おがたメンタルクリニック (福岡市南区／大橋駅)
緒方 理恵 院長の独自取材記事
大橋駅から徒歩5分、周辺に専門学校や大学が多いことからファミリー層に加え、若い世代も多く居住する福岡市南区に「おがたメンタルクリニック」はある。気さくな人柄が印象的な緒方理恵院長は、大学卒業後は麻酔科医師としてキャリアをスタート。大学病院でペインクリニックの診療と並行して緩和ケアや東洋医学を学んだ後、薬物を使わない痛みの治療について学ぶため渡米。帰国後は、自身の大病をきっかけに精神科へ転科し、多くの心の不調と向き合うべく、2023年1月に自身のクリニックを開院。児童・青年期の不登校や発達障害をはじめ、どの年代でもなり得るうつ病、不眠症、パニック障害など、各症状の根底にある要因をすくい上げ改善をめざす。そんな緒方院長のこれまでの歩みや診療スタイルにふれてきた。
麻酔科医師としてキャリアを重ね、1994年に渡米
院長は福岡でお育ちになったのですか？
生まれは熊本県荒尾市で、小学校まで地元の学校に通っていました。ただ、中学から福岡の学校に通っていましたので、この辺りも親しみのある地域なんです。父が産婦人科の医師だったことから、「将来は医師になるの？」と小さい頃から聞かれることが多かったのですが、実は当時から産婦人科の医師や看護師だけにはなりたくないと思っていました（笑）。というのも、父は開業医でしたので、24時間365日何かあればクリニックに駆けつける日々。家族で旅行に行ったり、遊んだりすることがなかったんです。小学校の時に一度だけ宮崎へ家族旅行したのですが、宮崎に着いてすぐ父がクリニックに連絡すると、出産が始まりそうな患者がいるということだったので、即とんぼ返りです。私は旅行を楽しみにしていたので本当にがっかりしました。
それで将来は産婦人科の医師にはなりたくないと。
そう思っていましたね。私も親が敷いたレールを歩くことに抵抗があったものですから、「アメリカに行く！」と宣言したり。自分の意思をしっかりと主張する子だったので、大学受験の時はずいぶんともめました（笑）。しかし、その時に母が言った「あなたはまず医師の資格を取って一人で生きていける力をつけるべき」という言葉には妙に説得力がありましてね。それで医学部を受験し、埼玉医科大学に進学したんです。
大学卒業後はどのようにキャリアを積まれたのですか？
卒業後はアメリカに行く予定だったのですが、知識が新鮮なうちに実践したほうがよいということで、大学病院の麻酔科に入局しました。本当は外科を希望していたのですが、将来結婚して子どもを育てるとなると、時間の調整をしやすい麻酔科がいいだろうと思ったんです。臨床に入ってしばらくすると、ペインクリニックに興味を持つようになり、関東逓信病院（現：NTT東日本関東病院）に1年間国内留学させてもらいました。ペインクリニックは痛みに対する治療を行う分野で、末期がんの患者さんに接することも多いんですね。そういったことから、元の病院に戻ると診療と並行し、緩和ケアや東洋医学も学びました。そんな中、精神的に参ってしまう出来事が重なり、「これは今アメリカに行きなさいということだ」と思い、病院を辞めて渡米したんです。
大病を機に精神科医として診療に取り組む
ようやく学生の頃からの夢がかなったわけですね。
ええ。アメリカでは注射や薬を使わずに痛みへのアプローチをする方法に興味を持ったので学校に通い手技を習得しました。しかし、在米中に乳がんにかかっていることがわかり、帰国することに。アメリカには15年いましたから、まさか病気で帰国することになるとは思いませんでしたが、アメリカの高額な医療費を考えたら帰国以外の選択はありませんでした。帰国して乳がんの治療後、仕事に復帰してしばらくすると、今度はウイルス性の髄膜炎になり命を落としかけました。一命は取り留めたものの、歩行器なしでは歩けない状態が続いたんです。早く仕事に復帰したかったので、いろいろな病院で診てもらったのですが、原因がわかりませんでした。ただ、体に障害があることで、いろんな方と知り合えたんです。それをきっかけに精神科に転科し、診療に携わりました。
