貝谷 久宣 理事長、岸本 智数 院長の独自取材記事
なごやメンタルクリニック
(名古屋市中村区/名古屋駅)
最終更新日:2022/03/14

名古屋駅新幹線太閤通口から徒歩3分。井門名古屋ビルの6階にある「医療法人和楽会 なごやメンタルクリニック」は、パニック症など不安障害の診療を強みとする心療内科・精神科のクリニックだ。設立者である貝谷久宣(かいや・ひさのぶ)理事長は、日本でパニック症の認知度が低かった頃からパニック症に取り組んできた医師。30年近くにわたり、その診療や教育・啓発活動に力を注いできた。現在同院の院長を務める岸本智数先生も、若い頃に貝谷理事長の教えを受けた一人なのだそう。「患者さんのつらさを一刻も早く取り除くこと。それが私たちのモットーです」と語る貝谷理事長と岸本院長に、クリニックの特徴や、診療において心がけていることなどを語ってもらった。
(取材日2020年7月8日)
パニック症という病気を日本全国に伝えたい
最初に、お二人のご経歴を教えてください。

【貝谷理事長】私は、名古屋市立大学医学部を卒業後、主に岐阜大学医学部神経精神医学教室に勤務し、統合失調症を中心とした精神医学領域の臨床・研究・教育に携わってきました。途中2年間は、ドイツのミュンヘン・マックスプランク精神医学研究所に留学しています。岐阜大学では最終的に助教授を務め、その後自衛隊中央病院神経科部長を経て、地元である当地名古屋で1993年に開業したという経緯です。
【岸本院長】私は、もともと科学者志望で、高校卒業後は東京大学農学部に入学し、大腸菌や酵母菌などの研究をしていました。しかし、途中から直接人の役に立つ仕事がしたいと思うようになり、医学部を再受験しています。医師になってからは、関西にある大学病院や総合的な診療を行う市中病院、精神科病院などに勤務し、幅広い領域の精神科・診療内科の診療に携わってきました。そして、2018年1月から当院の院長を務めているという流れです。
貝谷理事長は、パニック症に注力されてきたとお聞きしました。きっかけについて教えていただけますか?
【貝谷理事長】私がパニック症に取り組み始めたのは、1990年にジュネーブで開催されたパニック症の世界会議に参加したことがきっかけです。当時は、まだ世界的にもパニック症という言葉が広く知られていない時代で、日本では同様の症状を持つ患者さんに対し、不安神経症や心臓神経症という病名がつけられ、科学的根拠に乏しい治療が行われていました。その一方で、世界ではパニック症を1つの病気として科学的に捉え、薬を使うことで治療の方向性が見出せるようになってきていた……。私は、日本でも早くこの病気の研究・治療に取り組まなければならないと思い、パニック症を軸に据えて活動することを決意しました。
具体的にはどのような取り組みをしてこられましたか?

【貝谷理事長】まず、当院では1993年の開業時点からパニック症を中心に診療しています。最初は、どれぐらいの患者さんに来ていただけるか不安もありましたが、蓋を開けてみるとびっくり。開業後数年で、全国から患者さんが集まるようになったのです。これはうれしいことである反面、それだけパニック症を診る医療機関が不足していると感じたんです。私は、改めて日本全国にパニック症という病気とその治療法を広めなければならないという思いを持ち、一緒に国際会議に参加した研究所長や教授らとともに、不安・抑うつ障害に対する研究と啓発を目的とするNPO法人「不安・抑うつ臨床研究会」を立ち上げました。パニック症の一般向けの講演会や医師向けの勉強会、テレビを利用した情報発信などを積極的に行ってきました。NPO法人の開設と同時に東京にもクリニックを開業。その後はさらに横浜と鎌倉を加え、現在では当院を含めた4拠点で活動しています。
パニック症を軸にしながらも幅広く精神疾患に対応
岸本院長は、以前にもこちらのクリニックに勤務されていたそうですね。

