おおまえホームケアクリニック (尼崎市/塚口駅)
大前 隆仁 院長の独自取材記事
阪急神戸本線塚口駅北口から徒歩5分のマンションの1階に「おおまえホームケアクリニック」はある。その名のとおり、訪問診療を柱にするクリニックだ。院長の大前隆仁先生は、内科の総合診療で研鑽を積んだ後、緩和ケアを専門に定め、神戸大学大学院で医学博士号を取得。地域で数少ない緩和ケアのスペシャリストとして、患者に寄り添う。同時に、ライフワークとする東洋医学の知見を生かした漢方診療にも力を注ぎ、専門の外来も開設している。心を含め、患者全体を診ることを心がけ、「日常に近い場所で、一人ひとりに合う診療を提供したい」と語る大前院長。血液内科を専門とするもう一人の常勤医師とともに行うチーム医療や、緩和ケアなど、同院の特徴について話を聞いた。
専門の緩和ケアを生かした訪問診療を、地域で提供
まずは先生のご専門について教えてください。
医学生時代は、東洋医学の講義をきっかけに、漢方診療ができる医師になりたいと思っていました。ただ、師匠と仰ぐ先生から、「患者全体を診る漢方診療を行うには、まずは全身をしっかり診られるようになるべき」とご指導いただいたのです。それで、東洋医学と内科系の総合診療、それぞれの科がある兵庫県立尼崎病院に入職し、内科疾患全般を診る、ER総合診療科に配属されました。5年目の時、内科系の中で特定の分野について専門性を深めるカリキュラムがあり、そこで私が選んだのが「緩和ケア」でした。もともと緩和ケアチームに携わり、もっと専門的に学びたいと思ったことが理由です。当時を振り返ると、東洋医学だけに限定せず、緩和ケアも取り入れた医療をやっていこうと決断したことは、私の人生における分岐点でしたね。
緩和ケアのご経験を積んでから、こちらに開業されたのですか?
はい。緩和ケア病棟があった宝塚市立病院で研鑽を積んでから、神戸大学大学院で学び、緩和ケアの分野で医学博士号を取得しました。勤務医として経験を重ねながら、専門家向けの勉強会にも参加するなど、この地域でも数少ない緩和医療専門の医師だと自負しています。もともとここは、在宅での緩和医療や看取りをしていた先生のクリニックがあり、勤務医時代に、病院で担当した患者さんをご紹介させていただいていました。そうしたご縁から先生が引退される際に私が引き継ぐ形で、2022年に当院を開業した次第です。
こちらのクリニックの特徴を教えてください。
緩和ケアを行う訪問診療を柱に、外来診療も行っています。訪問診療では、常勤の医師が2人いる「2人主治医制」を敷いていることが、特徴の一つです。緩和ケアというと、24時間365日対応が必要な一方で、マンパワーをどうするかという問題があります。その点を当院では、2人主治医制で対応しようと考えました。私は緩和ケア専門の医師として、終末期のがん患者さんを多く診てきました。当院にいるもう一人の常勤医師は血液内科が専門で、白血病など、血液系のがん診療の経験がやはり豊富です。それぞれのがんの診療経験は大きな強みだと思いますので、安心して頼っていただけたらと思います。
通院でも対応する緩和ケア。漢方や血液内科の外来も
「2人主治医体制」には、どのようなメリットがありますか?
患者さんやご家族と顔なじみである2人の医師のどちらかがお伺いしますので、相談しやすいのではないでしょうか。また、2人であれば医師同士で情報の共有がしやすい上、チームを組む看護師や多職種との連携も取りやすいと思います。少数精鋭のスタッフでチームを組めるというのは大きな強みでしょう。当院には、在宅看護の専門知識を持つ常勤看護師も在籍しています。コンパクトなチーム医療は、必ず患者さんに喜んでいただけるケアにつながると考えています。そもそも私は、人を臓器ごとに診るというより、人として患者さん全体を診ることに興味があり、緩和ケアの道に進みました。つらい中にも希望を持っていただく医療を提供するという緩和ケアに魅力を感じ、患者さんが笑顔になり、満足していただける医療をめざしています。2人の主治医による持続可能な診療体制の中で、そのような医療を提供できたらと思っています。
訪問診療だけでなく外来診療も行っているのはなぜですか?
