アベ歯科クリニック (名古屋市名東区/一社駅)
藤田 和伸 院長の独自取材記事
一社駅の目の前にある「アベ歯科クリニック」は、25年以上にわたって地域の歯の健康を支えてきた。診療範囲は、歯科をはじめ、小児歯科や小児矯正、歯周病治療、審美歯科など幅広い。保育士が在籍するキッズルームも備え、子どもから高齢者まで家族皆で通えるクリニックである。2016年より院長を務める藤田和伸先生がこだわるのは、予防歯科。「生涯健康に暮らしていくためには、予防歯科の適切な知識が必要」と、穏やかかつフランクな言葉の端々にも、患者を想う熱意がにじむ。「より良い治療、安心できる環境を提供するため努力を惜しみたくない」と意気込む藤田院長。診療方針や新たに導入した治療法や設備、そして今後の展望について話を聞いた。
メンテナンスを含めて「治療」と考え、予防につなげる
こちらのクリニックの特徴を教えてください。
できるだけ「歯を削らずに、失わないように」をコンセプトとしています。例えば、極力歯を削らないようにするため、虫歯治療は歯科用プラスチックのCR(コンポジットレジン)という素材をメインに使っています。即日治療、1回の治療のみで終わらせることも可能で、患者さんの負担が少なく済みます。少し前まで、歯科業界では「5回虫歯を治療すると歯を抜くことになる」とよくいわれていました。このような負のサイクルを防ぎ、良いサイクルに導くことを治療の基本としています。また、当院では口腔トラブルに関係が深い7つの項目について、5分で測定できる唾液検査を導入しました。治療前、患者さんに治療内容をしっかり説明するよう努めています。なぜ治療しなければいけないのか、治療によってどのようなメリットが期待できるのか、それがどのような結果につながっていくかをお伝えし、納得してもらった上で治療を進めるようにしています。
特に注力して伝えていることはありますか?
メンテナンスの重要性ですね。お口のトラブルには治療が必要ですが「治療」は削ったりかぶせたりして終了、というわけではありません。削ったりかぶせたりするのは「修理」のようなもので、修理後の長期的なメンテナンスを含めたものが「治療」と思っていただきたいです。髪の毛や爪は切っても生えますし、傷も回復が望めますが、歯は一度失ったら決して元には戻りません。かぶせ物などの人工物も、一生壊れないというわけではありません。「せっかく治療したのなら、メンテナンスをして大事にしましょう」とお伝えしています。生涯健康に暮らしていくためには、予防歯科についての適切な知識が必要です。
予防へのこだわりが強いのですね。
歯科医師になった当初に勤めていたクリニックで、噛み合わせやかぶせ物に力を入れていました。私も学びを深め、今も得意とする分野ですが、そもそも歯が悪くなる前の段階、つまり子どもの歯科医療を知りたいと思ったんです。そこで、小児歯科を専門とするクリニックでも経験を積みました。しかし、当時の小児歯科は主に虫歯治療がメインで、治療後はフッ素でコーティングして終わりでした。当時の状況に疑問を感じ、予防歯科の重要性を再認識しました。子どもの患者さんはもちろん、予防の概念が日本の歯科医療に不足していた頃に子ども時代を過ごした大人の方にも、啓発活動をしっかりとしていきたいと思っています。
根本から歯の健康を支えるため、新たな取り組みに挑戦
小児矯正のMFT(口腔筋機能療法)専用トレーニングルームを新設されたと伺いました。
MFTは、舌や唇の正しい使い方を学ぶためのトレーニングです。これまでは診療チェアの上で限られた範囲で実施していましたが、体を動かしながら行うためには専用のスペースが必要でした。そこでスタッフと話し合い、院内の別室を利用して、トレーニングルームを新たに設けました。バランスボールや器具を使い、姿勢や筋肉の使い方を身につけることで、歯並びや呼吸にも良い影響を与えられるように取り組んでいます。ワイヤー矯正のように力を加えて整った歯並びに導くのではなく、全身にアプローチするための方法です。矯正装置と併用しメンテナンスを目的とする場合は、小学校入学頃からの開始が目安ですが、MFTトレーニングのみであれば、3〜4歳から始めることも可能です。全身を使った運動で楽しみながらトレーニングすることで、永久歯が生えてきた時にも歯並びが全体的にバランスが良い状態をめざしていきます。
歯周病治療として新たな方法を導入されたそうですね。どのような治療なのでしょうか?
