善本 正樹 理事長の独自取材記事
メンタルクリニックさとう
(伊勢原市/伊勢原駅)
最終更新日:2025/03/14

伊勢原駅から徒歩10分、落ち着いた住宅街の中にある「メンタルクリニックさとう」。大きな一軒家のようなたたずまいの外観、図書コーナーが設けられた広い待合室、自室にいるようなくつろぎを感じられるカウンセリングルームなど、クリニックとは思えないアットホームな雰囲気だ。開業は1984年。現在は薬理学を専門とするベテラン精神科医師の善本正樹先生が院長を務め、「自分が受けたい医療、家族に受けさせたい医療」をコンセプトに診療を行っている。向精神薬の適正使用を心がけ、患者が薬に頼らず元気に暮らせるようになることをめざして生活習慣のアドバイスにも力を入れている善本先生に、クリニックの特徴や診療ポリシーをじっくりと語ってもらった。
(取材日2025年2月14日)
薬に頼らず、「家族に受けさせたい医療」を徹底
先生はこれまでどんな経験を積んでこられたのでしょうか?

私は大学院を卒業した後、秋田県にある病院に勤務することになり、2012年にそちらの院長に就任しました。当時は精神疾患の慢性期の患者さんを中心に診ており、服薬を続けながら30年も入院生活を送っている方もいました。そこで私は、「薬の投与だけが医療ではない」という信念を掲げ、薬の量を減らしながら外出のサポートを行うなど、患者さんの退院支援に力を入れてきました。大学時代から薬理学を専門に学び、向精神薬のメリットとデメリットを熟知していたからこそ実践できた改革です。慢性期の患者さんを退院に導けるようになってからは、急性期やアルコール依存症などの患者さんを受け入れ始め、精神医療の現場で幅広く臨床経験を積みました。その後、自分の視野を広げて成長する機会を探していた頃、当クリニックの先代院長に声をかけられて、院長を引き継ぐことになりました。
過度な薬の処方を控えることは、今でも大事にされていますか?
当クリニックは「自分が受けたい医療、家族に受けさせたい医療」を提案することを基本方針としています。たとえ患者さんから抗うつ薬の処方を頼まれても、メリットより副作用のリスクのほうが高いと判断した場合は、お断りすることもあります。もちろん私から薬を飲むことを提案するケースもありますが、基本的に薬の処方は最小限にとどめます。いずれにせよ、患者さんに納得していただけるように、診断の理由や薬のメリットとデメリットをわかりやすく説明することに時間を割くようにしています。これまで培ってきた薬理学の知見を生かし、さらに分子栄養学の視点からも患者さんの症状や、睡眠や運動、栄養などといったライフスタイルに合った必要最小限の処方に努めていることが、私の武器だと思っています。
現在はどのような患者さんが多いですか?

精神科急性期から慢性期リハビリテーション、高齢者から若年者まで幅広い年齢層の診療経験と薬理学の知識を生かした適切な薬物治療の提案など、今までの診療経験をもとにさまざまな精神疾患に対応しています。患者さんは、特に人間関係や環境にストレスを感じて、学校や会社に行けなくなってしまった10代から30代までの方がご相談に来られるケースが多いです。総合失調症や双極性障害、うつ病などの可能性が考えられますが、若い方は自閉スペクトラム症をはじめとした発達障害が疑われれる人も増えています。一方で、高齢者うつや認知症を抱える70代以降の患者さんも多く、持病など全身の健康にも目を向けながら慎重に診断を行うことを心がけています。減薬の相談やセカンドオピニオンにも対応しています。
生活習慣のアドバイスにも力を入れる
患者さんとのコミュニケーションで心がけていることを教えてください。

