おなかクリニック (八王子市/八王子駅)
村井 隆三 院長の独自取材記事
八王子駅と京王八王子駅のちょうど中間、ホテルの向かいにある6階建てのビルが「おなかクリニック」だ。その名のとおり、胃と大腸の内視鏡検査や痔の日帰り手術など、おなかに関係する病気の診療に専門的に取り組んでいる同院。大学の助教授や基幹病院の部長などを歴任してきた村井隆三院長が、鎮静剤を用いた苦痛の少ない内視鏡検査や品質管理システムを取り入れ、患者が安心して受けられるような消化器内視鏡検査の提供をめざす。自らNPO法人を立ち上げ、若者を中心にピロリ菌検査の重要性を啓発し、胃がんのリスク軽減にも取り組んできた村井院長。近年は患者数が増加傾向にある膵臓がんの早期発見にテーマをシフトし、引き続き精力的に活動しているという。そんな村井院長に、同院の特徴やNPOの取り組みの詳細などを聞いた。
消化器内視鏡検査と痔の日帰り手術に特化
こちらのクリニックの特徴について教えてください。
当院は、胃と大腸の内視鏡検査と痔の日帰り手術に特化したクリニックです。胃腸科、消化器内科が専門ですので、来ている患者さんは5〜6割が消化器疾患の患者さんで2割くらいが肛門外科、残りの3割が生活習慣病や風邪、インフルエンザなどのいわゆる一般内科の患者さんです。専門に特化したクリニックをうたっていますが、駅近の便利な場所にあることから、かかりつけ医的な診療も行っています。少しずつではありますが、在宅医療にも取り組んでいます。がん難民という言葉があるように、近年はがんでターミナルケアが必要な患者さんたちの行き場がないという現状があります。少しでもそういう方々の力になりたいということで、がんのターミナルケアを中心に在宅医療を行っており、お看取りもしています。これからますます高齢化が進行すれば在宅医療のニーズは必ず拡大しますので、当院が少しでも貢献できるよう経験を積んでおきたいと考えています。
消化器内視鏡検査について教えていただけますか?
内視鏡検査室は全部で4つあって、約40人の非常勤医師で胃と大腸の内視鏡検査を行っています。ほとんどの検査で、苦痛が少ないように鎮静剤を使用したセデーションを行っていますので、内視鏡検査が苦手だという方でも、安心して検査を受けられるようになっていると思います。大腸内視鏡検査については、もし検査中に切除すべきポリープが見つかれば、その場で切除しています。大腸のポリープ切除、そして痔の手術もですが、出血のリスクがわずかながらありますので、そういうときにはオンコールで対応できるように体制を整えています。
クリニックの大規模なリニューアルを予定していると聞きました。
大腸内視鏡検査はこれから確実にニーズが拡大していくと思われます。しかし、対応できる医療機関に限りがあるという状態です。それに対応できる体制を作っていくことが、消化器内視鏡検査を専門とするクリニックとしての、当院の使命だと思います。また、増大する痔の日帰り手術のニーズに応えるため、2024年にはクリニックの大規模なリニューアルを予定しています。患者さんがより便利で、より快適に診療を受けられるように、環境を整えていきたいと考えています。
NPO法人として、膵臓がん検査の重要性を啓発
肛門外科についても教えていただけますか?
