古川歯科 (品川区/大森駅)
古川 潤一郎 院長の独自取材記事
大森駅より徒歩約3分のビルの2階にあるのが、「古川歯科」だ。駅前の商業エリアであると同時に、古くからの住民や新たに建ったマンションに住むファミリー層など、幅広い年代が集う地域にある同院。古川潤一郎院長は1993年の開院以来、歯科診療を通じてこの街の変遷を長く見守ってきた。そんな古川院長は、前職から30年以上もともに歯科診療に携わってきた歯科助手、15年以上勤め続けているという2人の歯科衛生士という結束の強いチームによる歯科診療で、地域の人々の口の健康に寄り添っている。明るく軽快な雰囲気の古川院長に、診療方針や歯科医師として大切にしていることなどを聞いた。
先々の口腔環境を見据えた一人ひとりに寄り添う診療を
どのような患者さんが利用していますか?
私はこの場所で30年以上開業していることと、現在、地域の中学校の校医をしていることから10代から80代の幅広い患者さんに通っていただいています。開院当初からの患者さんが、今では50代から80代になって、最高齢では97歳の方がいます。最近は高齢の患者さんの割合が増えました。地域に根づいてきたこともありますし、日本の人口構成の変化や自身の歯を維持している高齢者の方が増えたことが理由と言えるでしょう。私は、患者さんの口腔内の状態から10年後20年後の様子を想定し、大きな処置になる可能性があればお話しし、先々のことを考えて、今何をしているのか、日々どう過ごしてほしいかを説明するよう心がけています。
力を入れていることはありますか?
当院では、品川区成人歯科健康診査や品川区妊産婦歯科健康診査を行っています。私事ですが、数年前に区の特定健診で大腸がんが見つかり手術を受けましたが、幸いなことに初期で見つけていただいたので大事には至りませんでした。また、定期的に健診を受けている人は、かかる医療費が少ないという調査結果もありますし、歯に限らず健診を受けるのは自分の健康を見つめ直すきっかけになると思います。これらの経験や理由から、健診や専門家による予防指導の重要性や自分の健康に対するモチベーションを高めることの大切さを再認識したんです。当院では、歯科検診で虫歯や歯周病の早期発見や早期治療に加え、顎関節症や咬耗症、粘膜疾患のチェックもして、必要なら予防の指導も行います。そして、例えば歯磨き指導では高度なテクニックを教えるのではなく、患者さん自身が継続して行えることを伝えるようにしています。
高齢者の口の健康のサポートにも力を入れていると伺いました。
品川区は「高齢者歯科健診」の機会を増やしました。平成に入り、80歳で20本の歯を残そうという8020運動が始まりました。当時80歳で自身の歯を20本以上保つ人は10%に満たないといわれていましたが、現在は20本の歯がある80歳が50%を超えています。この推移を考えると、長年歯科医師が取り組んできた仕事は間違いではなかったと思いますね。20本の歯が残っていれば、だいたいのものは噛むことができますから、家族で同じ物が食べられるでしょう。私が子どもの頃には同居のおじいちゃん、おばあちゃんがいて、一緒に食卓を囲む家庭も多くありました。同じ物を食べてみんなでおいしいと言い、共感し合えることは楽しい食事となる一つの要素だと思います。「食べることは生きること」だと考えていますので、これからも食事を楽しめるようにサポートしていきたいですね。
「食べることは生きること」。予防を意識した歯科を
噛めることは大切なのですね。
歯科医師は噛むことばかりを考えてしまいがちですが、私は食べ物を飲み込むところまでがすごく大事だと考えています。それに、私は今60歳ですが、そろそろ嚥下障害が始まっていてもおかしくないんです。私は、口のトレーニングをすると嚥下障害の進行を遅らせることにつながると考えています。ですから、特に高齢の患者さんは飲み込みのところも注意して診るようにしていますし、必要なら指導もします。また、もし好きな食べ物がもう噛めないという話があれば、こうしたら食べられるようになるんじゃないかというアドバイスも行います。とにかく栄養を取ることの重要性を理解してもらって、食べることを諦めないでほしいと思っています。
ほかに力を入れていることはありますか?
