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中村 正廣 院長の独自取材記事

医療法人 中村クリニック

(大阪市東成区/緑橋駅)

最終更新日:2023/02/27

中村正廣院長 医療法人 中村クリニック main

「名医」ではなく、信頼できる「良医」を見つけ、納得のいく死を迎えることが、自分にとっても社会にとっても幸せな道である。そう話すのは、地下鉄中央線・緑橋駅から徒歩3分ほどのところにある「医療法人 中村クリニック」の院長、中村正廣先生。大阪地域医療連携合同協議会の会長を務め、高齢者が住み慣れた地域で最期まで住み続ける「エイジング・イン・プレイス」をめざし、地域包括ケアシステムの構築に励む。近い将来、世界のどの国も経験したことのない、超少子高齢化を迎えようとしているわが国で、私たちは何をすべきで、どう受け入れていくべきか? 取材を通じて、地域医療や介護の本質が見えてきた。

(取材日2017年6月14日/情報更新日2023年2月21日)

医療は完結しない。だからこそ「終わらせ方」が大切

クリニックを始めたきっかけを教えてください。

中村正廣院長 医療法人 中村クリニック1

総合病院で勤務していた頃は、消化器外科医師として数多くのがんの手術を手がけ、患者さんが少しでも長く生きられるために情熱を注いでいました。ですが、手術が成功しても、患者さんの生活を100%元どおりにすることは難しいです。取りきれないがんを残して退院される方が、その後どんな生活が待っているのかわからないまま、自宅に帰されました。中には一人暮らしの高齢者もいましたが、当時はその人にどんな背景があって、どんな生活を送りたいと考え、どんな治療を望んでいるかといった選択肢は与えられませんでした。地域医療としての送り手側として、私に何かできることがあるんじゃないか?と考える機会が何度もあり、それがこのクリニックを始めたきっかけとなりました。

敷地内にある建物は、介護つき有料老人ホームでしょうか?

「中村外科」として父が診療していたこの場所を「中村クリニック」と改め、総合診療をスタートさせたのは介護保険が始まる4年前の年でした。外来と訪問診療を行うほか、介護保険の始まる年にクリニックの敷地内に介護つき有料老人ホームを始めました。当時、有料老人ホームは、家族がなかなか面会に行けないような地方の山奥にあり、町の中にできるのは珍しかったです。ここの大きな特徴は、療養するための「施設」ではなく、生活するための「住居」である点です。住み慣れた生活圏内で、自分で鍵を開け閉めして、好きな時に外出ができる。もし具合が悪くなったら、24時間いつでも駆けつけてくれる医師がいて、寝込んだら看取りもしてくれる。今は特定施設と呼ばれているものですが、自分の生き方と死に方を決められる住まいを20年以上前に実践したのです。

地域医療の視察地として、デンマークを選ばれたのはなぜですか?

中村正廣院長 医療法人 中村クリニック2

デンマークは40年以上前に、少子化と高齢化を経験した国です。時間をかけて少子高齢化が進んだ点は日本と違いますが、お年寄りが増え、施設はあったのですが、ヘルパー不足に直面しました。そこで、打開策を探るため、若者にアンケート調査を行ったのです。「兵役と介護、選ぶとしたらどちらをとるか?」という質問に、8割以上が「兵役」と答えました。若い人に年寄りの面倒を見てもらうのは不可能ということを認めざるを得ない、衝撃的な結果となったのです。この危機的状況を乗り越えるには、制度を整え、税金を上げることに対し国民が理解を示すこと。肩書やプライドを抜きで、介護に対する考え方そのものから変えていく必要があること。立ち上がり、少子高齢化対策を国民に呼びかけたのは、デンマークの女性たちでした。

高齢者が安心して生活できる町づくりに取り組む

どこまでの医療を望むかは、日本とデンマークでは考え方に違いがあるようですね。

中村正廣院長 医療法人 中村クリニック3

日本が世界一の長寿国となれたのは、寝たきりの人や生きたいという意思がない人まで、エンドレスに治療してきたからです。生きている以上、放っておくわけにいかないので、点滴と栄養補給で延命させ、死を待つだけの医療を行ってきました。限界のない医療は医師不足を招き、医療保険財源を枯渇させることは目に見えていますが、どんな人も助けなければならないというのが、今の日本の法律です。これに対しデンマークは、できる限りの医療で健康寿命を延ばすという考え。平均寿命は短くても構わないのです。自分の残された能力で最低限の社会生活が送れなくなったら、それ以降の医療や介護を望まず、自然な死を選びます。最初からそうだったわけではなく、医療費、マンパワー不足、人種差別など、あらゆる問題を認識した上で、30年かけて国民の意識が変わっていきました。

求められる介護とは?

