訪問看護師は、病気や障害で在宅療養している人たちの家へ訪問し、身体的・精神的な看護を行う「訪問看護」に取り組む看護師のことをいいます。主治医やケアマネジャーなどと連携しながら療養者の日常生活を支える、地域医療で欠かせない存在です。
訪問看護の道を選ぶ看護師が年々増加していることは「介護サービス施設・事業所調査」(厚生労働省)からも見て取ることができ、多くの看護師たちから注目を集めている仕事の一つとなっています。
看護だけでなく、入退院(入退所)に関する相談への対応や在宅ケアサービスの紹介、関連機関との連携などを図りながら、本人や家族が希望する療養生活をかなえるために多角的な支援や調整を行う訪問看護師は、医療・福祉を含めた地域包括ケアの考え方が広まりつつあるわが国において、今後も一層重要な存在となっていくことでしょう。
この記事では、そんな訪問看護師のやりがいや魅力、求められるスキル、どんなタイプの人にぴったりなのか、そして訪問看護師の職場の探し方を紹介します。訪問看護師への関心がある人はもちろんのこと、訪問看護師についてあまり知らないという人も、ぜひ自分が看護師として重視したい点と訪問看護師が合っているかどうかを知る機会となれば幸いです。
なお、訪問看護の概要や訪問看護師の仕事内容、働く際に所属する事業所、一日の仕事の流れなどを以下の記事で紹介しています。訪問看護師についての理解がさらに深まるので、併せてご覧ください。
1 訪問看護師のやりがい・魅力
訪問看護の分野で活躍している看護師の中には、大規模病院やクリニックでの勤務経験など、さまざまな経歴の人がいます。訪問看護師として働く場合、他の現場と比べてどのようなやりがいや魅力があるのでしょうか。
モチベーションアップや働きやすさを感じられる訪問看護ならではの特長などを見ていきましょう。
①ホスピタリティー精神を発揮しやすい
クリニックや病院での勤務経験者の中には、多くの患者への対応に追われてしまい「一人ひとりとゆっくり話すことができなかった」「思うようにケアに時間をかけられなかった」というジレンマを感じたことのある人も多いようです。
訪問看護の場合、療養者の家を訪問してケアしている間はその療養者だけに集中できるので、話に耳を傾けたり顔色や表情などの変化に気を配ったりしながら対応するなど、こまやかなケアが可能に。また、「どういう療養生活を送りたいか」といった療養者の意思を尊重した上で、生活環境や暮らしぶりに合わせた看護ができるので、療養者の思いに寄り添えていることを実感しやすいです。
②療養者本人や家族からの感謝を実感できる
クリニックや病院で働くことの良さの一つは、常に一緒に動く同僚の看護師やスタッフたちがいること。同僚と協力し合える環境が、楽しさや刺激へとつながる人も多いでしょう。
その一方で、患者にとって複数いる看護師の中の一人という状況の中で働くケースが多いので、自分の頑張りに対する患者の満足感というものを実感しづらいという人もいるかもしれません。
それに対して、療養者の家へ訪問してマンツーマンで看護する訪問看護師の場合、自宅でケアを受ける療養者にとって欠かせない存在だと実感できる場面が多く、充実感につながりやすいです。さらに、誠心誠意ケアをして心を通い合わせれば、療養者本人や家族の喜びや感謝の気持ちなどを直接伝えてもらえることも。これが何事にも勝るやりがいだと感じている訪問看護師は多いといいます。
③主体的に仕事に取り組めて自己裁量の範囲が広い
点滴やカテーテル管理のような診療の補助については医師の指示を仰ぐことが原則ですが、食事のケアや清潔のケア、排泄のケアといった療養上の世話は、現場で療養者や家族の意向を確認しながら訪問看護師の判断のもとで実施します。
このように、訪問先で自分自身の裁量に任される範囲は広く、療養者が快適に過ごすことを第一に考えたサポートを行えることも、訪問看護師の魅力です。
④地域医療への貢献を実感できる
訪問看護は、ケアマネジャーや医療・福祉関係者といった地域医療に欠かせない職種の人たちと連携を図りながら取り組むものなので、自分自身も地域医療を支える一員として役に立てていることを実感しやすいです。
⑤移動時など、自分のペースで行動しやすい
療養者の家への往復は一人で移動することが多いため、昼食のタイミングや場所を自分である程度選べたり、外での休憩時間中に郵便局や銀行などでの個人的な用事を済ませたりしやすいのは、外出が中心の訪問看護の魅力。
また、車の中など一人で過ごす移動時間が気分転換になって、仕事のモチベーションにつながるという声もあるようです。
⑥夜勤のない職場や土日祝休みの職場が多く、ワークライフバランスを保ちやすい
もちろん勤務先によって違いはありますが、病棟勤務などと比べて夜勤が少ない、あるいは夜勤がない職場が多いというのも働きやすさの一つ。また、土日祝を休みとしている職場が多いので、家族や友人とのプライベートでの予定を合わせやすいです。さらに、残業時間も少なめで定時での出退勤がしやすい傾向にあります。