痔の手術については、内・外痔核、裂肛、痔ろうの3種類の痔疾患のすべての手術を日帰りで行っています。肛門外科の診療は、日本大腸肛門病学会大腸肛門病専門医である羽田丈紀(はだ・たけのり)先生が中心に担当していて、2018年12月から2019年11月までに300件以上、2022年には1月から12月までの年間約350件の手術を手がけています。また非常勤ですが、肛門外科を専門とする女性医師も診療を担当しています。肛門外科というのは、特に女性の患者さんには敷居が高くて受診がしにくいところがあると思いますが、そのような方でも安心してかかっていただけるかと思います。
NPO法人としての取り組みについても聞かせてください。
2014年に「NPO法人 二十歳のピロリ菌チェックを推進する会」、通称ハタピの会を設立して、胃がん撲滅を掲げ、若い人を中心にピロリ菌のスクリーニング検査を行ってきました。胃がんのほとんどはピロリ菌が原因といわれていますから、ピロリ菌の感染率が下がると胃がんも減って、胃がんで亡くなる方も減ると考えられます。日本では20代のピロリ菌の感染率は10%前後と少ないのですが、いかに見つけて除菌をするかが大切です。当院を含めハタピの会に賛助してくれている先生方の医療機関では、患者さんの負担が少ないピロリ菌の尿検査も行ってきました。こういった活動のかいもあってか、現在はピロリ菌の感染率が下がって胃がん自体の件数も減っていますので、2021年からはテーマを胃がん撲滅から「膵臓がんの早期発見・診断」に変更して活動しています。
なぜ、次のテーマを膵臓がんの早期発見・診断に決めたのでしょうか?
膵臓がんは他のがんと比較して5年生存率が非常に低いという特徴があります。ただ、ステージ1と呼ばれる早い段階で見つけた場合、5年生存率が大きく上がるといわれています。つまり、いかに早く見つけるかが重要なのです。しかし胃がんや大腸がんと同様に初期の頃はほとんど症状が出ませんので、背中やおなかの痛み、黄疸などの症状が現れた頃にはかなり進行していることが多いのです。当院ではおなかや胃の不調を訴えて来院した患者さんには、患者さんの症状や希望に応じて、胃や大腸の内視鏡検査だけでなく、膵臓がんの早期発見につながる超音波検査、CT検査、血液検査などを提案することもあります。また血液検査を行う際には、患者さんの費用負担が増えない範囲でできるだけ検査項目を増やし、膵臓がん発見のヒントになる酵素の数値なども積極的に調べるようにしています。
患者の安全のために検査の品質管理にも注力
検査の品質管理にも取り組んでいるそうですね。
私は開業をする前に東京医科歯科大学の大学院で、医療経営、マネジメントの勉強を2年間しました。そこで学んだのが、品質管理です。過去、そして現在も、いろいろな医療事故が起きていますが、そのような問題が発生するのは、医療の品質管理が徹底されていないことに最大の原因があると思うのです。実際に医療の品質管理は難しいのですが、当院では、例えば胃の内視鏡検査なら、組織を取って検査をする生検をモニターしたり、大腸内視鏡検査ならポリープの切除率や、一番奥にある盲腸までの内視鏡の到達時間をモニターして、数値化することで内視鏡検査の品質を保つよう努めています。加えて、当院で内視鏡検査を受ける方には全員、スマホをお渡ししています。院内の各所にセンサーがついていて、スマホで場所をキャッチするのです。そうすることで、患者さんの安全を確保するように努めています。
お忙しいと思いますが、どのようにリフレッシュをしていますか?
61歳になった時にサックスを始めて、おなかスウィングスという当院のバンドで演奏しています。数年前、当院に通ってくださっている患者さんが、ご自身が100歳になられた気持ちをつづった詩を書いて持ってきてくださったのです。それがあまりにも素晴らしいので、私がサックスを習っている先生に曲を作っていただいてCDを作成しました。これを市民講座で当院のスタッフや仲間と一緒に生演奏したり、CDを他の患者さんにプレゼントしたりしています。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
胃がんや大腸がん、そして膵臓がんは、早期のうちには症状がないことがほとんどです。検査をしなければ見つかることはほぼありませんし、症状が出てから検査をすると、ほとんどの場合は進行がんで、場合によっては手遅れということもあります。ですから、いかに定期的に検査を受けて病気を早期発見して、早期治療に結びつけていくのかが一番大切です。しかし、日本の医療保険制度では、何かの症状や病気もない人に対しては保険内で検査をすることができませんから、健診や人間ドックを利用しながら、病気の早期発見と早期治療を心がけていただけたらと思います。