ホームヘルパーが手取り足取りやってしまうことは、患者さんの生きる力や意欲を奪うことになります。さらには、「わしの眼鏡取ってくれんか?」と、夜中に電話でヘルパーを呼び出すといった、召し使い症候群になることも。デンマークでは、マンパワーでの身体介護は行わず、違反が見つかったら減給されます。本当に危ないときだけ手を出す、「後ろからの介護」が定着しているのです。また、医師もヘルパーも目線を同じくして、在宅者の望む介護、寄り添う医療で在宅療養生活を過ごしています。地域医療は、人と人とのコミュニケーションが非常に大事です。東成区の今里商店街にも、高齢者の交流拠点を作り、安心して生活できる町づくりに取り組んでいます。

地域包括ケアシステムとは?

中村正廣院長 医療法人 中村クリニック4

高齢者が住み慣れた家で最期まで、医療や介護の心配なく、安心して生き抜くために、住まい・医療・介護・予防・生活を一体でサポートするシステムです。制度の枠組みが定着しつつありますが、その中で一番難しいのが住宅の整備です。高齢者の多くが、急な階段や車いすが通れない間取りの、介護に適さない住まいで生活しています。住宅の確保というのは、介護施設を充実させることではなく、高齢者が住みやすい住宅を提供することです。その町の中心に「地域医療連携室」があり、医師、訪問看護師、デイケア、ナイトケア、さまざまなスタッフが連携して生活を支援し、人生の最後が幸せだと思えるような演出をします。

地域医療の基盤づくりを大阪から広めていく

地域医療連携室には、どのような役目があるのですか?

中村正廣院長 医療法人 中村クリニック5

退院後にかかりつけ医を探す際、患者さんの病状をよく知る総合病院と、地域のクリニックの情報を一番知っている医師会の連携室ががっちり組めば、患者さんを地域医療に送る流れがスムーズになります。このケアサイクルを確立するため、私が大阪地域医療連携合同協議会の会長になり、大阪全体の病院と医師会をつなぐパイプ役のリーダーとなりました。患者さんのお住まいと必要な医療から適材適所の医師を紹介するだけでなく、一つのクリニックに訪問診療が集中して負担が偏らないように、コントロールして割り振ります。また、医療は単なるメディカルだけではなく、24時間の生活に対応するもので、人と人との相性が大事。間に誰かが入ることで、お互い不都合なことがあってもストレスを回避できるので、コンシェルジュ的な役目も果たしています。

今後、医師に求められるものは?

一日に60人、70人もの患者さんを診察する日本の外来医療はクレイジーだと、海外の友人に言われることがあります。それは、医師のやることではない、ただ仕事をしているだけだと。数をこなせば収入は増えますが、こんなことを続けていたら、介護保険と医療保険はあと数年で崩壊してしまうと感じますし、困るのは国民と医師です。在宅医療の使命は、患者さんが選んだ生活の中で、最期まで責任をもって面倒を見ることだと思っていますが、その感覚が自然に湧きあがってくるのは難しいでしょうね。なぜなら、医師に臨終の教育はなく、大学の教授も知らないので教えられません。看取りやその方の死に方を知っているのは、現場のかかりつけ医です。その町医者を束ねる医師会が在宅医療を含めた地域医療の要になり、「納得する死」とは何か伝えていくべきです。

最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

中村正廣院長 医療法人 中村クリニック6

今後は、年寄りの面倒を見ていくのは元気な年寄りが中心で、ロボットや外国人労働者の力を借りてサポートするスタイルになっていくと思います。若い人にはしっかり働いて国の面倒を見てもらわないと、日本は本当に潰れてしまいますから。世の中の多くは競争原理ですが、地域医療や高齢化問題は、肩書やプライドを抜きにしていかないと解決できない問題です。優れた医療を培ってきた日本がこの超少子高齢化社会をどう乗り超えるか世界が注目しています。日本人の真価が問われるのはこれから。まずは自分の地域で、できることから始めていきます。

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