山下診療所 大塚 (豊島区／大塚駅)
山下 巌 理事長の独自取材記事
自由が丘にある「山下診療所自由が丘」の姉妹院である「山下診療所大塚」は、内科・小児科・耳鼻咽喉科と歯科を標榜する独特の診療スタイルが特徴。複数の専門医が勤務し、多角的な視点で高精度な医療を提供してきた。2015年、大塚駅正面のビルに拡大移転。待合スペースを工夫して感染に配慮するほか、衛生管理システムを一新し、CTやマイクロスコープなどの先端医療機器も設置。さらに質の高い医療をめざす土台ができた。「医学には西洋医学もあれば東洋医学もある。また、体の治療が必要な方もいれば、心のケアを求めている方もいる。あらゆる手段を尽くし、最善の治療を考えることが、かかりつけ医の役割です」と語る山下巌理事長に、医療にかける熱い思いを聞いた。
2015年移転拡大。滅菌・感染対策と先端設備の導入
こちらの医院は、 自由が丘にある本院の分院だとか。
自由が丘は1964年に母が歯科医院として開業し、現在は内科と歯科の診療をしています。ここ大塚院は、1975年に開業医の先生から継承し歯科診療を開始。当時は「歯科学研究所」の名称で口腔外科の先生方が大学の医療や理念を実践する場でもありました。その後私も医師になり、外科や頭頸部外科・口腔外科・免疫学を学びながら、こちらで診察するように。1994年からは歯科・口腔外科に加えて内科・小児科・耳鼻咽喉科を併設。以来、歯科も医科もどちらかの付属ではなく、ともに一流の医療をめざしています。
2015年に移転されたのはなぜですか？
歯科は、歴代の歯科医師の信頼も厚く、患者さんの評判も良かったので、診療台が不足気味でした。そこに医科を併設し、徐々に患者さんが増え、手狭になっていました。特に待合室は内科と歯科の患者さんが一緒だったこともあり、発熱の患者さんは裏の控室に通すなど、工夫して何とかやりくりしている状態だったんです。そんな中、耐震面を配慮して向かいのビルへの移転の話が出てきたのです。大塚駅から徒歩10秒だったところが、移転後は徒歩30秒となりますが、耐震面で安全になり、銀行が入っているビルでわかりやすく、患者さんにもご不便はおかけしないだろうと移転を決めました。
広々とした待合室は、居心地がいいですね。
移転にあたり、受付を挟んで医科と歯科で待合スペースを分離して感染対策を強化しました。また、待合室にいる時間を最小限にするため予約・順番システムを導入。外出してもスマホで診察の進み具合が見られるようになりました。それでも生ずる診療待ちを少しでも快適に過ごせるよう、待合室はゆとりのある配置にし、カフェのように電源付きのカウンター席もつくりました。歯磨きや化粧直しができるパウダールームもあります。院内はすべてバリアフリーにし、車いすでも移動できるようになりました。
治療環境についてはいかがですか？
特に力を入れたのは歯科の衛生環境整備です。滅菌器や洗浄機をグレードアップし、粉塵吸引システムや、ユニットを流れる水の洗浄システムを導入。歯科のユニットはすべて個室にし、カウンセリング室や術後のリカバリールームも作りました。医科は診察室が二つと耳鼻科専用ユニットが同時に稼働できるようになりました。被ばく量の少ない頭頸部専用CTはインプラントや口腔外科、耳鼻咽喉科の診断に役立っています。耳鼻科の拡大顕微鏡（マイクロスコープ）や電子スコープのおかげで診断・治療の精度が向上しています。
医科と歯科が融合。トータルで診る独自のスタイル
医科と歯科を同時に受診できる医院は珍しいですね。
大学の口腔外科にいた私の父は、「口腔は人の尊厳にかかわる重要な場所。歯科と医科に分けて考える必要はない」とよく話しており、その影響で、私も医科歯科両方に精通した医師になりたいと考えるようになりました。現在、医科と歯科を標榜してトータルに診療している医院は多くはありません。しかし「かかりつけ医」であるからには、幅広く体の相談にのれるほうがいいに決まっています。当院には医科・歯科各分野で高度な知識、技術を持ったドクターたちが在籍し、「かかりつけ医」としてどんな相談にものるという姿勢を共有しています。必要に応じて院内で対診をし、ディスカッションを重ね診療の質の向上に努めるほか、入院や手術が必要な場合は、ネットワークを駆使して信頼できる医療機関をご紹介し、その後の経過もしっかりとフォローしています。そうした責任ある対応が、私たち「かかりつけ医」の果たすべき役割だと考えます。
