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花田 梢 院長の独自取材記事

れんげ在宅クリニック

(出雲市/大津町駅)

最終更新日:2023/09/26

花田梢院長 れんげ在宅クリニック main

社会の高齢化に伴い、注目度が高まっている「在宅医療」。2023年6月、地域の訪問診療の新たな担い手として、出雲市大津町に「れんげ在宅クリニック」が誕生した。同院の院長である花田梢先生の専門は緩和ケア。「在宅医療や緩和ケアに興味を持ったことが医師になるきっかけでした」とほほ笑む。緩和ケアは終末期医療というイメージが強いが、実際は患者が病気になった時点から始まる。身体だけでなく精神や経済的な苦痛の緩和をめざすほか、対象は患者だけではなくその家族まで含まれるなど、まだ知られていないことも多いそうだ。「緩和ケアを通して、一人ひとりの多様性を認め合える世の中にしたい」と話し、ケアマネジャーや訪問看護師らと協力しながら訪問診療に取り組んでいる花田院長に、詳しく話を聞いた。

(取材日2023年8月29日)

在宅医療とは家での生活を支援するための医療

まず、クリニックの概要について教えてください。

花田梢院長 れんげ在宅クリニック1

訪問診療を中心に行っています。通院が難しくなった方に対して、おうちでの生活の支援としての医療を提供しています。外来に関しては、一般内科の外来を火曜日の午前中のみ実施しており、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症の予防接種にも対応しています。外来を設けたのは、がんや難病の方などの専門的なケアを必要とする患者さんを受け入れたいとの想いから。特にがんの患者さんの中には「通えるうちは通院で治療を受けたい」と希望される方もおられます。大規模病院だと待ち時間による負担もありますが、当院ならそこまで待たずに診療を受けていただけるのではと思っています。積極的な治療への対応は難しいですが、通われていた病院から引き継いだお薬の処方に加え、必要に応じて医療用麻薬を用いた疼痛管理も可能。通院が難しくなれば訪問へ切り替えることもできます。さまざまな立場の方に寄りそい、切れ目のない医療を提供していきたいです。

訪問診療はどのような方が対象となりますか?

疾患の種類や年齢に関わらず通院が難しくなった方が対象です。例えば、当院の場合は、がんの方、難病の方、脊髄損傷の方などもおられます。あるいは、家の中くらいは歩けるけれども、足腰が痛い方や、認知症などで大きな病院で長時間待てない方も対象になります。ただ、当院の医師は私一人ですので、手厚く対応するためには周囲の助けが必要です。そのため、患者さんに2つお願いしているのは「介護保険の申請をしてケアマネジャーさんがいる状態」で、さらに「訪問看護さんにも同時に契約してもらうこと」です。それらの支援があるのは、患者さんにとってもメリットが大きいと感じていますね。訪問エリアはクリニックから直線距離で16kmと決まっています。ただ、直線距離なので、実際の道のりはそれより遠いこともありますよ。その範囲内であれば多少無茶ぶりであっても引き受ける覚悟はあります。おうちでの生活の支援としての医療を提供しています。

介護保険の申請方法などがわからないという方も多いと思いますが、どうしたら良いでしょうか?

花田梢院長 れんげ在宅クリニック2

そういった場合も、当院へご相談いただけたらと思っています。介護保険の申請の必要性から判断して、申請方法もお伝えできます。また、実際に訪問診療をすると決まったら、介護職、医師、看護師、ご本人やご家族を含めて話し合いの場を持ってから始めますのでご安心ください。訪問診療開始後も、ケアマネジャーさんや訪問看護師さんと密に連携を取りながら進めます。訪問診療は最低でも月に1回行いますが、私が行かない時の患者さんの状態も常に情報交換しながら把握しています。訪問診療の患者さんの緊急性を要する往診にも対応します。

ずっと抱いていた夢を実現させて開業

先生のこれまでの経歴を教えてください。

花田梢院長 れんげ在宅クリニック3

大学卒業後すぐに島根大学医学部附属病院の消化器内科に入局しました。2年目に島根県立中央病院に異動し、消化器内科をはじめ、麻酔科や救命救急科などの研鑽を積みました。その後、第一子の産休・育休を経て平成記念病院に3年ほど勤務。その間に第二子も授かったこともあって、家庭や育児と仕事を両立するために、病院を離れて健康診断や人間ドックを主に行っている島根県環境保健公社に勤めることに。そこで5年ほど勤務した後、出雲市にある内科医院へ入職しました。きっかけは、出雲市では地域の医療や介護従事者たちが連携して、市内の訪問診療体制の拡充を進めていることを知ったから。もともと在宅医療にとても興味・関心があったので、その中心として尽力されていた先生の元で8年間ほど勤務をさせていただき、2023年6月に独立、開業となりました。

もともと在宅医療に興味があったのですか?

