川口いん整形外科 (川口市/戸塚安行駅)
殷 鐘晃 院長の独自取材記事
2024年6月に新規開院した「川口いん整形外科」。院長の殷鐘晃(いん・ちょんは)先生は東邦大学医学部を卒業後、順天堂大学医学部附属順天堂医院の整形外科教室に入局し経験を積んできた、日本整形外科学会整形外科専門医だ。勤務医時代に多くの患者を診てきた中でリハビリテーションの大切さを実感したことから、開業を決めたという。広さにこだわったという開放感のある院内は白を基調とし、木目とモスグリーンがアクセントになっているスタイリッシュなデザインだ。インタビューでは明るくて話しやすい殷院長に、開業までの経緯やリハビリテーションにかける思い、今後の展望などについて話を聞いた。
リハビリテーションの大切さを実感し、開業を決意
まずは、開業までの経緯を教えてください。
健康に過ごすことをめざせる、QOL(生活の質)の向上を図れる科だと考え、私は整形外科を選択しました。長生きするための延命治療ではなく、元気に活動できる期間を増やす医療を提供したいと思ったんです。そんな思いを抱きながら、病院で多くの手術を経験してきました。しかし手術をした後の患者さんは退院やリハビリテーションで転院してしまうことが多いことから、勤務医としては機能回復や生活・社会復帰までを見守れるケースはほとんどありませんでした。そのことに気がついてからは、治療のほとんどは手術で完結するのではなく、リハビリテーションと両輪で進めていくものだとも思うようになったんです。それから次第にもっと深く患者さんの生活に介入したい、サポートしたいという気持ちが大きくなり、開業することに決めました。
開業するにあたりこだわった点などはありますか?
地域や年齢層、ニーズなど、いろいろな意味で幅広い患者さんをカバーしたいという思いから、大きな通り沿いを選びました。さらにクリニック自体の広さにもこだわった結果、この場所に開業することになったんです。クリニック全体で100坪あるのですが、その3分の1以上がリハビリテーション室なんですよ。開業を決めるきっかけが「しっかりとリハビリテーションを提供したい」という思いだったこともあり、リハビリテーション室には特にこだわりました。あとはエックス線撮影室と骨密度測定の部屋を別々にしてあるのも、整形外科のクリニックとしては珍しいと思います。エックス線検査の方と骨密度測定の方が同時にいらしても、お待たせせずにご案内することができます。
どのような患者さんが多いのですか?
日中は、腰痛や関節痛などのご相談をされるシニア層の患者さんが多いです。当院では症状の緩和に加えて、根本の解決を図ります。例えば腰痛の患者さんの場合、湿布や痛み止めだけを処方するだけで終わらせず、痛みの原因やメカニズムなども考えるようにしています。「腰が痛い」とおっしゃっていても、首周りの硬さや姿勢の悪さなどが原因であることもありますからね。夕方以降はけがやスポーツ障害を理由に受診される中高生が増えます。シニア層への診療同様、それぞれのスポーツの特性を考え、痛めた部位だけでなく総合的に姿勢や体の使い方を診て対応するようにしています。そうすることで再発予防につながり、患者さんが前向きにスポーツに取り組んでもらいやすくなるでしょう。私の思い描くリハビリテーションは、そういった「原因に対して解決を図る」アプローチです。
スタッフが同じ方向を向き、治療効果の向上をめざす
「健康寿命」の重要性を教えてください。
人生100年時代に向け、整形外科の医師として「健康寿命」を長くしていかなければと感じています。今の健康寿命よりも10~20年ほど長い期間、自分の足で歩いてもらいたいんです。生活習慣病などの情報がメディアで多く取り上げられるようになり、運動の大切さについてはかなり理解されてきていると感じています。しかし運動をした際に体を痛めてしまったという声も多く聞きます。せっかく運動習慣のあった人が痛みなどで続けられなくなり、筋力も気持ちも落ち込んでしまう……。そうした負の循環に陥るのはもったいないので、今後も無理なく続けられるような状態を維持できるように診療を通じてサポートしていきたいですね。
リハビリテーションは理学療法士と二人三脚で対応されているとお伺いしました。
そうですね。理学療法士にリハビリテーションのオーダーを出すときにも、診断名だけではなく、私自身が患者さんの症状に対してどう考えているかも記載するようにしています。理学療法士はそこからさらに評価をしたり、深堀したりしながらプログラムを考えてくれています。また、情報共有のための定期的なカンファレンスも欠かせません。病院にいた頃は「この患者さんは左足で踏むのは体重の半分まで」などと指示を出したきりとなっていましたが、今は患者さんの状態やニーズにまで踏み込んで考えています。例えば、動かすと思ったより痛がるであるとか、患者さんによってはリハビリテーションの頻度を増やしたほうが良いかもしれないなど、理学療法士からのフィードバックを聞いた上で考えることができますから、私にとっても貴重な時間です。
スタッフとの信頼関係が伝わってきます。
とても頼らせてもらっていますね(笑)。症状について、診療で全部がわかるわけではなく、リハビリテーション中にわかることもあります。だからこそ、信頼できる理学療法士につなげることが大事なんです。また知識や技術面はもちろん、スタッフのコミュニケーション能力も頼りにしていますね。患者さんの訴えやニーズをくみ取るだけでなく、スタッフ同士の意思疎通も適切に行い、方向性の相違がないように進めてくれています。患者さんの疼痛緩和や機能改善にも影響が出るものなので、スタッフたちにはとても助けられています。スタッフはこの地域出身の人が多いことから、目の前の患者さんだけでなく、地域全体を良くしていきたいという思いも持ってくれています。
人生100年時代、きちんとケアして長く、健康に
診療において大事にされていることを教えてください。
同じ部位の痛みでも、痛くなる原因やメカニズムが一緒とは限りません。さらに患者さんのニーズも千差万別です。まずは困ったことや不安なことがあれば当院に来てもらい、肩こりや足のしびれなどの小さなことでも相談していただけたらと思います。こちらから「この治療をしなさい」「このリハビリテーションが絶対良いからやりなさい」と考えや治療を押しつけることはありません。「体を動かすどころではない。とりあえず痛みを取ってほしい」という方には、適切な治療をご提案させていただきます。一人ひとりの患者さんと向き合い、話し合い、より良い方法を見つけられるように努めてまいります。
開業したばかりでお忙しいと思います。休みの日は何をしてリフレッシュされているのでしょうか?
ここ3、4年は自転車に乗っています。もともと運動は好きなのに加えて、自転車は移動手段としても優れているので、合理的だと思って始めたのがきっかけです。ホイールやハンドルを変えると乗り味が変わって、軽さや速さが変化するのも楽しさの一つですね。少し前には友人と霞ヶ浦を一周し、以前よりも速く周ることができました。このように他人と競争するのではなく、過去の自分と比較して進歩している実感を得るのが好きなんです。そこからまた新たな課題を見つけ、原因を考え調整していくことを大切にしています。診療と同じですね。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
ぎっくり腰など、「一度体を痛めてしまうと癖になり、根治はめざせない」と諦めている人も多いでしょう。しかしそんなことはありません。状態によっては根治を望めます。ですから自己判断せずに医療機関に相談してみてください。適切な診断と治療を受けることで、症状をだましだましやり過ごすのではなく、改善を期待できると思います。当院でも、患者さんとお話ししながら一人ひとりに合うアプローチを提供していきますので、まずは相談にいらしてください。忙しい方には自主トレーニングを指導することもできますので、頻回に来られなくても心配する必要はありません。人生100年時代、痛みや不調をそのままにせず、きちんとケアして健康寿命を延ばしましょう。