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婦人科系疾患の基礎知識

(公開日2015年11月26日)

育児や仕事に忙しい女性は、ついつい自分の体のことは後回しにしてしまいがちです。また、女性特有の疾患はデリケートなものが多いためか、日本では検診の受診率もまだまだ高いとは言えません。「私は大丈夫」と決めつける前に、まずは代表的な婦人科系疾患について、どんな病気なのか、その兆候や検査について知っておきましょう。

この先生に聞きました!

田中 京子先生画像

慶應義塾大学医学部
産婦人科教室専任講師

田中 京子先生

慶應義塾大学卒業後、同大学病院、国立病院機構埼玉病院産婦人科医長を経て、現職。
子宮頸がんの手術を数多く手がけ、子宮を温存する最新治療で実績を重ねている。
都内のクリニックで検診も担当。

20代で子宮全摘出など若年層のがん患者が急増。
危機意識を持って検診を!

自治体による無料クーポンの配布など婦人科がん検診の受診を促す取り組みが盛んに行われる中、肝心の受診率は依然2割程度と低迷が続いています。内診に対する抵抗感や、子育てや仕事に忙しく受診するきっかけがないなど、未受診の理由の背景には、乳がんで年間約1万2000人、子宮頸がんで約2700人以上の方が亡くなっているという現実に対する危機意識の低さがあるのだと思います。
私は子宮頸がんの手術を手がけていますが、かつて40代と言われていた発症年齢のピークは年々下がり続け、最近では20代前半の方の子宮全摘出手術に携わることも、以前に比べて珍しいことではなくなっています。
新たな治療法が選択肢として加わり、2㎝未満の小さながんであれば、頸部のみを摘出して子宮の一部を温存し、将来の妊娠・出産に望みをつなぐこともできるようになりました。今や万が一がんになっても、非常に早期であれば出産を諦めなくていい時代になりつつあるのです。
もちろんこうした治療法の恩恵を受けるために、検診による「早期発見が大前提であることはいうまでもありません。検診は何の異常も感じていない今だからこそ受けるべきもの。せめて2年に1度、少しだけ時間を作ってがん検診に足を運んでください。

自分の目と手で発見できる唯一のがん。こまめな自己検診が早期発見の一助になる乳がん

気をつけるべき人は?

30歳代から増加し、40代後半~ 50代前半が発症のピーク。とりわけ、母親や姉妹など身近な家族に乳がんを発症した人がいる場合や、卵巣がんや良性の乳腺疾患の既往歴がある場合は注意が必要。また初潮の年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産・授乳経験がない、高齢出産、飲酒習慣、閉経後の肥満などもリスク要因に挙げられる。

どんな症状?

乳房にしこりができるほか、乳頭から血液が混ざったような分泌物が出ることも。がんが乳房の皮膚の近くに達すると、えくぼのようなくぼみができたり、赤く腫れ上がったり、乳房の表面の皮膚に変化が表れる。わきや鎖骨など乳房周辺のリンパ節に転移しやすいため、腕がむくんだり、しびれが出ることもある。

検診の内容

視触診と、超音波、マンモグラフィの2種類の画像検査を実施。乳腺の厚みがある30代は超音波検査を優先し、40代以降にマンモグラフィ と超音波を併用するスタイルがお勧め。月に1度は自分で乳房に触れ、しこりや硬い物が触れないか、自己検診してみることも有効。

20代の罹患者が急増!性交経験のあるすべての女性にリスク子宮頸がん

気をつけるべき人は?

性交渉で感染するヒトパピローマウイルス(HPV)が原因とされ、遺伝などに関係なく性交経験のあるすべての女性にリスクがある。20代から増加し、30歳~ 40代前半が発症のピーク。50歳以上の発症件数が順調に減少しているのに対し、20代女性の発症が急増。妊娠・出産回数が多い人や喫煙者はリスクが高まる。

どんな症状?

初期には自覚症状がほとんどなく、自分で気づくことは難しい。進行すると、月経時以外の不正出血や性交時の出血、茶褐色、黒褐色のおりものが増えるなどの異常がみられる。腰痛や下腹部痛が伴うときは、がんがかなり進行しているケースが多い。症状が出てからの受診では手遅れになるので、20歳から少なくとも2年に1度は検診を受けたい。

検診の内容

子宮の入口である頸部付近の細胞を専用の器具やブラシを使って採取し、細胞診を行うのが基本。異常がある場合は腟拡大鏡(コルポスコープ)を使って、腟内や子宮頸部の様子を詳細に観察。病変が疑われる部分の組織を切り取り、より精密な検査を行う。

頸がんとは似て非なる疾患。不正出血は前がん病変のサイン子宮体がん

気をつけるべき人は?

