星野泰三 院長の独自取材記事

免疫細胞治療を主体にしたテイラーメイドの医療を提供

こちらはがんの治療を専門に行っているクリニックだそうですね。

はい。がんの治療と聞くと、多くの方は、手術や抗がん剤治療、放射線治療といった、いわゆる、がんの標準治療を思い浮かべるのではないでしょうか。当院が行っているのは標準治療ではなく、「免疫細胞治療」と呼ばれる先進医療です。さらにこの免疫細胞治療を補助する治療法として、温熱治療や漢方薬治療、超高濃度ビタミンC点滴、薬膳やサプリメントによる食治療といったメニューもそろえており、それらを患者さんの症状や重症度、ご要望に応じて組み合わせる、テーラーメイドの治療プランを提供しています。

免疫細胞治療とはどのような治療なのですか？

免疫には体内に侵入した細菌やウイルスを感知し、攻撃する働きがあります。がんは免疫病とも呼ばれているように、その発症には免疫機能の異常が深く関わっており、がん患者の多くで、免疫力の著しい低下が見られます。免疫細胞治療とは、患者さんの免疫細胞を活性化することにより、がん細胞を攻撃する免疫力を高める治療法です。免疫細胞治療にはいくつか種類がありますが、当院が力を入れているのは、「樹状細胞」を用いる方法です。免疫細胞の一種である樹状細胞には、がん細胞を攻撃するNK細胞やキラーT細胞にがんの情報を伝え、攻撃の指令を出す働きがあります。実は2011年、ラルフ・スタインマン博士がノーベル医学生理学賞を受賞したのが、この樹状細胞に関する研究で、免疫的ながん治療のなかでも有望な治療として、大きな注目を集めているところです。もう一つ有望視されているのがペプチドワクチンです。ペプチドワクチンには樹状細胞と結合することで、がんの目印（抗原）を提示する働きがあり、NK細胞やキラーT細胞はその目印を覚えて、がん細胞を特定し、集中攻撃するのです。当院では、この樹状細胞とペプチドワクチンを組み合わせた治療をメインに行っています。具体的には、体外に取り出した患者さんの樹状細胞にペプチドワクチンを取り込み、培養したうえで体内に戻します。日本ではまだ馴染みの少ない治療法ですが、アメリカでは次世代のがん治療として期待され、現在、前立腺がんに対する臨床治験が最終段階に入っているところです。

免疫細胞治療のメリットを教えていただけますか？

患者さんご自身の力でがんを治す、自然な治療法ですから副作はほとんどありません。また外来での治療になりますので、仕事はもちろん、スポーツ、旅行といった趣味やレジャーとの両立も可能です。治療の翌日にゴルフに行った患者さんもいらっしゃるくらいです。

大切なのは患者の気持ちや哲学に合った治療を行うこと

どのようながんも治療対象になりますか、標準治療との併用は可能ですか？

もっともコストパフォーマンスがいいのは予防なので、例えば、手術直後に再発予防のために免疫細胞治療を受けることをお勧めしたいですね。ただ、実際にいらっしゃる患者さんで多いのは、治療法が少ない、胆管がんや膵臓がんの方、あるいはかなり進行したがんの方です。唯一、絨毛がん（じゅうもうがん＝胎盤を構成する絨毛にできるがん）には効き目が少ないとされていますが、基本的にはどのがんにも適用できる治療法です。当院の患者さんの上位3位は、肺腺がん、大腸がん、膵臓がんです。また標準治療との関係ですが、やはり標準治療は根拠やデータが豊富ですから、その患者さんにとって選択する標準治療があるのなら、私はそれを大切にしたほうがいいと思います。まずは標準治療を優先して、それが終わるのに合わせて免疫細胞治療を始めるのもいいし、標準治療だけで治るのが難しいと思えば、併用して受けてもいいと思います。抗がん剤治療と免疫細胞治療を併用すると抗がん剤の効果が低下すると批判する先生もいらっしゃいますが、それは的外れな意見です。現在、保険で認可されている医療用医薬品のなかにも、免疫細胞治療同様、免疫活性化作用を持つものが存在し、おもに胃がんの治療において、抗がん剤と併用して使用されています。厚生労働省が十分な科学的根拠があるとして認可しているわけですから、安心して治療に臨んでいただきたいと思います。

診療の際に心がけていらっしゃることはありますか？

患者さんやご家族がどのような考えをお持ちなのか、よくお話を聞くことです。治療に対する考え方は十人十色で、どんなことをしても助かりたいという方もいれば、自然のままに生きたいと抗がん剤治療を拒否する方もいます。大切なのは患者さんの気持ちに沿った治療を行うことですから、医師としての考えを押しつけることがないよう心がけています。とはいえ、ただご要望を伺うだけでなく、標準治療を受けない場合のリスクについてもきちんとご説明し、時間をかけてじっくり話し合いをします。もう一つ留意しているのが、患者さんに免疫細胞治療のメリット・デメリットをしっかり理解していただくことです。なかには免疫細胞治療に過大な期待を抱いている方がいますが、いくら先進医療といえども100%の効果を保証するものではなく、効かない場合もあります。その際、期待が大きいほど失望も大きくなりますから、きちんと理解されていないなと感じた時は、治療をお断りすることもあります。

夢は野口英世のように海外で評価される存在になること

先生が医師を志したきかっけを教えていただけますか？

幼稚園の時に野口英世の絵本を読んで強烈な印象を受けたことが、医師を志したきっかけになりました。小さい頃からおもちゃの顕微鏡とか、科学的なものが好きだったので、海外で活躍して偉大な発見をした野口英世に憧れを抱きました。もう一つのきっかけは、小学校の保健体育の授業でチフスや天然痘といった法定伝染病の話を聞かされたことです。やや神経質なところがある子どもだったので、その話を聞いた後、少しでも湿疹やできものが出ると、「これは天然痘なんじゃないだろうか」と心配になったものでした（笑）。そのうち心配することにも疲れてしまって、これは将来、自分が医師になって免疫やワクチンの研究をするしかない、と考えるようになったんです。当時は、医学部を設置している大学が少なかったことなどから、中学時代の担任に、「医師の息子でないと医師にはなれない」と言われたこともありましたが、その時の悔しさもバネにして医師になり、今日に至っています。私のように小さな頃からの意志を貫いて医師になった人はめずらしいようですね。

リフレッシュのために楽しまれているご趣味はありますか？

時間がある時に水泳をすることと、絵画鑑賞ですね。絵画は印象派が好きで、今一番好きなのはアンドレ・ドランという画家の「アルルカンとピエロ」という絵です。荒涼とした砂漠にバンジョーを持った道化師が佇む絵なのですが、華やかな衣装とは対照的に道化師は無表情で空虚な目をしているんですね。砂漠で演奏したところで聞いてくれる人なんていないからなんでしょうけれど、一番感動したのはバンジョーに弦が張られていないことで、空虚さの極みだなと思いました。そんなふうに想像をめぐらせながら、自分なりに絵の解釈をすることが、とても楽しいんです。

最後に先生の今後の展望を教えていただけますか？

そこは初志貫徹で、野口英世のように海外で大なり、小なり認められるようになりたいというのが最終的な目標です。言葉の壁がありますし、国によって医師の考えも違いますから、簡単なことではないでしょうけれど、海外で通用するレベルになることが、国内で私たちが行っている治療のレベルアップにもつながるはずです。実現するかどうかわかりませんが、夢を持つのは大事なことなので、あきらめず前に進んで行きたいと思います。