はい。そもそも、医学部をめざした最終的なきっかけが、ある先生の著書を読んだことでした。ホスピスを題材にした話なのですが、この本を読んだのは私が高校生の時で、ちょうど将来のことについて考えている時期だったんです。それまで漠然と医療系もいいなと考えていましたが、「新薬を開発しよう」とか、「多くの患者さんを治すためにどんどん手術をするぞ」といった、いわゆる“医師像”が自分にはどうもしっくりきていませんでした。そんな時にこの本を読んで、こういった医療の形もあるんだな、こういうことがしたいな、と感じたのです。

そのような思いがあって医学部をめざしたんですね。

花田梢院長 れんげ在宅クリニック4

はい。ただ、いざ医学部に入ってみると、当時は緩和ケアの考えもまだ普及しておらず、学べる場所がとても少なかったんです。私が大学に入学した頃は、がんの告知をようやく患者本人にも行い始めたような時期。周囲に相談できる人もあまりいませんでしたが、それでも「緩和ケアに携わりたい」という気持ちは持ち続けていました。はじめに消化器内科を選んだのも、がんの患者さんが比較的多い科なので「終末期医療に関わる機会もあるだろう」と考えたのが理由の一つです。医師となっていざ病棟に勤めたときにも、患者さんから「家に帰りたい」と言われることがありましたが、まだまだ地域にその基盤ができていない時代でした。その時に抱いたもどかしさが、私の在宅医療や緩和ケアに対する思いをますます強くしました。ようやく今、自分の夢をスタートさせることができてとてもうれしく思っています。

患者や家族にとってホッとする存在でありたい

れんげをクリニック名に使用した理由を教えてください。

花田梢院長 れんげ在宅クリニック5

私の名前は「梢」で、植物を連想させることもあり、花の名前でクリニック名として良いものはないかと探していました。その時、れんげの花言葉が「あなたと一緒なら苦痛が和らぐ」だと知り、クリニックの趣旨にぴったりだと感じました。れんげの花の色合いも好きでしたので、それに決めたのです。身体的な苦痛だけでなく、精神的にも皆さんにとってホッとする存在でいたいというのが一つの目標です。

緩和ケアは看取りと強く結びついているイメージがありますが、実際にはいかがですか?

一般的に、緩和ケアはがんの看取りというイメージが強いと思います。しかし、本来の「緩和ケア」は病気の宣告や治療期から始まり、そして身体的だけでなく、精神的、経済的な苦痛に寄り添い、それらの緩和をめざすことを意味しています。もちろん終末期でお迎えが近い方の場合は、どうしたら穏やかに最期を迎えられるか、さらにご家族のケアも含めて穏やかでいられるような声かけなども視野に入れた関わりを心がけています。アドバンス・ケア・プランニングといって、将来的な医療やケアについて事前に話し合い、患者さんがどのような最期を迎えたいかという意思決定を支える取り組みがあります。患者さんやご家族が最期まで穏やかにいるためにも、この取り組みを推奨しています。

クリニックや地域の緩和ケアにおける今後の展望を教えてください。

花田梢院長 れんげ在宅クリニック6

専門とする緩和ケアを実践し普及させていくことで、多様性を認め合い、思いやりのある社会をつくりたいという大きな目標があります。緩和ケアに携わったことがきっかけで、人生の最終段階の過ごし方が非常に個性にあふれていることを知りました。この地域にその人が最期までその人らしくあれるような基盤をつくりたいんです。そのために私ができることは、今後も勉強し、鍛錬を積むとともに同士をつくっていくことだと思っています。医師に関わらず学生さんにも学びに来ていただいて、在宅医療で何ができるかを伝えていきたいです。在宅医療においては、技術的に何ができるかも大切ですが、それ以上にその人の価値を認め合うことが大切になります。そんな社会をつくるのが私の目標です。

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