【岸本院長】はい。今から10年ぐらい前に当時の指導医の先生から「名古屋にいる先生のもとで修行をしてこい」と言われて、こちらでしばらく働きながら勉強させてもらいました。期間としてはそれほど長くはありませんでしたが、ここでの経験はその後の私の診療活動に大きな影響を与えるものでしたね。貝谷理事長は当法人で働く医師全員に処方例集という診療の虎の巻を配られるんです。私は、当院を離れた後も、その処方例集を参考にしながらパニック症をはじめとした不安障害の診療を行ってきました。
院長に就任された経緯はどのようなものですか。
【貝谷理事長】前院長が退職した関係で、私が客員教授を務める京都府立医科大学医局に所属していた、岸本先生をオファーしました。というのも岸本先生は、精神病理学志向ではなく、私と同じく脳神経を基準にした生物学的なアプローチで精神医学を捉える先生だと思ったからです。また、当院に勤務していた頃から私の診療方針もしっかりと理解されていましたし、人柄もとても誠実で優しい。私は、岸本先生ならば当院を任せられると思い、お願いすることにしました。
【岸本院長】貝谷理事長から院長を打診するご連絡をいただき、正直びっくりしました。私がこちらに勤務していたのはまだ研修医が終わって間もない頃でしたし、何より雲の上の存在である貝谷先生からのお声がけだったので、うれしい反面、私で良いのだろうかとも思いましたね。最終的には、期待に応えられるよう頑張ってみようと、お引き受けいたしました。
院長就任から約2年半が経過します。現在のクリニックの機能や患者層についてお話しください。

【岸本院長】現在当院には、私と貝谷理事長に加え、4人の非常勤医師が勤務しており、院内の心理士や看護師をはじめとしたスタッフとともに診療を行っています。中心となる疾患はもちろんパニック症などの不安障害ですが、名古屋駅前という土地柄上、うつ病や不眠症、発達障害、ADHD、認知症の患者さんも多く、ある程度幅広く精神疾患に対応しています。年齢は10代から80代までさまざまで、性別としては、女性の方が多い印象です。治療面では、薬物療法で症状を和らげることを基本にしながら、認知行動療法など薬以外の治療法も取り入れ、一人ひとりの患者さんの状態や環境、希望に合わせた治療を行っています。
患者のつらさを一刻も早く取り除いていきたい
お二人は、診療においてどのようなことを心がけていらっしゃいますか?

【貝谷理事長】私が開業以来心がけているのは、患者さんのつらさを一刻も早く取り除くことです。そのために、常に新しい医学情報を学び続ける姿勢と、患者さんを思う心を大切にしています。また、不安を抱える患者さんに対しては、患者さんがポジティブになるような声かけをしていくことも大切です。
【岸本院長】大きくめざすものは貝谷理事長と同じです。その中でも私は、話を聞くことを特に心がけています。精神科にはいろいろなつらさを持つ患者さんがいらっしゃいます。そうしたつらさをとるためには、何がつらいのか、どのようにつらいのかを正しく知る必要があります。私は、最初はこちらが聞きたいことを聞くのではなく、できるだけ患者さんに自由に話していただくよう心がけています。
今後のビジョンをお話しください。
【貝谷理事長】岸本院長をはじめ、若いスタッフに少しずつ任せていくことですね。そのためにも、私に教えられることは惜しげなく伝えていきたいと思います。
【岸本院長】まずは、貝谷理事長が築いてこられた、診療機能やノウハウ、思いをしっかりと受け継いでいくことです。そしてその上で、時代に合った精神疾患の治療やケアを行えるよう、柔軟に進化を続けていきたいと思います。
最後に、読者にメッセージをお願いします。

【貝谷理事長】私から皆さんに1つお伝えしたいことがあります。それは、「不安・抑うつ発作に注意してください」ということです。不安・抑うつ発作というのは、パニック症の方がうつ病になった場合によく見られる発作で、突然の絶望感などかなり激しいつらさを伴い、最悪の場合、自傷行為をはじめとするアクティング・アウトへ発展することもある怖いものです。適切に治療を進める必要があり、単なるうつ病とは区別して治療を行う必要があるため注意が必要です。もし気になる症状がある方は、当院のホームページなどで不安・抑うつ発作の症状を調べ、該当するようであれば、まずは受診することをお勧めします。