松原眼科クリニック (神戸市東灘区/住吉駅)
松原 令 理事長の独自取材記事
住吉駅に直結した複合商業施設の2階。個人医院が並ぶフロアにある「松原眼科クリニック」は、白内障や緑内障、網膜剥離、加齢黄斑変性などの日帰り手術を専門とした眼科。中でも多焦点眼内レンズを使った日帰り白内障手術に力を入れ、遠方から訪れる患者も多いという。「開業から9年、あっという間でした」と出迎えてくれたのは、松原令(まつばら・さとし)理事長。長身でスマートな外見、手術の専門家というイメージとは似つかぬ気さくな人柄に、一瞬にして惹きつけられてしまいそうだ。そんな松原理事長に、日帰り手術やユニークかつヒューマンなクリニックコンセプトなど、患者や自身の人生に向けた思いを存分に語ってもらった。
経験を糧に、日帰り手術を専門とするクリニック
こちらのクリニックは日帰り手術がメインとお聞きしました。
そうですね。当院の最大の特徴は日帰り手術に力を入れていることで、白内障手術を筆頭に、緑内障・網膜剥離・糖尿病網膜症・黄斑変性症などの手術が代表的なものです。診療所ですから入院設備はありませんが、それ以外の「大規模病院でできることは全部やろう」というのを開業時からコンセプトとして掲げてきました。外科や心臓外科の手術となると、大きな病院でしかできないでしょう。しかし眼科に関していえば、病院と同等の手術が私たちのような開業医でも十分にできるのが特徴の一つです。当院には医療機器も一通りそろっていますが、技術はお金では買えません。私の手の器用さは眼科の医師だった父から譲り受けたもので、これは本当に感謝せねばなりませんね。
多焦点眼内レンズを使った白内障手術について教えてください。
眼内レンズというのは白内障手術で取り出す水晶体の代わりに入れる人工の水晶体のことで、単焦点と多焦点の2種類があります。多焦点は、一つの距離を合わせる単焦点とは異なり、遠近の両方にピントを合わせるのが特徴です。手術自体は4、5分程度で終わりますし、日帰りですからその日のうちにご自宅へ帰れますが、術後は多少の慣れが必要です。遠近両用の眼鏡やコンタクトレンズの場合、上を見ると遠く、下を見ると近くといった具合に、視点によって焦点を変えますが、多焦点眼内レンズは意識によって焦点を変えるといいますか、遠くを見る時には遠くを、近くを見たい時には近くをイメージすることでピントを合わせます。人間の「見る」「見える」というのは、カメラのようなレンズのメカニズムだけではなく、もっと高度で複雑なものです。ですから、脳が順応するまで2、3ヵ月程度のトレーニングが必要となるわけです。
期待できるメリットなどはありますか?
私が思うに、白内障手術とは「人生を変える手術」です。術後は豊かな人生を送っていけるという意味合いですね。もしも今まで見えづらかったものが見えやすく変化すれば、例えば旅行へ行っても、遠くの景色を眺めながらガイドブックやスマートフォンがチェックできます。あと、やはり美意識が高まることにつながるせいでしょうか、女性の方のメイクがきれいになって表情が豊かになるため、本当にいい笑顔をされるようになると感じています。見えることによって生活が明るくなれば、心が豊かになると思っています。当院では30〜40%ぐらいの方が白内障手術で多焦点眼内レンズを選択されていますよ。
笑顔が笑顔を生む幸せの連鎖を
現在のスタッフ体制について教えてください。
医師は私1人で、看護師が5人。視能訓練士2人と検査員が2人、受付スタッフが5人います。手術日には麻酔科の先生が来られるので、全身管理が必要な手術も行えます。今のクリニックがあるのはそうしたスタッフが支えてくれたおかげで、その出会いにはいつも感謝しています。当院のもう一つのコンセプトは笑顔です。現在、大勢の患者さんが毎日来られていて、申し訳ないことに入りきれない方が外で待っておられます。それでも皆さん、笑顔で帰ってくれるんですね。そういう方に来てほしいからこそ、自分たちも笑顔でいなくてはなりません。私たちの笑顔が患者さんの笑顔を生み、そしてまた患者さんの笑顔が私たちを笑顔にする。その良い連鎖がクリニックを支えてくれているのだと思います。
ところで理事長は診療中も白衣を着ないのですか?
