全国のドクター9,336人の想いを取材
クリニック・病院 158,523件の情報を掲載(2024年5月21日現在)

  1. TOP
  2. 沖縄県
  3. 那覇市
  4. 医療法人真成会 ゆずりは訪問診療所
  5. 屋宜 亮兵 院長

屋宜 亮兵 院長の独自取材記事

ゆずりは訪問診療所

(那覇市)

最終更新日:2022/10/13

屋宜亮兵院長 ゆずりは訪問診療所 main

那覇市首里に、在宅医療専門の「ゆずりは訪問診療所」がある。院長を務める屋宜亮兵先生は、救急医療などの経験を経て、「訪問診療でも病院と同等の医療行為ができる」と、2016年に診療所を開業。以来、高齢者はもちろん、人工呼吸器を使用する神経難病の患者や、がん患者の在宅療養をサポートしている。訪問するエリアは那覇市、浦添市が中心だが、難しいケースがあれば、エリア外でも積極的に対応している。在宅医療を手厚く行うことで、地域の医療の質を上げたいと語る屋宜院長。医療と介護の垣根をつくらず、高齢者が退院後、スムーズに療養生活を始められるよう受け皿となる介護老人保健施設の運営も手がける。訪問診療が行える医師を教育するシステムの構築も考えるなど、精力的に活動する屋宜院長に、訪問診療にかける思いを聞いた。

(取材日2022年6月7日)

訪問診療でも病院と同等レベルの医療をめざす

診療所の特徴を教えてください。

屋宜亮兵院長 ゆずりは訪問診療所1

患者さんのご自宅や介護施設を中心に訪問診療を行っています。計画的に行う定期診療はもちろん、緊急的な症状の変化にも24時間365日対応し、患者さんとご家族が安心して在宅療養を行えるようサポートしています。訪問診療というと、一般の方々は簡単な診察をして薬を処方するだけのイメージがあるかもしれません。もちろん、こうした訪問診療も必要ではあります。でも、当院では「訪問診療でも、病院と同等の医療行為ができる」と考えています。そのため、専門的な医療行為も行っています。また、医師だけでなく、看護師、介護士、ケアマネジャーと密に連携をはかり、患者さんとそのご家族の意思を尊重し、その人らしい生活ができるケアプランを立てたり、身の回りのお世話をしたりと、自立支援のサポートにも対応しています。

患者さんはどのような人が多いでしょうか。

やはり多いのはご高齢の方です。介護が必要になった方がご自宅で安心して暮らせることを一番に考えています。もちろん、病院での治療をご希望されるようでしたら、病院へ入院していただきます。ただ、ほとんどの方はご自宅での療養を望まれますね。ですので、看取りまで行う場合も少なくありません。また、ほかの訪問診療を行っているクリニックに比べると、神経難病やがんなど、難病を抱えている方も比較的多いです。また、小児の患者さんもいらっしゃいます。神経難病の患者さんの場合、人工呼吸器を使用するなど、医療的な管理が必要な場合もあります。介護施設によっては、「ゆずりは訪問診療所にお任せしたい」とご指名をいただく場合もあり大変うれしいですね。

クリニックの強みを教えてください。

屋宜亮兵院長 ゆずりは訪問診療所2

どんなに難しい依頼でもできるだけ断らないようにしていることでしょうか。「できません」と断るのは簡単ですが、幅広い医療をカバーするように工夫しています。訪問診療の制度上、診療できるエリアが決まっています。最近はかなり改善されているものの、以前は那覇市と浦添市以外には訪問診療をしているところがほとんどありませんでした。ですから、遠方からの依頼も受けていました。現在も新規の依頼は、私が窓口なり患者さんの状況や要望を確認しています。難しいケースは私が初診で出向き、制度も含めてある程度整えてから、ほかの医師に指示しています。ケースによっては、私が主治医として診る場合もあります。

訪問診療により、地域の医療と介護の質を上げたい

訪問診療をしようと思ったのはなぜでしょうか。

屋宜亮兵院長 ゆずりは訪問診療所3

医師は病院にいるだけではなく、どんどん地域に出ていき、積極的に診療をする必要があると思ったからです。病院勤務時は、なんでも対応できる医師になりたくて、救急医療や、医師が救急現場に出向いて治療を行うプレホスピタル、集中治療を中心に経験を積みました。そこではつらい思いをされている患者さんもたくさんいらっしゃいました。例えば、精神疾患があり亡くなる直前に、ようやく救急搬送される患者さんや、体の具合が悪いのに、何らかの事情があり病院に行けず、症状が悪化してしまう患者さんなどです。ギリギリの状態になる前に、医師が患者さんのところに行く必要性があると感じました。それに、これまで救急医療を行ってきた経験から、「自宅でも病院と同等の治療はできる」と思っていました。患者さんが退院後も、訪問診療というかたちで患者さんを診たいと思いました。