外来を行う理由はいくつかあります。一つは、先代院長から引き継いだ患者さんへの診療をしっかり行うためです。そして、もう一つが先ほどもふれた、ライフワークの東洋医学を実践するために、漢方の外来を開きたかったからなんです。加えて、必要性が高いと思っているのが、緩和ケアのための外来ですね。終末期の患者さんの中には、いきなり訪問診療ではなく、まずは外来に通い、通院が難しくなったら在宅に切り替えたいという方も一定数いらっしゃいます。外来があれば、そういう方のニーズをくみ取ることができるでしょう。また、もう一人の医師の専門である血液内科の外来も開設しています。がんの終末期の患者さんにとって、抗がん治療から緩和ケアへのスムーズな移行は、より良い日々を過ごすための鍵になると考えています。その部分をサポートする役目を外来でも担っていきます。
漢方の外来については、どんな方がいらっしゃいますか?
不定愁訴にお困りの方が多いですね。あえて西洋医学にあてはめるとすれば、心身症や自律神経失調症と診断されるような症状です。当院に来る前にいろいろと検査を受けたけれど、「異常はない」「心配いらない」と言われてくる方が少なくありません。東洋医学には、患者さんの全体をとらえ、心と体を分けずに一緒に診るという視点があります。この視点は、緩和医療や心療内科とも通ずるところがあるように思います。そうしたことから、実は心療内科にも興味を持ち、日頃の診療の中で意識して経験を積んできました。公認心理師の資格も持っていますので、身につけた知見を患者さんのために役立てていきたいです。
「安心と安楽」を感じてもらえる医療をめざす
クリニックの改装を予定していると伺いました。
はい。今年、2024年の初夏の頃になりそうです。私は緩和医療で大切なことを一言で表すとすれば、「安心と安楽」だと思っているんです。患者さんがクリニックに来た時に、安心できる、落ち着く、そして、穏やかになれるような空間にできたらいいなと思います。また、そんな雰囲気の中で、身体的な困り事に対応することによって、安楽さも感じていただけたらうれしいですね。
お忙しい日々だと思いますが、どのようにリフレッシュされていますか?
実はなかなかリフレッシュのための時間が取れていないので、まずは休みを取ることが目標です。瞑想などによって気持ちを落ち着け、自分のあるがままを受け入れるという「マインドフルネス」の実践に興味があるので、お寺の座禅会などに参加してみたいですね。その前に早起きできるかが問題ですが(笑)。スタッフからは、休みをうまく調整しながら、持続可能な形にしていきましょうと言ってもらっていて、仲間に恵まれていることを実感しています。患者さんのためにもリフレッシュはきちんとしていきたいですね。
今後の展望を教えてください。
患者さん一人ひとりに焦点を当てると、当たり前のことですが、まったく同じ方というのはいらっしゃいません。毎回新鮮な気持ちで患者さんに向き合えるのも、この仕事の魅力でしょう。大きな病院と違って、クリニックはずっと現場にいられる環境ですから、これからも長く患者さんを診ていけたらと思います。同時に、緩和医療専門の医師として、将来的には、地域医療の質向上に貢献するような役割も果たしていきたいです。
最後に、読者や地域の方にメッセージをお願いします。
現在、国が打ち出している、「均一な医療を提供しよう」という方針は大事なことですが、一方で、現場が多忙なこともあり、医療が画一的、機械的になってしまっている面もあるかもしれません。当院では、クリニックやご自宅という、患者さんの生活に近い場所で診療を行うだけに、フィールドに入れていただくという謙虚な気持ちを持ちつつ、一人ひとりに合った医療を提供していきたいと思っています。抗がん治療や緩和ケアからお看取りまで、いただいたご縁を大切にしながら、全力で臨みます。お困りのことがあればぜひご相談ください。