新型コロナウイルス感染症の流行が過ぎ、マスクをしなくなったこともあって、見た目の要望からノンクラスプデンチャーと呼ばれる引っかける金属を使わない義歯を希望する人が増えています。また、保険外のホワイトニングは若い人がするイメージですが、当院では60歳以上の希望者が多いんです。何がきっかけであっても自分の口の健康や見た目に興味を持つのはとても良いことです。ホワイトニングは、この年で恥ずかしいみたいなことを言う人も少なくありません。恥ずかしいことなんてまったくありませんから、希望があればどんどん相談してほしいですね。ほかに、歯ぎしり防止用のマウスピースの相談も増えています。歯ぎしり防止用のマウスピースは保険診療で作ることができますから、こちらも気軽に相談してください。
診療で心がけていることは何ですか?
患者さんが帰宅するまでは診療の一環として責任があると考えています。診察室に急いで入ってきた患者さんがもし肩で息をしていたら、血圧の問題があるかもしれませんから、呼吸が整うまでは麻酔の注射をしてはいけません。歯だけを診ているのでなく、患者さんが診察台にいる前後も観察して異変にいち早く気づくことがとても大事だと考えています。また、患者さんの訴えに耳を傾けることも大切ですが、それだけにとらわれず、フレームを広げて見極めることも歯科医師としての務めだと思います。例えば、顎関節の痛みの訴えが、実は中耳炎のこともあります。まれにですが、心筋梗塞の症状として歯痛が起こることもあります。そのような疑いを持てば内科の受診を勧め、なるべくその場で私が内科の先生に電話して紹介するようにしています。
必要な治療は何かを真摯に考える姿勢を大切にしていく
患者さんへのきめ細かな対応を心がけていると伺っています。
待合室から診療室に入るところに少しの段差があるので、すべての患者さんに、「段差に気をつけて」と声をかけています。高齢者の場合は、受付スタッフがエレベーターに乗って1階までご一緒しています。ビルの出口にもほんの少しですが段差があるので、お見送りしながら、きちんと歩いて帰る様子を見てもらっているんです。また、子連れで受診されるお母さんには、受付スタッフが待合室でお子さんを見守る体制を取っています。子育て中は、自分の歯のことは後回しになりがちですよね。せめて産後歯科検診時は、「自分のための時間」にしていただきたいと思っています。
スタッフとの連携も大切ですね。
患者さんから見た当院のイメージは、スタッフ8割、先生2割って感じじゃないかな(笑)。長く勤めているスタッフばかりで、患者さんは顔なじみがいると安心感があると思います。それに、歯医者さん嫌いでなかなか足が向かなかった人が、たまたま当院のスタッフと気が合ったのか、転勤してもすごく遠くから来てくれているんです。予約を取る時の会話、ちょっとした歯の相談、まずそれを受けるのはスタッフです。うちのスタッフは皆、ベテランで優しいんですよ。私が気づかない患者さんの様子も知らせてくれます。だから、私はスタッフにものすごく感謝しているんです。
最後に読者へメッセージをお願いします。
長く歯を維持するために、「治療より予防」をしてください。定期的な検診はとても有用です。症状がなくても「検診をしたいです」と予約はできますので、健康の第一歩として行動してみてください。予約制を敷いていますが、医療機関として、急な症状の患者さんの対応はもちろん随時します。遠慮なく受付までお電話ください。専門外のご相談もよくいただきますので紹介先と適切な連携を整えています。目の前の患者さんを私自身や家族に置き換えてイメージし、何がその患者さんに必要なのだろうかと考える。これからもその姿勢は変えずに日々の診療に取り組んでいきたいです。