これまでの歯周病治療は外科的な処置や麻酔を伴うことが多く、患者さんにとって大きな負担となることが少なくありませんでした。そこで当院では、新たにブルーラジカルレーザー機器を導入しました。過酸化水素とレーザーを組み合わせた殺菌作用により、切開や薬を使わずに歯周病菌の除去をめざせるのが特徴です。体への負担が少なく、侵襲性の低い治療法だと考えています。麻酔をほとんど必要とせず、副作用のリスクも少ないため、外科的治療を避けたい方や定期的なケアを続けたい方に適しています。特に50代以上の方で歯ぐきの腫れや炎症にお悩みの方からご相談をいただくことが多く、患者さんの負担を軽減しながら口腔環境を整えるサポートが期待できる治療法です。
新たに導入された設備や治療には、どのようなお考えがあるのでしょうか?
私たちが設備を導入する目的は、単に一部を治すのではなく、患者さんの健康を根本から支えることにあります。その一環として、MFT(口腔筋機能療法)専用ルームを設けました。ここでは、矯正治療後の後戻りを防ぐだけでなく、舌や口の正しい使い方、呼吸や姿勢の習慣を整えることで、子どもの正しい成長発育をサポートします。お口周りの筋肉を整えることは、歯並びだけでなく顔や全身の発育にもつながります。さらに、外科的処置や麻酔をほとんど必要としないブルーラジカルレーザー機器を導入し、体への負担を抑えながら歯周病菌の除去をめざします。歯科治療は削って終わりではなく、その後のケアが大切です。定期的なメンテナンスを通じて良い状態を保ち、全身の健康も守っていけるよう、患者さんと一緒に歩んでいきたいと考えています。
小児から高齢者まで、生涯の健康を守りたい
幅広い層の患者さんがいらっしゃるのですね。
当院の患者さんは、お子さんが3〜4割、大人が4割ほど、ご高齢の方が1〜2割と幅広い世代の方に来ていただいています。長く通っている方が多い印象です。私が着任してから12年になりますが、当時小さかったお子さんが高校生や大学生になったり、高齢期に入った方もいたりします。当院は、特定の世代に特化するのではなく、どの年代の方にも継続して関わり、長くお付き合いしていくことを大切にしています。また治療に関しても、従来の方法に加えて新しい技術やアプローチを取り入れ、患者さんの希望に合わせて選択肢を広げられるよう努めていきたいと思っています。
日々の診療で大切にされていることはありますか?
やはりコミュニケーションではないでしょうか。痛みへの配慮も含め、患者さんの求める治療を提供したいと思っています。そのためにも、患者さんのニーズを把握することが重要です。当院ではお一人あたり30分の時間を取り、その間は他の患者さんとのかけ持ちはしません。そして「何となく良さそうだから」といったフィーリングではなく、エビデンスやデータに基づいた治療にもこだわっています。「自分が患者だったら受けたい治療」を常に心がけています。
最後に、今後の展望をお聞かせください。
小児のMFTトレーニング専用ルームの新設などを通じて、これまで難しかった取り組みも少しずつ提供できるようになりました。今後は大人の方にも対象を広げ、口腔内だけでなく、姿勢や全身の健康にも歯科からアプローチしていきたいと考えています。高齢の方に多いフレイル予防の観点からも、お口の機能を鍛え直すことは大切です。当院が大事にしているのは「予防」です。それは虫歯や歯周病の予防にとどまらず、全身と口のつながりを見据えることです。治療もできる限り負担を少なく、安心して通える環境を整えるよう努めています。これからも新しい技術や考え方を取り入れながら、患者さんと一緒に、健康寿命を延ばすお手伝いをしていけたらうれしいです。