以上より、安定した労働時間や休日が見込めるので、ワークライフバランス(バランスのとれた仕事と生活)を保ちやすいといえるでしょう。
ただし、オンコール対応がある職場の場合、休日や勤務時間外、夜間での対応が発生するケースもあるので、志望する事業所の体制はあらかじめ確認しておきましょう。
2 訪問看護師で求められるスキル
訪問看護師として従事する際は、正看護師または准看護師の国家資格が必要です。ただし、准看護師は対応できる業務に制限があるため、求人では「正看護師に限る」といった応募条件がつけられていることが多いです。 加えて「3年以上」といった臨床経験を求められるケースもありますが、最近は経験問わず新卒で募集・採用し、独自に教育する事業所も増えています。
なお、遠方の訪問先を抱えている事業所の場合には自動車の運転免許が必要となる場合もあります。
また、一人で療養者と向き合う訪問看護師にとって、コミュニケーション力や急変時の判断力や対応力、ほかの職種との調整能力は不可欠。これらが必要となる理由を以下にまとめましたので参考にしてください。
①コミュニケーション力
療養者一人ひとりに寄り添い、より深くこまやかな看護を行う上で、療養者本人や家族との綿密なやりとりが業務では求められます。療養者や家族から安心して看護を任せてもらえるように、趣味の話などの雑談をきっかけに親近感を持ってもらえるように努めたり、療養者や家族の心情に配慮した伝え方や受け答え方で不安を抱かせないように心がけたりするなど、距離を縮めるためのコミュニケーションの工夫が不可欠。訪問先によって年齢も性別も異なる療養者や家族たちと、それぞれに合ったコミュニケーションを図っていくことが信頼関係を築くポイントとなります。
コミュニケーション力の必要性は訪問看護師に限ったことではありませんが、療養者の看護を一人で担いつつも、さまざまな人たちと関わりを持つ訪問看護師には特に重要といえるでしょう。
②判断力・対応力
療養者からの呼び出し、容態の急変といった緊急事態への迅速かつ柔軟な対応が求められることも。また医療機関ではなく療養者の自宅での看護が基本なので、医療設備が万全ではない状況で医療処置を行わなくてはならないケースがほとんどです。機転を利かせた判断・対応が業務において求められる点は押さえておきましょう。
③他職種との調整能力
在宅ケアを支える医師やケアマネジャーはもちろんのこと、療養者のケア内容によって歯科衛生士、理学療法士、薬剤師などさまざまな立場の関係者と連携していかなければなりません。
例えば、同じ訪問看護ステーションに所属している看護師と理学療法士が療養者の身体機能の情報を共有し合って、リハビリ内容を検討するというケースや、療養者の要望を踏まえて訪問看護計画の作成時に、ケアマネジャーとのやりとりで訪問回数や訪問時間を決めるケースなど、さまざまなシーンでほかの職種の人たちとケアに関する調整が求められます。
3 訪問看護師に向いているタイプ
訪問看護師は、療養者の自宅を訪ねて、療養者にとって唯一の看護師として向き合うことができます。だからこそ、日頃から患者や家族と深く関わり合いながら看護したいと思っているような人に向いているといえます。
その一方で、訪問看護は主治医やケアマネジャーなどとのチーム体制で取り組んでいく側面もあるため、いろいろな立場の人と連携しながら働くことにやりがいを感じやすい人にもぴったりかもしれません。
また、ルーティンワークをこなすという場面が少ないという点も訪問看護ならでは。決められたことを淡々とこなすのではなく、看護する相手一人ひとりの性格や生活環境、その場の状況などに合わせて主体的に考えながら取り組んでみたいと思う人は、訪問看護師ならその希望を満たしやすいといえるでしょう。
さらに、患者の喜びの声にふれたいという欲求が強い人、患者から信頼を得られているという実感を強く抱きたいと思う人は、療養者や家族の喜ぶ姿や感謝の気持ちに直接ふれる機会の多い訪問看護師の仕事に、充実感を抱きやすいでしょう。
4 訪問看護の職場の探し方
訪問看護師の求人は、求人サイトや転職エージェント、ハローワークなどで扱われることが多いです。訪問看護という仕事、働き方に少しでも興味が湧いたという人は、これらの方法で、希望する勤務地や条件面などに合わせて実際の働く環境や条件面などをリサーチしてみましょう。
転職エージェントの「ドクターズ・ファイル エージェント」では、専任のキャリア・アドバイザーが求職者の希望に沿った訪問看護の求人紹介を積極的に行っています。自分に合った職場に出会いやすくなるので、探す方法の一つとして活用してみてください。
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ここまで、訪問看護師のやりがいや魅力、向いているタイプ、職場の探し方を紹介しました。療養者やその家族と信頼関係を築きながら働くことへの充実感は、訪問看護師でないとなかなか味わえないもの。看護師としての新たな活躍の場を探している人は、ぜひ選択肢の一つに入れてみてください。