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澤野 隆志 院長の独自取材記事

澤野医院

(名古屋市北区/黒川駅)

最終更新日:2021/10/12

澤野隆志院長 澤野医院 main

名古屋市・北図書館近くの住宅街の一角に位置する「澤野医院」。医院の建物は自宅を兼ねており、どこか懐かしさを感じさせるアットホームな雰囲気のクリニックだ。「患者さまの物語に、1人の登場人物として存在し、関わっていきたい」と語る澤野隆志院長は、対話を通して患者だけの物語、つまり患者の“人生”とともに歩むドクター。数値として示された基準に則した健康ではなく、目の前の患者にとって健康であるかどうかを見据える診療は、外来診療に留まらず、近年は訪問診療や往診といった在宅医療でも実践され、文字どおり生涯にわたるサポートにつながっている。澤野院長の医療に対する哲学をたっぷり語ってもらった。

(取材日2018年5月10日)

患者の“人生”とともに歩む医療を提供

医師を志したきっかけを教えてください。

澤野隆志院長 澤野医院1

父が京都の実家で開業医をしていたため、自然と同じ道へ進むことを決めていました。幼い頃は家族で食事しているときに患者さんから連絡が入り、父が座を外すといったこともよくあって、子ども心に「医師とはこういう仕事なんだな」と感じていたのを覚えています。医師となった際、はじめに専門としたのは循環器内科です。まず循環器科は、治療に際して薬の選択肢が多く適切な薬を見極め処方する、医師のさじ加減が重要となる分野だと考えました。そして大学病院などで研鑽を積んだ後、妻の地元であるこの地に当院を開業したのが26年ほど前のことです。

現在の患者層や主訴で多いものを教えてください。

子どもからお年寄りまで、幅広い年齢層の患者さんが来院されていますが、ここ10年ほどは成人の患者さんが中心となっています。町のクリニックですから、相談の内容も日常的なものが多いですよ。風邪などの不調や、高血圧などの慢性疾患、働き盛りの方であれば、健診結果に関する相談といったのもありますね。あと、最近は認知症に関する相談も増えてきています。

現在、診療の軸とする考え方について教えてください。

澤野隆志院長 澤野医院2

以前は、「あれはダメ、これは控えるべき」といった指導が多かったのですが。現在、私が重視しているのはNBM、つまりNarrative Based Medicine、物語と対話による医療です。Narrativeを訳すと「物語」。つまり、患者さんのこれまで歩んできた人生や、これから歩みたいと考えている人生を一つの物語として捉えて、その流れに則した医療を行う、といったものです。私が医師になった頃は、ちょうど現在の主流であるEBM、つまりEvidence Based Medicine、根拠に基づく医療がスタンダードになりつつある時でした。もちろん、診療を通して直接的なアプローチが必要となる場面もあります。しかし大前提として、その人の人生に則していなければ意味がない。在宅医療などの現場の経験を通じて、そう気づかされたのです。

患者が自分の物語を生きられるようサポート

現在の方針に至ったきっかけは何だったのでしょうか?

澤野隆志院長 澤野医院3

在宅医療に足を踏み入れたことで、患者さんの生活、いわば患者さんの土俵で物事を見られるようになったのが、きっかけかもしれません。何年も外来で診ていた、たいへん真面目な患者さまのご自宅に訪問診療で伺った際、これまで処方した薬が山積みされていたのを目にしたのです。その方は4週置きにきちんと診察を受け、処方されたお薬も受け取っていました。でもその方にとって、そこまでが「物語」として存在していて、「処方された薬を飲む」といったことは、物語としてそれほど重要ではなかったんですね。もちろん、私のことは信頼していないわけではないでしょうし、薬が絶対嫌というわけではなかったと思います。でも毎日飲んでいたわけではありませんでした。たとえ薬を飲むことが「正しいこと」であったとしても、それがその方の物語の中に受け入れられなければ、薬は山積みとなるだけ。その実情を目にしたことは大きかったと思います。

診療の際に心がけていることは何ですか?

私にできるのは、患者さまのお話に耳を傾けることだけですから。しいて言うならば、患者さまが、「自分らしい人生」を生きられるように、対話を通してひもといた物語を、患者さまにとって有益な方向へ展開すること、でしょうか。いかにその方の価値観でその方の人生を制約しないで、あるいは最低限の制約で治療ができるか。患者さまと話しながら治療計画を立てていきます。その中で、時には自分だったら、自分の家族だったら何を望むのかといったことをベースに考えていきます。治療は、受け入れてもらってこその意味を成しますからね。

丁寧なやりとりを通して、患者さまの健康に寄与していくのですね。

澤野隆志院長 澤野医院4

ただ、何をもって「健康である」といえるのかを考えることは、実はとても難しいことなんです。一般的な基準を超えてしまっていたら、健康ではないのかと言えば、そうではありませんよね。もちろんリスクはあるでしょうが、必ず病気になるというわけではないですから。健康は、患者さま一人ひとりによって異なる、一辺倒には定義できないものです。ですので、氾濫する情報を適切に精査することも、私の役割と思っています。情報が手に取りやすくなった分、自分に当てはまるかどうかもわからず、やみくもに手を出してしまう方も、いらっしゃいますので。そこでも、患者さまにとって必要な情報なのか、その情報は有益であるのかをしっかりお伝えするようにしています。

健康の秘訣は“己に固執せず人のために生きること”

訪問診療についてもお聞かせください。

澤野隆志院長 澤野医院5

主に患者さまのご自宅へ私1人で伺っています。あくまでも診療の場が変わるだけのことであって、やるべきことは変わらないです。以前、長らく抗がん治療を受けていて、最終的に在宅医療に移行した患者さまを看取ったことがあるのですが、医師として思うところがありました。入院生活は当然ながら制約もありますし、治療の負担も大きいものだったことでしょう。そういった、苦しい毎日は、ご自宅で普通の生活を送る場合より、うんと物語の展開は少ないと思うのです。誤解を恐れずに申し上げると、もっと別の物語の中で生きることも可能だったのでは。そう思えることすらあります。もちろん私も必要な薬は処方しますが、どこまで患者さまの物語を大切にできるかが、重要だと思います。

ご自身の健康のために気をつけられていることはありますか?

私のポリシーとして、長生きするためには「自分」にこだわりすぎるのではなく、他の人が私を必要としてくれることが重要だと感じています。簡単に言えば、生物としての人の寿命は子どもを生み、育てる年齢まで。昔は「人生50年」と言いましたよね。それ以降は、社会の中で自分がどう役立っているかということに価値が生まれるというのが私の哲学です。周囲の人に、「あの人に生きていてほしい」と思われることが、私が生きていくパワーになっていると考えます。

最後に読者へのメッセージをお願いします。

澤野隆志院長 澤野医院6

自分の周りに当然のようにある物事の存在の尊さに気づいて、それとの関わり合いを大切に生きていってほしいと思います。自然に、自分の周りにある物事と接していること自体が尊いのです。物語の中で生きていると、物語のありがたさを忘れてしまいがちです。それだとあまり幸せな気分ではないですよね。ですので、人と人との関わり合いのありがたさを感じながら生きていってほしいなと思います。

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