薬の組み合わせや食事療法を工夫
糖尿病治療との上手なつき合い方
洪内科クリニック
(名古屋市東区/千種駅)
最終更新日:2021/10/12
- 保険診療
インスリンの働きが弱くなったり、インスリンを作る機能が壊れてしまったりすることで、血糖値が高くなる糖尿病。初期段階では自覚症状が非常に少なく、気づかないうちに病状が進行することも珍しくない。しかし放っておくと動脈硬化のリスクが高まるばかりか、神経障害や網膜症、腎症といった重い合併症を発症しかねないため、早期発見と早期治療が求められる病気といえる。長年多くの患者の診療にあたり「患者さんが生涯を通して重大な合併症を引き起こすことなく、糖尿病と共存できるために尽力するのが私たち医師の役割」と語る「洪内科クリニック」の洪尚樹院長。今回は糖尿病治療の専門家である洪院長に、糖尿病の基礎知識から具体的な治療方法、治療との付き合い方についてたっぷりと語ってもらった。
(取材日2019年6月28日)
目次
患者ごとに治療内容をパーソナライズ化し、糖尿病とともに歩む人生を支える
- Q糖尿病を発症する原因は何でしょうか?
-
A
日本人の糖尿病患者の約95%を占めるといわれる2型糖尿病の発症には、多くの場合遺伝的要素が関係しているといわれています。日常的に偏った食事を取っていたり、運動習慣が極端になかったりと、生活習慣が悪い人がすなわち発症するわけではなく、糖尿病を発症する素質を持つ人が、生活習慣の乱れや妊娠などをきっかけに発症することが多いと考えられているのです。対して1型糖尿病は、感染症が引き金となって、インスリンを作る機能が壊れてしまうことで起こります。1型・2型ともに早期発見と早期治療が重要です。
- Qどのようにして治療していくのでしょうか?
-
A
初期段階ではインスリンが正常に作用しない状態に陥るため、薬を用いて改善をめざし、病態に応じて注射によるインスリン療法や、GLP-1アナログ療法の実施を検討します。当院では特に、食後血糖値が高い糖尿病初期の患者さんの治療に対してGLP-1アナログ療法を積極的に行うこともあります。ただ、糖尿病治療は血糖値を下げることに目が行きがちですが、無理に血糖値を下げると脳梗塞や心筋梗塞を引き起こすリスクを高めるとの指摘も。ですから、食事や生活習慣の改善指導などを行うことで、患者さんに一人ひとりに合った「糖尿病治療との上手な付き合い方」を見出すことが重要です。
- Qずっと治療を続けていけるか不安です。
-
A
忙しい日々の中、毎日決められた回数で薬を服用し続けるのは大変なことですよね。近年は新薬の開発が進み、1日1回や週1回の服用で十分な薬が登場しており、少ない服薬回数で有効的な治療をめざすことも可能になっています。「少ない薬で治療できるのだろうか?」と不安に思うかもしれませんが、大事なのは続けること。途中でドロップアウトしてしまっては、それこそ重篤な合併症につながりかねませんから。以前は治療薬のルールに患者さんが合わせなければいけませんでしたが、今では患者さんのライフスタイルに合わせた治療を組み立てられるようになり、患者さん一人ひとりにとって続けやすい治療をご提案しやすくなったと感じます。
- Q治療薬も日々進化し続けているのですね。
-
A
治療の考え方自体を変える治療薬も登場していて、例えば近年注目を集めているSGLT2阻害薬もその一つです。SGLT2阻害薬は、体内の糖を尿糖として排出させることを促して血糖を下げることにつなげる薬です。従来の考え方では、いかにホルモンをコントロールして血糖を下げるかが重要でしたから、この薬の作用はある種逆転の発想。私も当初は有用性を見出しきれていなかったのですが、治験データをじっくりと読み解く中で治療への可能性を感じ、当院でも用いるようになりました。今後はより治療の中心になっていくのではないでしょうか。
- Q新薬も積極的に治療に取り入れているのですか?
-
A
新薬が登場したら、まず治験データなどにくまなく目を通して、これまで培った経験や知識をもとに徹底的に思考し患者さんにとってプラスとなる効果があるか見極め、理論立てて用いるようにしています。医療の“常識”は日々変容します。糖尿病治療でも、以前なら網膜症や腎症、神経障害といった重篤な合併症の予防が重視されていましたが、現在は重篤な合併症の手前にある、心筋梗塞や脳梗塞の予防が重要ともいわれており、コレステロール値や血圧の管理も不可欠となっています。日々“常識”が変わり続けるからこそ、自分自身も思考し続け、より良い治療を追求していかなければいけないと感じますね。