田島歯科クリニック (世田谷区/松陰神社前駅)
田島 有美 院長の独自取材記事
東急世田谷線の松陰神社前駅から歩いて5分ほど。風情あふれるこの街の一角にある「田島歯科クリニック」は、笑顔をモチーフにしたコップに歯ブラシのマークが目印だ。田島有美院長は2010年の開業以来、地域の誰もが気楽に立ち寄ることができる場所をめざし、一般外来歯科のみならず訪問歯科、小児歯科などさまざまな分野に取り組んできた。歯の予防・治療・管理をトータルで行ってくれる同院は、まさに地元密着のクリニック。新たに細菌検査の機器を取り入れ、予防歯科にますます注力するなど、日々技術のアップデートにも余念がない。さばさばした語り口の中にも温かな真心を感じる田島院長に、理想とする歯科医療、めざすべき姿についてたっぷりと語ってもらった。
新人時代の恩師や友人は生涯の財産
歯科医師をめざすようになったきっかけは何ですか?
私が今、こうして歯科医師として働いていることを不思議に思っている友人もいるでしょうね。小さい頃の私は、絵を描くのに夢中な芸術好きの子どもだったんです。美術展などで入選したことも何度かありました。周りの人たちは芸術関係に進むものと思っていたかもしれません。でも実際は進路を決める時期になった時、自分は何を学びたいのか、そもそも大学に行くべきなのかと悩んでしまいました。そんな時、母が突然「歯学部に行ったら?」とアドバイスしてくれたんです。親族に医師や歯科医師がいるわけでもなく不思議なのですが、実はこの時、この母の言葉がすんなりと自分の中に入ってきて。それで日本大学松戸歯学部に入りました。こうやって開業し仕事をさせてもらっていると、歯科医師が自分にすごく合っていると実感する瞬間があるんです。改めて小さい頃から母が私のことをよく見ていて、正しい方向に導いてくれたんだなと感じ、感謝しています。
大学進学後はどうされていましたか?
大学へは実家から片道1時間半かけて通いました。体育会の水泳部に所属していて、アルバイトもしていたのでかなり忙しい学生生活だったと思います。しかし歯科医師国家試験に確実に合格したいという気持ちが強かったこともあり、学問としての「歯学」と真剣に向き合う時間を大切にしていました。当時は研修制度がなかったのですが、合格後の1年間は実務経験を積む目的で、神保町の歯科医院で働きました。その後大学の友人に紹介され、赤坂見附にある大規模な歯科医院で勤務するチャンスを得て、5年ほどお世話になりました。このクリニックは一般歯科から審美、インプラントまでさまざまなジャンルに力を入れていたので、新人歯科医師としてバランスよく、多くのことにチャレンジできましたね。何より患者さんと向き合う一人の歯科医師としてのイロハを学べました。
新人歯科医師時代に得た一番のものは?
技術的にも精神的にも多くのアドバイスをくださった私の師匠や、ともに働いていた同僚たちは一番の財産です。診療に関して悩んだ時は、いまだに師匠や同僚に相談しています。これは開業した今だからこそ強く感じることですが、患者さんが口腔内に抱える問題は千差万別で、自分が今やっている治療が本当にベストな選択なのかと思い悩むことが度々あります。アプローチは他にもあるはずなのに、個人でやっているとどうしても考え方が固定化されてしまうと思うんです。そんな時、師や友人にアドバイスをもらうと視野が広がり、フレキシブルに頭を働かせることができるようになります。そういうつながりを持ち続けていることは、私にとってありがたいことです。大学時代の同級生も、私が出産した時に代診に来てくれたりして、年を重ねた今だからこそつき合いが深まりました。歯科医師としても互いに成熟した年齢になったので、交流することで学ぶことは多いです。
すべてを伝えることで患者の納得や安心を得る
その後、開業されたのですか?
