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まごころの杜クリニック (名古屋市熱田区/日比野駅)

岩尾 康子 院長の独自取材記事

「まごころの杜クリニック」は訪問診療と外来診療を両輪で展開するクリニックだ。特に、近年ますます重要性が増している在宅医療に力を入れており、近隣の病院や訪問看護、ケアマネジャー、ソーシャルワーカーなどと連携し、きめ細かに対応している。岩尾康子院長は、患者のその人らしい生き方を尊重するのと同等に、患者の家族の負担や気持ちにも心を配る。「在宅での介護は大変です。それでも自宅で生活する意義はとても大きいので、全力で最期までサポートしたいんです」と力を込める。実際、医療行為はもちろん、小さな困り事にも耳を傾け、解決策を模索しているそうだ。そんな同院の在宅医療の実情や患者に寄り添う方針、そして在宅医療にかける思いについて聞いた。

長年の在宅医療への対応で医療・福祉の輪を築く

先生の医師としてのスタートについて教えてください。

父が開業医で、医師という仕事は身近な環境で過ごしました。父の専門は消化器外科でしたが、当時はクリニックでは今ほど専門性をうたっていませんでしたから、どんな症状にも対応していたのを思い出します。父への尊敬や医師という仕事への親しみから、医師になりたいと考えたのはごく自然なことでした。大学時代は、医学部での勉強も、体育会のテニス部も楽しかったですね。その後、13年間大学病院で研鑽を積みました。当時は入院期間も比較的長く、検査入院であれ、予後の観察のためであれ、入院を続けることが一般的でしたし、終末期もホスピスなどではなく入院が続く例も珍しくありませんでした。そこで患者さんや家族から「家に帰りたい」「家に帰してあげて」という声を聞くことが多かったのです。

大学病院での経験から、在宅医療に関心が強まったんですね。

米国などでは在宅医療が推進され、充実していると知りましたが、日本では介護保険の黎明期で、まだまだ病を抱えた人を家や地域で診るという例が限られていたと思います。その頃、夫が在宅医療の充実をめざして開業したいという思いを持っており、手伝うようなかたちで一緒にクリニックを開きました。開業当初は連携している病院の在宅医療への対応はまちまちで、家族指導の質やサポート体制などもさまざまだったように感じます。しかし、時代を経るごとに在宅医療が推し進められ、訪問看護ステーションやケアマネジャーやソーシャルワーカーとの連携なども深まってきたと感じます。

現在、クリニックではどんな訪問診療を行っていますか。

緩和ケアを専門とする在宅診療部長を含め、3人の医師がおり、私も含めて総勢4人で患者さんのもとを訪ねています。ルーチンの訪問診療に加え、突発的な対応も加わります。在宅医療では24時間の対応をしているので、突然の往診もよくあることなんですよ。当院では長年訪問診療で培った関係性があるので、多くのケアマネジャーとも密な連携が取れるのが強みです。患者さんに変化があればケアマネジャーに伝えますし、ケアマネジャーから看護や家族の情報なども入ってきます。医療や介護の輪をつくり、社会に取り残される患者さんが出ないよう、努めています。独居で突然体調を悪くされたときに、うまく医療や介護につながれないと、大変ですよね。訪問診療を使って介護の輪、見守りの輪に加わってほしいと思っています。

患者と家族の意思を尊重した対応を

院長の医師としてのモットーを教えてください。

病院は医療を行う場であり、医療者が主体であると思います。しかし在宅医療においては、生活の場である家庭で、患者さんや家族が主体です。医療は生活を支えるためにあり、生活の中で機能しなければなりません。だからこそ徹底して患者さん本人や家族の声に耳を傾け、どうしたいのか、どこまでやるのか、困っていることはないのか、漏らさぬよう聞き取ります。実際在宅で介護をするのは、非常に大変なことです。それでも家でみたいとおっしゃる家族や、自宅で暮らしたいご本人がいらっしゃる限り、その意思を尊重し徹底してサポートしたいと思っています。在宅医療の大変さを理解しているからこそ、入院をお勧めする場面もありますし、在宅医療が豊かな生き方の選択肢になるよう力添えをしたいといつも考えています。