医科と歯科が融合することのメリットは？
まず、患者さんのメリットは、複数の病院へ通う必要がないこと。例えば副鼻腔炎の方が歯痛や頭痛を訴えたとき、鼻は耳鼻科、歯痛は歯科、頭痛は内科をそれぞれ受診すれば、治療もバラバラで薬も増えてしまいます。医科と歯科を隔てなく診療できれば、通院の手間が省けるだけでなく、治療方針も一貫します。最近、歯周病と生活習慣病の関係が注目されています。歯周病が糖尿病を増悪させ、糖尿病が歯周病を増悪させるのです。この負のスパイラルを防ぐには、医科と歯科が連携し、効率よく治療を進めることが求められます。一方、歯科医師にとって医科との連携は重要です。持病を持った方の歯周病やインプラントなどの外科手術は、内科のバックアップではじめて安全を担保できます。大事なことは、患者さんをパーツで考えるのではなく、全身をトータルで診るということ。こうした総合的な医療が、患者さんの健康維持に役立つと考えています。
医師同士の連携が大事なのですね。
当院のように多くの医師・歯科医師がいる医院では、志を共有することがとても大切です。幸い患者さんから、どの先生に当たっても丁寧に説明してくれるという評価をいただいています。治療方針は、機械的に統一するのではなく、その先生の個性を尊重するようにしています。それぞれの診療手法が互いに勉強になりますし、良いところで刺激しあい、診療の質の向上を図っていきたいと思っています。当院では在宅医療も手がけおり、医療従事者専用のSNSを採用しています。非常勤の先生でも患者さんの変化に対応して意見やアドバイスを送ることができます。
目の前の患者一人ひとりに合った医療を実践
漢方治療も行っているのですね。
西洋医学は確かに優れていますが、西洋医学よりも東洋医学が適している疾患や症状もあります。「食欲がわかない」「首や胸が詰まった気がする」という訴えや、検査をしても原因が見当たらない場合には、症状改善を目標に漢方薬を処方することがあります。女性の更年期障害にも漢方薬は有効です。もちろん、すべての人に効くわけではないため、その人の体質や体調・価値観などを考慮しながら処方しています。何より肝心なのは「その人に合った、最善の方法で治療を行う」という考え方。医学には西洋医学もあれば東洋医学もある。同時に、体の医療もあれば心の医療もある。それらを複合的に組み合わせ、その方に最善の医療を提供することが本当の医師の務めであり、全人的な医療だと考えます。
印象に残っている患者さんはいますか？
家族ぐるみで拝見してきた働き盛りの男性の患者さんです。胆管がんが見つかり、高度医療センターで治療を受けようとしたところ、末期で打つ手がないと言われたそうです。当院に来られ、診療を拒否された怒りやがんが見つかった不安を吐露されました。ご本人は何とかしてがんと闘いたかったのです。そこでセカンドオピニオン先や新たな治療先を一緒に探し、折々の状況報告をしてもらうように。すると「先生と話してやっと眠れるようになりました」といって仕事にも復帰し、趣味のロードバイクも再開し、お亡くなりになる数日前にも遠方から笑顔でお話に来られました。治療は薬や外科的なものだけではありません。その方の悩みをお聞きし、必要なアドバイスをして心の支えになることも大事だと思うのです。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
医師として大事なことは三つあると考えています。一つは最新の医療情報を収集すること、二つ目は最高の技術の習得をめざして研鑽すること。三つ目はそれらを踏まえた上で、目の前の患者さんに対して「どんな治療が最善か」と考え、的確に判断すること。最も大事なのがこの判断力です。プライマリケアを行う家庭医として、健康な生活を守るため、医師としての人格や技量を磨いていかなくてはなりません。当院のすべての職員が密に連携し、「医の心＝メディカルマインド」を共有しながら、診療に臨みたいと思っています。
