早期治療で再発・悪化の抑制を
長引く咳の原因の一つ「咳喘息」
谷尻医院
(神戸市東灘区/御影駅)
最終更新日:2023/05/08


- 保険診療
誰もが経験のある「咳」。長引くなと感じていても、ただの咳だからと放置してはいないだろうか。地域のかかりつけ医として内科全般の診療を行いながら、呼吸器内科の専門家として長引く咳の治療も得意とする「谷尻医院」の谷尻力(たにじり・つとむ)院長によると、2週間以上続く咳の場合、咳喘息や気管支喘息である可能性が高いという。このほか肺がんや肺炎、結核、間質性肺炎など命を脅かしかねない怖い病気が隠れていることもあるため、「たかが咳」と考えず、しっかりと原因を突き止め、適切な治療を受けることが重要だという。「長引く咳の治療は難しい場合もありますが、そのような症例の経験も豊富です」と語る谷尻院長に、喘息とはどのような病気か、受診タイミングや治療法、放置・治療中断のリスクについて教えてもらった。
(取材日2023年4月13日)
目次
長引く咳は成人でもなり得る「喘息」の可能性も。原因を突き止め、適切な治療を
- Q患者数の多い、身近な呼吸器疾患について教えてください。
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A
▲吸器内科の専門家として長引く咳の治療も得意とする谷尻先生
呼吸器の症状でお越しいただく患者さんの中で、特に多いのが「長引く咳」の方です。咳が10日~2週間以上続くからと受診される方の多くは咳喘息や気管支喘息が考えられ、まれに肺がんや結核、間質性肺炎など命を脅かしかねない病気が隠れていることも。咳喘息や気管支喘息はともに気道粘膜が体質的にただれており、気管支喘息は気管支周囲の筋肉が収縮することで空気の通り道が狭くなり、窒息のリスクが高まる病気です。一方咳喘息は、気管支は狭くならないが咳だけが続く病気です。小児の病気と思われがちですが決してそうではなく、成人してから突然発症することもあり、近年は特に咳喘息の患者さんが増加していると感じています。
- Q咳喘息の発症にはどのような原因があるのでしょうか?
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A
▲検査を行い、喘息ではないか確認
気道粘膜のただれを引き起こすのは、ダニやペットなどのアレルギー物質、風邪など感染症、疲労やストレス、タバコ、黄砂、工場などから発生する大気汚染物質、寒暖差や気圧の変化、遺伝などのほか運動や飲酒などが原因となることも。これまで喘息の症状が出ていない人でも、こうした要素が絡み合って発症に至ります。成人の場合、約6割の方が何らかのアレルギーを持っておられ、特にダニやペットのアレルギーが原因となりやすいです。また喘息患者さんの1割の方は、痛み止めの成分で喘息発作を引き起こすことがあり、解熱鎮痛剤の使用には注意が必要となる方がおられます。他に高血圧や緑内障の薬で喘息が悪化してしまうものもあります。
- Q受診すべきタイミングについて教えてください。
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A
▲気道粘膜の状態を模型を見せながら説明
喉の痛みや鼻水などとともに咳があり、その咳が改善傾向にある場合は様子見でも問題ないと考えます。しかし咳が2週間以上続く、夜中や明け方に咳込んで目が覚める、運動する・喋る・笑うことで咳が出る、電車・バス乗車時など空気の変化に反応して咳込む、咳が出た際に嘔吐反射が出る、呼吸時にヒューヒュー・ゼーゼーと音がなる喘鳴(ぜんめい)がある場合は、早期に受診を。また咳と同時に胸も痛む、息苦しい、血痰が出るなどは、肺がんや結核など怖い病気が隠れている可能性もありますので、すぐにご来院ください。診断では問診に加え、血液検査や呼気中一酸化窒素濃度測定、エックス線検査、必要に応じてアレルギー検査を行います。
- Q喘息にはどのような治療法がありますか?
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A
▲治療では、主に薬物治療を行う
主な治療は、吸入薬を中心とした薬物治療と生活環境の整備です。薬物治療は、気道のただれを抑制するための吸入ステロイドと咳を止めるための気管支拡張剤が配合されたものを用いることが多いですね。吸入薬には、粉を吸い込む粉末タイプやスプレータイプがあったり、1日1回のものや朝夕2回のものなど使用回数が違っていたり、容器の形状も異なったりします。きちんと吸入できているかが最も重要なため、吸入指導にも力を入れています。またアレルギーが原因であればダニやホコリ、花粉など増悪因子となるアレルギー物質を避ける、喫煙者であれば禁煙する、疲労やストレスを解消するなど、原因に応じて日常生活の環境を整えるのも大切です。
- Q咳の放置、治療中断にはどのようなリスクがありますか?
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A
▲咳の治療中断や放置により、さらなる悪化のリスクがあるという
単なる風邪の咳とは異なり、喘息は咳が止まっても気道粘膜のただれは治っていません。放置や治療中断により悪化し、少しの刺激で咳が出やすくなったり、前回発症時に用いた同じ治療薬を使っても治まらなかったり、難治性の咳になったりすることも。発症ペースも数年に1度だったものが1年に1度、季節の変わり目ごと……と間隔が短くなっていく方もおられるんです。また咳喘息の3割ほどが、窒息のリスクがある気管支喘息へと移行するといわれています。そのため、例えばやけどをしたとき、痛みがなくなっても皮膚が元どおりになるまで薬を塗り続けるのと同じように、咳が止まっても気道粘膜のただれが治まるまで治療を継続する必要があります。