通院や服薬を継続すれば症状の改善が見込める患者さんが多いですが、私としては長く精神の安定を保っていただきたいので、生活習慣のアドバイスをさせていただくことが多いです。特に大事なのが睡眠、栄養、運動ですね。シンプルですが、早起きの習慣を身につけることがより良い治療につながる方もいらっしゃると考えています。また、軽い運動を毎日30分行うことが理想ですが、なかなか難しいので、毎日3分でいいから自分の好きな方法で体を動かすことをお勧めしています。医者の不養生になってしまったら説得力がないので、私自身も早寝早起きや適度な運動を心がけていますし、食事ではバランス良く栄養を取るようにしています。
薬に頼らず自分の力で元気に暮らせるように促しているわけですね。
学校で熱心に教わる機会が少ないからか、生活習慣が精神に与える影響に気づいていない方が多い印象です。例えば、過度なダイエット。10代のような若年層が食事を制限しすぎるダイエットをすると、心身の不調につながりかねません。そういった注意点を患者さんにはお伝えしていますね。それから、睡眠や運動だけでなく、言葉の影響も大きいと感じています。日頃から不平不満ばかり口にするよりも、感謝の言葉を発しているほうが前向きになれるのではないでしょうか。医療行為とは呼べないかもしれませんが、一人ひとりに寄り添ったアドバイスを心がけています。クリニックを卒業する際に「先生に出会えて良かった」と言っていただけるような診療ができるよう、心を込めて日々向き合っています。
東日本大震災の医療支援にも力を入れていると伺いました。

東日本大震災では、地震の被害だけでなく、津波が起こり多くの命が奪われました。さらに、原子力発電所の事故により、多くの人が住み慣れた場所から離れることになりました。そんな中、2012年に福島県相馬市に現地の有志が集まり、地域の精神医療を支える「メンタルクリニックなごみ」が開設されました。初代院長に声をかけられたことをきっかけに、私も開設当初から月に1度のペースで現地に行き、診療を担当しています。また、クリニックに通えない人たちにも自分の経験や知識を還元できるように、ホームページでは「こころの森」と題したコラムで精神医療に関する情報を発信しているんですよ。「こんな考え方があるのか!」と、少しでも視野が広がるきっかけになったらうれしいです。
ハードルの低いメンタルクリニックをめざして
精神の不調を抱える患者さんと同居するご家族に、アドバイスできることはありますか?

患者さんのご家族には「とにかく優しく見守ってください」とお伝えしています。一緒にいると心配になって、「ちゃんとご飯を食べなさい」「散歩でもしたら?」などと口を出したくなってしまうかもしれませんね。しかし、その言葉が余計に患者さんを追い込んでしまうこともあります。「大丈夫?」という愛情を込めた声がけも、頻度が多いと注意されているように感じてしまうんですね。たとえ怠けているように見えても、患者さんは誰よりも一生懸命に自分と向き合っています。心配な気持ちはわかりますが、優しく見守ってあげてほしいと思います。
クリニックの今後の展望をお聞かせください。
私は2019年に当クリニックの院長に就任して、2024年に理事長職を引き継ぎました。今は日々の診療に集中して先代が築いてきたクリニックを守ることに徹していますが、ゆくゆくは空いたスペースを活用してデイケアやグループホームを始めたいと考えています。個人的に夢見ているのは、患者さんが筋トレや運動を楽しめるジムを併設することです。すでに院内には幅広い分野の専門書や漫画がそろう図書コーナーがあるので、ちょっと欲張って、頭だけでなく体も刺激できる環境にしたいなって。スタッフの力を借りながら、薬を処方するだけでなく、さまざまなアプローチで患者さんに生きる楽しみを発見していただけるようなクリニックへと進化していきたいと思っています。
最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

初診の患者さんには、私が培ってきた薬理学の知識や臨床経験を生かしながら適切な診断を行い、患者さん一人ひとりの症状やライフスタイルに寄り添ったアドバイスをさせていただきます。いきなり大量のお薬を処方するなど、極端な治療を押しつけることはありません。近隣にお住まいの方々にとって「ハードルの低いメンタルクリニック」でありたいと考えていますので、重い症状を自覚している方はもちろん、うまく言語化ができない漠然とした不調を感じていらっしゃる方も、お気軽にご相談ください。