筋肉の緊張を緩めるためのボツリヌス療法で
生活の質向上をめざす
山王リハビリ・クリニック
(大田区/石川台駅)
最終更新日:2024/10/29
- 保険診療
脳卒中の後遺症として、体の一部にこわばりを訴える患者は少なくない。手足を思うように動かせなくなり生活上の不自由を感じていたり、介護する側に大きな負担が生じていたりするならば、ボツリヌス療法を検討してみてはどうだろうか。2010年に保険適用になった治療法だが「よりたくさんの人に知ってほしいです」と「山王リハビリ・クリニック」の森逸平先生は力を込める。まひそのものを治すことをめざすものではないが、生活の質の向上は大いに期待できる。ただし、できることを少しでも増やすのを目標とする治療なだけにリハビリテーションを専門とする病院に相談したいところだ。超高齢社会の中でますます重要な役割を担うであろうリハビリテーション科の医師である森先生にボツリヌス療法について詳しく教えてもらった。
(取材日2024年2月16日)
目次
痙縮と呼ばれる筋肉の緊張を緩めるためにボツリヌス療法を行い、より生活しやすく介護しやすい毎日をめざす
- Q脳卒中や脳梗塞の後遺症について教えてください。
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A
脳卒中では、脳のどの部位に障害を受けたかによって後遺症は多種多様です。高次脳機能障害、嚥下機能障害などの他、運動機能障害を伴うことも少なくありません。片側の手足がまひする片まひという症状が表れると、歩く、トイレに行く、お風呂に入る、食事をする、着替えをするといった、これまで当たり前にできていたことが、難しくなってしまうことがあります。そして、もう少し細かくみてみると、片まひの方の筋肉は、力を込めようとしてもやわらかいままで動くのが難しくなっていることもあれば、反対に痙縮と呼ばれる状態で、ぎゅっと力が入りすぎてしまうため、動きにくくなっていることもあります。
- Q痙縮とはどのようなものなのでしょうか。
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A
脳卒中後や脳性まひなどの方で筋肉の緊張が高く、ゆっくりと伸ばしていけば、ある程度までは伸ばしていけるけれど、動かしにくくなっている時には、痙縮を考えます。例えば、肩に痙縮が起きれば着替えの介助がより難しくなるでしょう。痙縮した手を握りしめたままにしてしまい、痛みや衛生上の問題が発生することもあります。歩ける人でも痛みや変形につながるなど、一人ひとりの症状によってさまざまな問題が発生する可能性があります。関節を動かしにくい原因が、痙縮であれば生活上の困難を取り除くためにボツリヌス療法を選択することができます。
- Qボツリヌス療法について詳しく教えてください。
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A
ボツリヌス療法とはボツリヌス製剤を緊張が高まっている筋肉に注射して、こわばりを抑制することをめざす治療です。日常生活の悩みを改善することを目標としています。一度、注射すれば3ヵ月程度の効果を期待できるでしょう。痙縮の治療には、理学療法、内服、手術などさまざまなものがありますが、ボツリヌス療法は体の一部分に一定期間作用することが望めるという特徴があるため、経過をみながら薬の量や頻度、場所を調整しつつ、治療を行っていきます。
- Q実際の治療の流れはどうなりますか。
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A
診察をしてボツリヌス療法の適応となったら、まず「生活上の何を改善することを目標とするのか」を患者さんやご家族と共有するのがスタートです。それにしたがって、どこにどれぐらいボツリヌス製剤を注射するのか計画し治療日を決めます。注射後も経過観察は欠かせず、おおむね1ヵ月ごとに様子を診ていきます。約3~4ヵ月ごとに注射を続けることが多いですが、間隔を空けることもあります。望める効果は一時的なので、一度試してみるというのも一つの方法です。また、ボツリヌス療法にはリハビリテーションを合わせることが大切と考えています。
- Qなぜ、リハビリテーションが必要なのですか。
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A
ボツリヌス注射にストレッチングを組み合わせることで、より高い効果を期待できるからです。注射後は必要なストレッチをまとめた小冊子をお渡ししてご家庭で取り組んでいただくというのが一般的かもしれませんが、当院では充実したリハビリテーション設備を利用していただくこともできます。また、外来への通院が困難な方に向けては、訪問でボツリヌス療法もスタートしていくとことろです。ぜひ、気軽にご相談ください。