40代後半から増加し、50代~ 60代がピーク。近年は年齢に関係なく増加傾向にあり、リスク要因として閉経年齢が遅い、出産経験がない、肥満体質などが挙げられる。糖尿病や高血圧の人、家族に乳がんや大腸がんを発症した人がいる場合も注意が必要。ウイルス感染が原因の子宮頸がんとは異なり、ホルモンの刺激で起こることが多い。

どんな症状?

初期のうちから不正出血が起こるため、月経以外で原因不明の出血が少量ずつ長く続く場合やおりものに血液が混じる、あるいは閉経後に出血がある場合は、できるだけ早く婦人科専門医を訪ねて検査を。こうした不正出血が前がん状態のサインとなることも多い。ほかに、骨盤周辺の痛みなどが表れることも。

検診の内容

子宮内膜の細胞を採取し、細胞診を行った後、必要に応じて子宮内膜の組織検査や子宮内膜のすべてを採取する子宮内膜全面掻把を行うこと も。細胞診は一部の自治体検診で実施しているが、不正出血があった人などに限定している場合が多い。人間ドックのオプションなども活用しよう。

30~50代の5人に1人は持っている。不妊、流産の原因にもなる子宮筋腫

気をつけるべき人は?

子宮にできる良性腫瘍で、最近では食生活の欧米化で子どもの体格の成長が著しく、性成熟期も低年齢化しているため、患者の年齢層は20代から50代前半と広がりを見せている。ピークは40代前半。遺伝性の疾患ではないが、食生活やライフスタイルとの関連性が指摘されていて、身近な家族に筋腫が見つかっている場合も注意が必要。

どんな症状?

自覚症状がなく、検診時に見つかるケースが多いが、生理痛がひどくなったり、経血の量が増えることによる貧血などの症状を引き起こす。筋腫が大きくなると、膀胱や腸、骨盤の神経や血管が圧迫され、頻尿、便秘、腰痛がみられることも。不妊や流産の原因にもなるため、妊娠を希望している場合は早めにチェックを。

検診の内容

一般的な婦人科検診で調べることが可能。問診、内診、超音波検査を行う。超音波では直径1㎝ほどの小さな筋腫も見つけることができる。 既に月経異常がある場合は生理周期や、出血量の変化について、問診で詳しく医師に伝えることも大切。

激しい生理痛から始まり、頭痛、嘔吐、発熱などの全身症状もみられる子宮内膜症

気をつけるべき人は?

20代~ 40代の女性に多くみられる疾患。生理周期が短く、一回の生理が7日以上続くような場合はかかりやすいとも指摘されている。女性のライフスタイルの変化に伴って、出産年齢の高齢化、出産回数の減少が進むことで、内膜症を引き起こす女性ホルモン(エストロゲン)が長い間分泌され続ける傾向が強まり、患者数は急激に増加している。

どんな症状?

自覚症状のない人から、開腹手術を要するような激しい腹痛に見舞われる人まで、症状には個人差が大きい。主に生理痛の変化を訴えるケースが多い。下腹部痛や腰痛がだんだんひどくなり、出血量が増えるほか、進行すると生理中に頭痛や吐き気、嘔吐、発熱、下痢などの症状がみられることも。不妊症の原因にもなるため、早期の治療が肝心。

検診の内容

一般的な婦人科検診で対応可能。内診と超音波で、子宮や卵巣の大きさ、癒着の有無などを確認。必要に応じて直腸診、MRI、血液検査などより詳細な検査を行う。内膜症があると、血液中の腫瘍マーカーの値が高くなることがあり、腫瘍マーカーを診断の際に補助的に活用。
※腫瘍マーカー…がん細胞に存在する特異な分子を調べる血液検査

閉経前後10年間を襲うつらい全身症状。乗り切るコツはストレスフリーな生活更年期障害

気をつけるべき人は?

45歳~55歳頃、閉経の前後10年間に症状がみられる。普段から生理周期が不順な人や、PMS(月経前症候群)がある人、乗り物酔いしやすいなど自律神経系が弱い人は症状が出やすい。不規則な生活で睡眠不足がちな人、過労気味の人も症状が重くなりやすい。ストレスをためず、規則正しい生活を送ることが更年期障害の症状を軽減するポイント。

どんな症状?

のぼせや発汗、動悸など自律神経系の症状が代表的だが、頭痛、めまい、耳鳴り、憂うつ感、判断力や集中力の低下、不眠、不安感、倦怠感などが現れる。ほかにも、肩こり、腰痛、関節痛、湿疹、唾液分泌異常、吐き気、便秘、下痢、のどのつかえ、月経異常、頻尿などさまざまな全身症状がみられる。

検診の内容

正確な診断は血液検査でホルモン状態をチェックすることによって可能。よく似た症状を呈する疾患として、甲状腺機能障害や高血圧、メニエール病など重大な疾患が挙げられる。安易な自己診断をすることでこうした疾患を見逃してしまうリスクもあるため、早めに専門医に相談を。

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