開院された今、これまでの経験をどのように生かしていますか？
発達障害のお子さんは就学前に療育を受けることで、入学後の悩みが軽減するケースが多いんですね。そして、親御さんも早い段階でお子さんとの関わり方を学べれば、お互いストレスをためずに済むんです。発達障害の方というのは、四角四面の社会では居心地の悪さを感じる場面が多く、伸び伸びと本来の力を発揮できる環境づくりが重要なので、診療ではそのようなサポートに注力しています。枠からはみ出るのは悪いことではなく、むしろ凝り固まった概念を覆すアイデアや新たな発見が生まれると思うんです。だからこそ障害ではなく素晴らしい個性だと私は捉えていますし、自己肯定感や自尊心を損なわれやすい環境に身を置くのは、非常にもったいないと思うんですね。また、さまざまな症状のベースに発達障害が関係していることも少なくないと診療を通して感じています。
受診されるのはやはり発達障害の方が多いのでしょうか。
ここは前院長から継承したクリニックで、患者さんもそのまま引き継いでいるんです。なので、発達障害に悩むお子さんや大人の方以外にも、不登校、うつ病、パニック障害、双極性障害、統合失調症、PTSD、睡眠障害、産後うつ、更年期のうつ症状など、幅広い症状の患者さんが来られています。治療を進める際に私が重視しているのは、これらの疾患や症状のベースにあるのは何なのか、根本的な原因を究明することです。本質的な部分にアプローチできないと、本当の意味での解決には至らないのではないかと思っています。私の診療スタイルは、症状の根底にあるものをすくい上げること。その上で、症状や困り事の改善に向けしっかりアプローチできたらいいなと思っています。
すべての患者に「安心できる場所」の構築を
臨床心理士さんとはどのように連携していますか？
まず、私が時間をかけてお話を聞かせていただき、お薬を処方させていただきながら患者さんのお気持ちが少し落ち着いてきたタイミングで臨床心理士によるカウンセリング。とはいえ、患者さんによって症状が異なりますので、連携のタイミングもケースバイケースになります。「安心できる場所の構築」が大切だと思っているので、心理検査とカウンセリングを含めて信頼できる5人の臨床心理士とともに患者さんの診察をさせていただいています。その構築過程においては、状態によって薬も上手に使うことが有用だと考えています。薬を服用することに抵抗のある方もいらっしゃいますが、気持ちが落ち着いてきたらタイミングをみながら、減薬していくことを考えます。不安定なメンタルが継続するよりも、服薬によってまずはメンタルの安定をめざすことをお勧めしています。
受診の目安となる症状など教えてください。
いつもできていたことができなくなった、眠れない、食欲が湧かないといった状態が継続する場合は要注意なので、早めに受診してください。ただ、これはあくまでも目安で、この症状がないと受診できないということではありません。話を聞いてもらうことで気持ちが楽になることもあると思うので、こんなことで受診してもいいのだろうかと躊躇してしまうようなことであっても、気にせずいらしてください。感じ方は人それぞれ。同じことであっても気にする人もいれば、まったく気にならない人もいます。ご自身が少しでもつらいと感じたら気軽に受診をしていただきたいですね。
最後に、心の不調やお子さんの症状で悩んでいる方たちへのメッセージをお願いします。
風邪と同じように、心の不調は誰でもなり得るということを声を大にしてお伝えしたいですね。そして、二次障害や症状の悪化を回避するためにも、早めに受診していただきたいなと思います。今身を置いている環境を調整することで、症状の改善につながるかもしれません。お子さんの不登校や引きこもりで悩まれている親御さんも、決して一人で悩まないでください。当院には私以外に2人の女性医師が非常勤で在籍しており、今後は訪問診療も行えたらと話をしています。来院できない方たちに私たちが会いに行く。これはずっと実行したいことで、今すぐは難しくても、オンライン診療などできることから始めていけたらと思っていますので、まずはご相談していただけるとうれしいです。
