隅本医院 (大阪市西成区／西天下茶屋駅)
隅本 勉 院長の独自取材記事
大阪市西成区、阪神高速15号堺線の高架沿いに住宅や工場が並んだ一角にある「隅本医院」。隅本勉院長は、1997年に父から診療を引き継ぐかたちで開業、その後20年以上にわたり、地域住民の健康を支えてきた。「すべての医療行為は患者さんのためのもの」を理念とする院長は、内科疾患や専門の循環器疾患の診療に加え、増加の一途をたどる悪性腫瘍や骨粗しょう症などに注目し、予防や早期発見のための検診を同院で積極的に実施している。また「根拠に基づいて説明できる正しい医療の利益を、多くの患者さんに得てほしい」との思いから、患者への説明に力を入れる。かかりつけ医として、子どもから高齢者まで幅広い住民に慕われる院長に、現在の診療内容やその根底にある医療への思いを語ってもらった。
内科・循環器を中心に地域医療ならではの診療を展開
最初に、先生のこれまでの歩みをお聞かせください。
父は産婦人科の医師でしたが、晩年には内科の診療をしていました。私はその姿を見て育ったので、自然と関西医科大学へ進み、内科を専攻しました。内科の研修後は循環器科を選び、卒業後は大学病院のCCU（冠疾患集中治療室）に配属されました。心疾患の救急セクションですので、心筋梗塞などで救急搬送されて一刻を争う治療が必要な患者さんと向き合ううちに、これは生涯をかけて取り組みたい仕事だと思うように。また臨床だけなく研究にも携われたので、大学での診療はたいへん充実していました。しかし父が病に倒れ、診療が難しくなってしまったのですね。その時には非常に迷いましたが、地域の患者さんへの責任を強く感じたことから、最終的にはこちらへ戻り、父の医院を継承して1997年に開業しました。
現在の診療内容を教えてください。
内科、循環器内科、小児科の診療をしていて、子どもから高齢者まで幅広い年代の患者さんが受診されています。症状もさまざまで、風邪やインフルエンザといった流行性疾患がはやる時期にはその患者さんが増えます。ですが新型コロナウイルスの感染拡大により、手洗いやマスクなどの感染予防対策が徹底されたこともあってか発症自体が減りましたし、軽い発熱や倦怠感であれば、受診を控えて様子を見る雰囲気もあります。特にお子さんではその傾向が強いですね。糖尿病や高血圧などで定期的に通院されるご高齢の方については、受診間隔をあけるように配慮しています。訪問診療に伺う患者さんにも感染予防対策が欠かせず、新型コロナウイルスによって大きな影響を受けています。
ご専門である循環器疾患の患者さんも増えているとか。
インターネットなどを通じて、当院が循環器の診療をしていると知られるようになりました。西成区内では循環器を専門にする医院が少ないので、近くの医院や行政からの紹介もあります。最近では、学校の心電図検診で異常を指摘され受診したお子さんで先天性の心疾患がみつかり、専門の医療機関へ紹介しました。また大人では、動悸や胸痛といった心臓の症状は重篤な心疾患であることも多いですが、特に心配する必要がない場合もあります。循環器を専門とする医師の地域医療での役割は、専門的な治療を受けるべきなのか、逆にそれほど心配する必要はないのかを科学的根拠をもって見極めることです。大学病院で多くの患者さんを診た経験を生かし、不安な症状のある患者さんをまずは当院で受け止め、より高次の病院へ紹介したり、専門的な検査を手配したりしています。
早期発見、早期介入で得られる多彩なメリットを伝える
さまざまな疾患の予防や早期発見にも、力を入れているそうですね。
がんになる人は年々増加していますが、がんは治る時代に入っていると言っても過言ではありません。早く見つけたほうが治療しやすいですし、費用の負担も軽い。70代の方が大腸の内視鏡検査を数年おきに受けるのと、進行した大腸がんが見つかり人工肛門をつくって抗がん剤治療を続けるのでは、医療費も体への負担もまったく違います。だから、健診や診察で消化器症状がある患者さんには、胃や腸の内視鏡検査を積極的に勧め、病院への紹介も行っています。他にも、消化器の超音波検査を専門とする医師に月1回来てもらったり、骨粗しょう症を診る技師を年2回招いて骨密度の測定を行ったりしています。消化器がんや骨粗しょう症は当院の専門ではありませんが、地域の患者さんが多く通う当院で検査をすることが、予防や早期発見のきっかけになるのです。