「在宅でできることは、できるだけ在宅で行う」のがモットーだそうですね。

病院に行くこと自体が大変な患者さんもいらっしゃいます。この場合、家族にとっても病院にとっても負担がかかります。今、国は病院の機能を縮小し、地域への医療に移行する医療政策を進めています。その中で、すべての患者さんの対応を病院に任せるのは、地域医療のためにならないと思っています。基本的に、「在宅でできることは、できるだけ在宅で行う」のが私たちの考えです。現在はこの考えに賛同してくれる医師やスタッフが増え、助かっています。開業時は事務スタッフもいなくて、私1人だけだったんです。それが現在は非常勤を含め10人ほどの医師がいます。それぞれ、小児科、外科、腎臓内科、放射線科、循環器内科など専門性のある医師で、診療の幅も広がりました。看護師、ケアマネジャー、介護士、事務スタッフも増え、50人ほど職員がいます。

人員が増えたことで、スタッフ間のコミュニケーションの取り方も工夫されているそうですね。

屋宜亮兵院長 ゆずりは訪問診療所4

事務スタッフは診療所にいますが、医師や看護師、介護士は訪問先に出かけてしまうので、どうしても顔を合わせる機会が少ないです。チーム内の連携が取れないと不具合が生じてしまうこともあるので、そこをどう埋めていくかの工夫は常にしています。例えば、申し送りをする朝の会は毎日30分から1時間はかけて、しっかり行っています。また、勤務時間は8時30分からですが、朝の会は8時40分からにしています。その間の10分間は、環境整備に充てています。基本的に何をしてもいいことにしていて、気になるところを掃除したり、トイレットペーパーの補充をしたり、施設の清掃をしたりと、好きなことをしてもらっていますね。すると、職種の垣根を超え、話をする機会が増えるんです。短時間ですが、みんながこの時間を楽しんでほしいです。

医療と介護の垣根を超え、スムーズな療養を

先生のめざす理想のクリニックはどういうものでしょうか。

屋宜亮兵院長 ゆずりは訪問診療所5

地域の医療や介護の質を底上げするのが理想です。特に、医療や介護のスムーズな移行ができるようにしたいです。現状では、高齢の患者さんが入院した場合、退院後の介護は各事業所が対応することがほとんどです。各事業所は、自分の関わる分野しか知らないため、連携が取れず、ぶつ切りになってしまうんですね。患者さんが退院後、地域の適切なサービスを受け、ご自宅で安心して暮らせるようにしたいです。そのためには、在宅医療だけでなく、介護にも携わる必要があると考え、3月末から介護老人保健施設の理事長も兼任することになりました。病院での医療、訪問診療、訪問看護、介護と全体を見渡し、適切な対応がとれるようにしていくのが目標です。

若い医師たちの教育にも力を入れているそうですね。

若い医師の中には訪問診療にぜひ関わりたいと言ってくれる人もいます。ただ、現状ではまだ在宅医療の世界は、きちんとした教育システムが整っていないんです。そのため、大学を卒業後、訪問診療に興味があっても、ほかの病院で10年くらい経験を積んで、あらためてこの世界に入ることになります。もっと早い段階で若い医師たちの選択の幅を広げ、訪問診療に携わりながらキャリアを積めるように、病院と連動しながら教育システムの整備をめざしています。これまで私が訪問診療で培ってきたノウハウを共有し、ぜひ実現させたいですね。

最後に、読者へのメッセ―ジをお願いします。

屋宜亮兵院長 ゆずりは訪問診療所6

これまで、ゆずりは訪問診療所を支えていただいた皆さまに感謝しています。困っていることがあればなんでも相談してほしいと思っています。現在、相談に来られるのは、病院や施設の職員やケアマネジャーの方が多いです。ですが、患者さんやご家族からも月に数件は「訪問診療に来てほしいけれどどうしたらいいか」といった問い合わせがあります。実際に自分自身や身内が介護することになった場合、どこに相談したらいいか、何をするべきか、わからないことだらけだと思うんですね。また、地域や病院でも「こんな方がいらっしゃるんだけれど、どう対応したらいいんだろう」という場合もあると思います。そういう場合に、最初に相談してもらえる地域の窓口になりたいと思っています。

Access