秋好 沢林 院長の独自取材記事

血管外科専門のドクターが対応する下肢静脈瘤治療

下肢静脈瘤とはどんな病気ですか。

太ももやふくらはぎの血管がぼこぼこと膨らむ病気です。静脈には一方通行の弁がついていて、同じ方向にしか血液が流れないようになっていますが、その弁が壊れてしまうケースがあり、まず血管が膨らんできます。進行すると最終的には皮膚が壊死してえぐれてしまい、肉が露出した状況になることも。原因として家族要因、環境要因の2つが考えられ、家族に下肢静脈瘤の方がいる方、そして美容師、看護師、飲食関係など、立ち仕事が多い方がかかりやすい傾向にあります。当院では下肢静脈瘤を中心に、頸部、胸部、腹部、上肢など全身の血管に関係する疾患の検査および治療を行っています。

どのような患者さんが来院されていますか。

下肢静脈瘤の患者さんは、長年立ち仕事に従事してきたご高齢の女性が中心です。また主婦層も少なくありません。日常の家事は想像以上に立ち仕事が多いのです。また、若い人の受診も少なくなく、そうした方では遺伝など家族要因を持つ方が多くなっています。以前は症状があっても何の病気かわからず、そのままにしている方も多かったのですが、最近はインターネットの発達により、下肢静脈瘤の症状を写真などで見ることができますので、初期症状のうちに来院される方が増えています。同時に初診時の年齢も低下傾向にあります。下肢静脈瘤は進行させればさせるほど治療も難しくなりますから、初期の受診が増えているのは良い傾向です。

下肢静脈瘤にはどのような治療があるのですか。

当院では主に静脈瘤の原因となる伏在静脈を発熱するファイバーカテーテルを用いて内側から熱で焼きつぶして塞ぐことを図るレーザー焼灼術と、静脈瘤の原因となる伏在静脈内にワイヤーを通して引き抜くことを図るストリッピング術を行っています。このほかに患部に硬化剤を注入する硬化療法もあり、静脈瘤内に専用の瞬間接着剤を注入して固めるグルー治療も新たに導入しました。状況やご希望に合わせてそれぞれを組み合わせて治療することもできます。お仕事やご家庭の事情もあり、当院を受診される方では、レーザーやラジオ波の焼灼術やグルー治療による日帰り治療を望まれる方がほとんどです。

翌日から日常復帰も可能な日帰り手術

下肢静脈瘤のレーザー焼灼術のメリットとは？

術中と術後の痛みが少なく、安静にしていなければならない時間が短い上、傷痕が残りにくいのが大きなメリットです。微細な針を刺してカテーテルを静脈内に挿入し、切開を行わないため、傷痕はばんそうこうで隠れる程度。従来の治療では術後の傷痕や内出血を気にしてスカートを履くのをためらうという話もよく聞きましたが、レーザー焼灼術では翌日から見た目をほとんど気にすることなく日常生活にお戻りいただけると思います。仕事などを休む必要があるのは手術の当日のみとなりますので、自営業の方や子育てや介護で休めない主婦の方にもお勧めできます。

グルー治療についても詳しく教えてください。

従来の硬化療法に近いアプローチですが、静脈瘤の表面だけ修正を図る硬化療法に対し、グルー治療では根本からアプローチすることで再発を防ぐことも期待できます。レーザー焼灼術と比べてもさらに痛みが少なく、ダウンタイムが短いのが大きなメリット。2019年末に保険適用となった新しい治療ですが、当院では新型コロナウイルス感染症流行による医療体制への影響を考慮し、万が一のケースにも対応できる体制を整え、今夏から導入しました。実績がまだ少ないため長期成績が不明であり、アレルギーのリスクもあることから、当院では広くお勧めしている段階ではありません。しかし、ご高齢の方やレーザー治療で再発してしまうケース、痛みを極端に嫌う方などの治療では大きな威力を発揮することを見込んでいます。

下肢静脈瘤の日帰り治療は、どのくらい時間がかかるのでしょうか。

早いと15分から20分くらいです。リカバリー室で休息を取った後、歩いてお帰りいただけます。術後72時間以内に一度受診していただく必要がありますが、その後は経過観察程度の受診でOKです。遠方から手術を受けに来られる場合は金曜日を手術日に設定、土曜に受診し、翌日に地元に帰られるというスケジュールも可能です。当院は鉄道駅にほど近く、周辺にビジネスホテルなど宿泊施設もそろっているということで、北海道や関西など他県から来院される方もいらっしゃいます。

先生の医療に対しての想いをお聞かせください。

医師になった当初より診療では「名医であるより良医であれ」をモットーにしてきました。一方で、高齢化の進行による需要の急増と相反する医療費抑制政策によって現場は難しい舵取りを迫られています。有限の医療資源に対して無限の要求を突きつけられたコロナ禍によってそのことを強く再認識させられました。正しい情報をもって正しい理解の上、医療を活用する人もいれば、自分さえよければいいと考え、保険で美容外科の手術や人間ドックを要望したりといった一方的な要求を突きつける方々がいるのも事実です。医療は国民全体の共有資産です。保険医であるわれわれは常にそのことを意識しながら、医療費の無駄がないように心がけながら診療を行わなければいけないという想いとそのような方には私から厳しい意見を申し上げることも一方では責務だと考えています。

患者を大事にするため、まずはスタッフを大切に

こちらのクリニックは、スタッフさんの対応も特徴だそうですね。

血管外科の医師がいることも特徴の一つだとは思いますが、本当の意味でのこのクリニックの特徴は、スタッフだと思っています。おかげさまで信頼できるスタッフに巡り会うことができ、コロナ禍という困難を乗り越え、開業から同じメンバーで患者さんを迎え続けることができています。「スタッフを大事にすれば、それが自動的に患者さんを大事にすることにつながる」とも感じており、作業の効率化でスタッフの疲弊を避け、正当な評価を与えることで、より良い医療サービスの提供をめざしています。

医師を志されたきっかけを教えてください。

子どもの頃から、生物学の研究者になりたかったんです。純粋に自分の好奇心を満足させたいという理由からですね。では、なぜ医学部に進学したかというと、ちょうど自分の進路を決める高校2年生の時に同級生が亡くなったことからです。中学1年生の時にできた最初の友達で、幼なじみのような存在でした。その友人が亡くなったことが、非常にショックで、自分にできることは何かないのか、そう思うようになり、「研究者になれば、その研究で助けられる人はいるかもしれない。でも医師であれば、もっと直接的に誰かの命の助けになるのではないか」と思って医師の道を選びました。

読者へのメッセージをお願いします。

医療システムは国民全体の共有資産です。近年、一部で不適切な下肢静脈瘤治療が行われていることが問題となっています。下肢静脈瘤に悩む患者さんの数に対し、専門の医師が圧倒的に不足していることもその原因と考えられます。下肢静脈瘤の治療を受ける際は、表面的なサービスばかりにとらわれず、医師の経歴も確認した上でクリニックを選ぶことをお勧めします。患者は最も弱い立場にあるのは事実ですが、最も多いのも事実で、患者が変われば医療の姿は簡単に改善できます。そのために必要なのは賢い受診行動と考えます。ワイドショーやネットの偏った情報や広告に惑わされず、目の前の医師や看護師の言葉に真剣に耳を傾けてほしいと思います。