患者さんの立場で、医療を提供されていると感じました。
「すべての医療行為は患者さんのためのもの」です。若い頃は病気を治すことばかりを考えていましたが、今では予防や検査の重要性を強く感じるようになりました。骨粗しょう症の検査を始めたのも、ある講演会で整形外科の医師から「今、骨粗しょう症の骨折で入院している患者さんの半分は、骨折する前に骨粗しょう症と診断されておらず、内科を受診していた。今の骨粗しょう症は内科の病気だともいえる」という話を聞いたからです。今は、骨粗しょう症でも高血圧や糖尿病などの生活習慣病でも、予防方法や科学的根拠のある薬がありますからね。医療者の立場や利益に左右されず、患者さんが本当に必要とする治療や薬を届けることは、医師のモラルだと考えています。
時代とともに、早くに医療を受けるメリットは大きくなっているのですね。
私自身はずっと「すべての医療行為は科学的根拠をもって説明できなければならない」と考えてきました。そしてそういった正しい医療は、医療費の負担も軽い。実際に私たちは今、科学的なデータに基づいた治療を保険診療で受けられます。だから患者さんには、それらを必要なタイミングで届けたいですし、患者さんにも受け入れてほしいのです。「薬はできるだけ飲みたくない」という方もいますが、生活習慣が影響する病気では、薬物療法に加えて食事・運動・禁煙などさまざまな努力をしないと、病気の発症や進行を防ぐことは難しいです。ですので早期介入の重要性を何度も繰り返しお話しして、生活習慣病を大病につなげないように努めています。
「正しい医療」の実践のために患者と真摯に向き合う
医師として、大事にしていることを教えてください。
「正しい医療」を実践し、患者さんに説明できるようにするためには、こちらも勉強が欠かせません。最近では治療方針のガイドラインが数年ごとに改訂されますし、新しいお薬も次々に登場します。年齢を感じることもありますが、「勉強しなければ人は治せない」と自分に言い聞かせています。それから、医療は科学的な行為ですが、病気になるのは人間。さまざまな思いや不安、恐怖などがあるのは当然です。私もお参りに行ったりしますからね。そういった人の思いにも寄り添いつつ、多くの患者さんが医療のルールの中で良い結果を得られるように、医療にも患者さんにも真摯に向き合う必要があります。
ところで、スタッフの中には先生のご家族もいらっしゃるとか。
妻は看護師をしています。また当院は院内処方を行っていますが、妹が薬剤師をしてくれています。僕は昔から負けず嫌いで、常に上をめざす気持ちが強くて、これは医師を続けるのに必要な性分であったと思うのですが、スタッフにも同じ気持ちを持ってほしいと思っています。「患者さんのための医療」に関わっているという気持ちを根底に持って、それぞれの仕事をしてほしい。だからスタッフには、厳しい先生だと思われているかもしれません（笑）。でも長く勤務しているベテランスタッフが多く、皆よく頑張ってくれていると感謝しています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
今後も、医療の道を正しく歩んでいきたいと思っています。かつては薬の質や、治療方針もさまざまだったので、しっかり治療を受けた人とそうでない人の差はあまり出ないこともありましたが、今はまったく違うといえるでしょう。長く医師をしてきて、医療技術の向上を実感しています。正しい医療に基づいて予防や治療に取り組めば、患者さんはいつまでも元気に過ごすことをめざせますし、患者さんだけでなく国の医療費負担も軽くなります。若い頃は早期検査や予防に対して半信半疑なところもありましたが、今は迷いなく取り組んでいます。これからも「説明できる医療」で患者さんと向き合い、地域の健康を支えていきたいですね。