在宅医療を支えるご家族の負担は大きいんですね。

さまざまなケアをしなければならないので、肉体的にも時間的にも追い詰められてしまう方もいらっしゃるかもしれません。特に痰の吸引が頻繁になると、つきっきりでケアしなければならず、ご負担が大きいと思います。訪問看護師の力を借りても、苦しそうな患者さんを見るのがつらいという声も聞きます。それでも近年では家族への指導やケアも充実してきましたし、在宅での療養を続けることも無理ではなくなっています。私は患者さんのご自宅に伺って、その生活背景やご家族を知ると、治療にも生かせますし、患者さん自身に近づけたという思いを抱きます。柳橋市場の真ん中に暮らしていらっしゃった患者さんがおられて、こんなところに住宅があるんだと感銘を受け、ご家業にも思いを致したなんてこともありましたね。

印象に残っている患者さんはいらっしゃいますか。

当院の医師や医療スタッフは皆、患者さんの意思・ご家族の意思を尊重することを一番大切にしています。だから、患者さんが望むことはできるだけサポートしたいんです。例えば、がん末期の患者さんが旅行に行きたいと望まれる場合も、薬や紹介状の準備などを整えて、その後の緩和ケアの手続きなども進めつつ、旅行を心置きなく楽しめるよう私たちが支援します。施設で暮らし、ごはんが食べられないような状況でも、家に帰れると考えただけで心に張りが生まれて、調子が良くなる患者さんもいらっしゃいます。少しでも心持ちが上向くような医療を提供できるとしたら、力を惜しまず続けていきたいですね。

独居患者の孤独を和らげたい

新型コロナウイルス感染症流行下での変化はありましたか。

多くの病院では面会制限が敷かれ、患者さんの孤独感が高まっていると感じました。面会できるのは、いよいよ看取りの時だけというのでは、あまりにも酷だなあと。当院の外来に通ってくださっている独居の患者さんなどでも、少し元気がないと感じることもありました。高齢の方の場合、うつ状態から認知症が進んでしまう場合もあります。そうならないよう、心配のある方を地域包括ケアへつないだり、離れて暮らすお子さんに、ご本人の許可を得てご連絡したりといった対策に努めています。かかりつけ医として頼ってくださる患者さんにも、より良い医療をご提供できるように目を配っています。普段通院していた方が通えなくなり、訪問に切り替える例もあり、かかりつけ医として外来にも力を入れつつ、最期まで見守れるように、院内の体制を整えていますよ。

お忙しい中で先生はどのように気分転換されていますか。

私もコロナ禍での生活の変化に戸惑った側の人間なので、意識して気分を変えようと、何十年ぶりかにピアノの練習を再開しました。子どもたち同様にレッスンに通い、演奏を楽しんでいます。今後の世の中がどうなっていくのかわかりませんが、気晴らしや楽しみで心の健康を保つことは重要だなとしみじみ実感しています。

今後の展望をお聞かせください。

スタッフの体制も新たに、在宅医療と外来に取り組んでいます。緩和ケアを専門とする医師も在籍しており、最後の最後まで自分らしく生きるための手助けを続けていきたいです。一方で在宅医療においては、ご家族の負担や覚悟が大きいのはよく理解しています。その負担をできる限り減らし、さまざまな選択肢を提示するのも私たちの役割だと思っています。今後訪問看護の部門を立ち上げる予定で、さらなるサポートやケア、質の高い医療提供につなげていきたいと考えています。「家で過ごしたい」「家で一緒にいたい」と願う患者さんやご家族がいる限り、訪問診療を続けていきたいですね。現在の体制でどこまでできるかわかりませんが、さらにたくさんの患者さんと家族にアプローチしていけたらと思っています。

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