いつもだいたい今日のようなシャツにパンツで、カジュアルな感じが多いです。「白衣を着ていないのは気になりますか?」と、患者さんにアンケートをとったことがあるのですが、全然気にならないという結果が出ました。むしろ、逆に緊張しないとよく言われますね。かねてから、白衣を着ることが医者の象徴のような、そういう固定観念を崩したいと思っていました。白衣ではなく、その中身を見ながら話してほしいからです。普段着だと対等にしゃべってくれるので、患者さんとの距離がグッと近くなるんですね。すると、さらに話を聞くことができます。患者さんが心を開いてくれないと満足な治療はできません。思いを隠したまま治療を受けても、いい方向に向かうはずがないと思うので。
理事長の医療についての考えをお聞かせください。
患者さんの本当の思いというのは、目が見えないというその向こう側にあるものです。問題は単に見えないことではなく、見えないことによって生活に何か支障があり、だからこそ怖い思いをしてでも手術を受けたいと願うわけですね。それが何なのかを理解して治療しないと、決して「見える」とは言ってくれません。治療というのは手段であって、目的は豊かな人生を取り戻すことなんですね。医療の本来の目的は、治すより癒やすこと。その人に寄り添って、その人の人生と一緒に歩んでいくのが本来の医療人の姿だと思います。昔は高価な医療機器が自慢でしたが、今の自慢はスタッフの笑顔です。笑顔がすべてを癒やします。私たちの笑顔が患者さんを癒やすと思いますし、患者さんの笑顔が私たちを癒やしてくれます。
自分が幸せでなければ人は治せない
奥さまは、以前ここで一緒に働いていたそうですね。
開業して5、6年間は妻もここのマネジメントを担当していました。妻が休んだ日は診察室まで入ってきた患者さんが、「あれ、今日は奥さんいないの? じゃあ帰ります」と、そういうことが何回かありました。「なんで!」と思いましたよ(笑)。それぐらい人の心をつかむのが上手でしたから、私も人との接し方を彼女からよく教わったものです。妻の実家は開業医でしたが、彼女自身は医療畑にいた人間ではありません。基本的には患者さんと同じ一般的な目線を持っていますから、どうすればいいか悩んだ時には今でもアドバイスをもらうようにしています。お察しのとおり、一番的確で一番手厳しい意見が返ってきますけどね(笑)。
将来に向けての展望はございますか?
まずは待合室の状況を少しでも改善しようと、廊下を挟んだ向かいに第二待合室を新たに借りました。ただ、もうちょっとキャパシティーがあったほうがいいと思いますから、そのうち広い場所へ移ることも視野に入れています。ちなみに、手術は今でも一番好きです。自己達成感があることと、患者さんが良くなること。その2つが望める限り手術はやめられません。もう一つ、人とのつながりをつくっていくのも大切な仕事です。こうした感覚は、やはり年齢や時期に応じて変わっていくもので、単に年を重ねていくだけではなく、経験を積みながら少しずつ上の次元にシフトしていく、それが人生ではないかと思います。
最後に、読者へ向けたメッセージをお願いします。
もし手術をやっていなければ、こんな小さなクリニックが患者さんであふれかえることはなかったでしょう。冒頭にも言いましたが、眼科の領域に関してできない手術はほとんどありません。しかも今は日帰りで行えますから、すごい時代になったとつくづく感じます。スタートした頃は大変な時期もありましたが、せっかく開業したのですから、皆さんに幸せになってもらいたいんですよ。自分も幸せになりたいですし、妻も幸せにしたい。スタッフたちも、みんな幸せであってほしい。そしてもちろん、ここに来られる患者さんには幸せになってほしいと、心からそう思っています。誰もが豊かで幸せな人生を送ること。それが私たちの何よりの願いです。