようにしたいということです。だから、検査機器を充実させています。僕の専門である心臓病の一つに虚血性心疾患があるのですが、そのベースには、生活習慣病があることを、長年の経験から実感していました。生活習慣病の予防は、開業医として、重要な役割になると考えましたので、検査はしっかりできるようにしようと思ったのです。薬を出すのも大事ですが、患者さんの生活習慣を変えてもらうのが一番。そのための道具として、目で見て検査結果をしっかり理解してもらうことが大切です。
どのような患者さんが多いですか?
この住宅街の特徴でしょうか、年配の方が多いですね。僕が循環器を専門にしているので不整脈や心不全、虚血性心疾患の患者さんがたくさん来ます。また病院から逆紹介で来られる心臓病の患者さんも多いです。あとは高血圧症、糖尿病、脂質異常症など生活習慣病の患者さんですね。また当院では、呼吸器の検査もできますし、僕自身臨床経験も多いですから、慢性の肺疾患、喘息の患者さんもお越しになります。咳が長く続く人は、紹介などで来られることが多いですね。
患者との距離が近い開業医ならではの役割に力を注ぐ
生活習慣病の予防や管理に力を入れておられるのは、なぜですか?
開業医として、生活習慣病の予防を第一に考えるのは、患者さんがとても多い疾患なのに、何の手立てもなされていないまま放置されていることがよくあるからです。自覚のない人がほとんどですので、放っておくと大きな病気になってしまいかねない。生活習慣病の管理となると、日々の生活の改善が必要で、たまに病院へ行くような種類のものではありません。患者さんと密接に関わることができる開業医がするべきことは、生活習慣病の管理や予防ではないかと切に思うのです。
診察する上で、どのようなことを心がけていますか?
患者さんの自主性を高めるというのがポリシーなので、あまり強く言わないようにしています。ただ、治療に前向きでない患者さんには、意識を変えてもらうことが大切なので、頑張って生活を変化させましょうと根気強くアドバイスしていきます。柱となるのは食事の改善、運動習慣、もちろん薬も用意しています。しかし患者さんの中にはきちんと飲まない人もいるのです。生活習慣病は、初めは症状がありません。だからこそ、定期的な検査をきちんと受けてもらい、薬も正しく飲んでもらうことが重要で、そのためには、患者さん自身の自覚と努力が最も必要となります。僕も努力するけれども、あなたも努力してねという感じで、いつも接するようにしています。そのせいか患者さんからいろんなことを相談されることが多いですね。他のクリニックで受けた検査結果の説明を求められることもあります。きっと信頼してくださっているのでしょうね。
豊富な臨床経験を生かし生活習慣病の予防や管理を実践しているのですね。
生活習慣病の予防や管理は、誰もが持つ元気で長生きするという望み、健康寿命の延伸につながる重要な課題です。患者さんの中には多くの薬を飲みながらサプリメントを服用している方もいます。私は加齢医学を専門的に学んでいるので、食事、運動、薬以外にサプリメントの利用についても指導します。呼吸器に関しては、喘息やCOPDの診断や治療効果の確認に有用な呼吸抵抗測定装置や、呼気NO(FeNO)測定装置を配備しています。呼吸器感染症の診断に有用な多項目同時PCR検査機器も導入しており、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスを含めた15種類の呼吸器感染を、PCR法によって一度に迅速に検出することができます。
気軽に相談して、自分で予防する力を高めてほしい
訪問診療にも対応されているのですね。
水曜と金曜は、午前診と午後診の間に訪問診療を行っています。開業時は念頭になかったのですが、勤務医時代から診ている患者さんから相談を受けて、行うようになりました。介護保険制度ができたのは、それ以降です。国の医療保険制度が改正され、以前のように長い期間入院することはできなくなった今、その受け皿となるのが僕たち開業医です。保険制度が必ずしも患者さんの意向に沿っているものかどうかわかりませんが、その中でも、できるだけのことをしなければいけないと思っています。長年僕のことを信頼して通院してくださっている患者さんが、高齢になり通院できなくなっても、訪問診療で継続して頼りにしていただけるとうれしいですね。最後は患者さんやご家族の希望があれば看取りもできます。
現在の診療体制について教えてください。
当院では、院長である私が基本的に診療を行っていますが、火曜日のみ、堺市東区にあります分院で院長を務める紙森公雄先生が診察にあたっています。分院の松村内科クリニックでは私も火曜日のみ診療にあたっています。紙森先生も、私と同じく日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医ですので、ご安心いただければと思います。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
気軽に受診してほしいですね。予約制を導入し10年くらいになるのですが、予約していなかったら、急患でも来てはいけないと勘違いしている人がいらっしゃいますが、決してそういうことはありません。例えば、血圧の薬を飲んでいる人が風邪をひいた場合など、薬の飲み合わせの問題もありますから、調子が悪くなったときは遠慮なく来てください。あとは、自分で予防する努力を大切にしてほしいと思います。そういうとサプリメントに頼ろうとする人もいるのですが、なんでも飲めば良いということではありません。また中には、薬は飲まないのにサプリメントなら飲むという人もいます。薬の副作用が心配なら、そういうことも含めて相談してほしいと思います。サプリメントが悪いとは言いませんが、自己判断で行わないようにしてほしいのです。薬を適切に飲んで、自己努力で良くなることが望めることのほうが多いものですよ。