赤坂見附の歯科医院は居心地も良く仕事にも先輩・同僚にも恵まれていたので、このまま骨を埋めてもいいかなと思っていた時もあったのですが、その後開業したての知り合いに依頼され、浦和のクリニックを手伝うことになりました。それまではビジネス街で大人ばかりを診療していたのですが、まったく環境が違う住宅街に移り、突然子どもをたくさん診ることになりました。初めは戸惑いましたが、対応するためにたくさん勉強し直しました。このことが私にとっての大きな転機となりましたね。生涯にわたって口腔内の健康を保つには、子ども時代の歯科治療・教育が果たす役割は極めて大きいのです。浦和で小児歯科の経験を積んだことは、現在、当院で行っている小児の予防歯科に大いに役立っています。もちろん、予防歯科は大人から始めても十分ですが。
こちらの歯科医院の治療方針を教えてください。
治療に関するすべての情報を患者さんに伝えることです。なぜならば今まで常々、歯科医師から患者さんに伝えられる口腔疾患に関する情報が、あまりにも少ないのではないかと疑問に思っていたからです。歯が痛くなって、クリニックに来て治療されるだけでは、自分の口の中でどんなトラブルが起き、どういう因果関係で痛みを覚え、なぜその治療法が選択され、結果どうなるのか理解し難いでしょう。それは患者さんにとって不幸なことだと思うんですね。そこで当院では最初に治療前の患者さんの口腔内状況について詳しく説明し、治療の方法については可能な限り複数の選択肢を示した上で、患者さんが最も納得できる治療法を決定するように心がけています。このインフォームドコンセントに十分に時間を割くことが、最終的に患者さんの満足度を高めると確信しています。
お子さんの診療で何か心がけていることは?
ありがたいことに、今まで子どもに激しく拒絶されたことはほとんどありません(笑)。良い患者さんに恵まれているんでしょうね。お子さんが初めて来院する時は自分の治療ではなく、親御さんについてくることが多いのですが、そうやって通い慣れた頃に自分の治療が始まるというのが良いのかもしれません。1点だけ、「無理はさせない」ということは気をつけています。なるべくお子さん本人と顔を合わせて話すようにしていますし、治療が理解できる年齢のお子さんだったら納得してもらうまでじっくりつき合います。嫌がっていたらその日は何もしません。もっとも、気分が乗って治療に応じてくれそうなら、そのまま勢いで済ませてしまったりなど、その子次第で対応しています。
目標は治療が必要な患者がゼロになること
これから力を入れていきたい分野は何ですか?
一番注力したいのは予防歯科です。歯は一度でも治療すると口の中全体のバランスが崩れてしまいますし、虫歯になった歯は再生しません。だから予防に勝る治療はないんです。虫歯のごく初期の段階でいち早く発見すること、虫歯になる前にケアすることが最も大切ですから、当院では患者さんそれぞれに合った頻度で検診することをお勧めしています。開業当初から予防歯科のレクチャーには力を入れてきて、最近になってずいぶん理解が深まったかなと実感できるようになりました。昔に比べると総入れ歯の人が減っているので、患者さんの自己管理もうまくなってきているのではと思っています。またこの度新しく細菌検査の機器を導入したのですが、これは歯周病や虫歯になる危険度を把握し、リスクを軽減させるためのものです。母親から乳児に菌がうつる「親子感染」を防ぐためにも、細菌検査は重要です。これからこの検査の周知を図り、定着させていきたいですね。
休日の過ごし方は?
小さい子どもがいるので一緒に公園に行ったりしています。自宅に猫を2匹飼っていて、猫と過ごすのも良い気分転換になっています。幼い頃は小児喘息で動物が飼えなかったので、大人になってようやく夢がかないました。他には好きな演奏家の方にピアノを習ったりもしているので、たまに発表会に出演することもあります。最近は練習時間が足りなくて本番で失敗することもありますが(笑)。
最後にメッセージをどうぞ。
昔からの人が住んでいて、商店街があり、公園もある。そんなこの街が本当に大好きです。地元の皆さんに喜んでもらいたいというのが一番の仕事の動機になっていて、ホワイトニング装置やデジタルエックス線装置など機器のアップグレードをしているのもそのためです。細菌検査も始めたので、これからますます予防歯科に力を入れて治療が必要な患者さんを減らしていきたいですね。今後もずっとこの場所で、皆さんの歯の健康を助けたいと思っています。