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石井 榮一 院長の独自取材記事

今治市医師会市民病院

(今治市/今治駅)

最終更新日:2021/10/12

石井榮一院長 今治市医師会市民病院 main

東予エリア最大の地方都市、今治市にある救急指定病院の「今治市医師会市民病院」。新型インフルエンザなどの感染症患者を診る第二種感染症病床も有しており、地域の医療ニーズに幅広く対応している。2019年6月からは小児科の診療も開始。「子ども、高齢者、障がい者ら社会的弱者とされる人たちに適切な医療を提供できてこそ、健全な社会と言えるのです」と、石井榮一院長は力を込める。愛媛大学小児科教授を務め、長らく地域医療の拡充にも取り組んできた石井院長は、少子高齢化が進む同市の将来を見据えて体制の整備や人材育成にも心血を注いでいる。これからの地域医療はどうあるべきなのか、院長が考える今後の展望について詳しく聞いた。

(取材日2020年2月3日)

地域間の医療格差の是正をめざして体制を整備

先生は、長らく愛媛大学小児科教授を務めてこられたと伺いました。

石井榮一院長 今治市医師会市民病院1

愛媛大学では12年間、学生や研修医の指導、県の小児医療の活性化などに力を注いできました。それ以前は九州大学や唐津赤十字病院、佐賀県立病院好生館、浜の町病院、佐賀大学で臨床や研究を行ってきましたので、小児科の医師としての経験は合計すると約40年になります。愛媛大学に来たのが縁でこの地域の医療に携わるようになり、2019年に当院の院長に就任しました。この辺りは人がみんな優しいのが魅力ですね。私は気性の荒い人が多いと言われる福岡の町で生まれ育ったので、余計にそう感じるのかもしれません(笑)。

医師会市民病院の特徴は何ですか?

救急指定病院として、土日祝日や夜間の救急患者を受け入れています。平日は多くの病院が利用できますが、休日や夜間は医療が手薄になりがちです。そのような時間帯を埋めるのが当院の役割です。昨年から小児科を新設し、救急の中でも約2割を占める小児救急にもしっかりと対応できるようになりました。近隣の小児科クリニックに聞くと、時間外の問い合わせ件数が少なくなったそうですから、当院が受け入れ先として浸透してきたのかなと手応えを感じています。また「開放病床」を設けているのも特徴です。これは入院施設を持たない開業医の先生が、必要に応じて患者さんを入院させるためのものです。入院した患者さんにとっては、当院の医師と普段のかかりつけ医の共同診療を受けることができ、退院後もスムーズに元のクリニックで治療を続けられるのがメリットです。その他、医師会所属の先生に当番制で勤務してもらうことで病診連携を強化しています。

この地域ならではの医療事情について教えてください。

石井榮一院長 今治市医師会市民病院2

今治市では少子高齢化が急速に進んでいますし、アクセスが不便な島も点在していますから、都市部と過疎地域で医療格差が生じることが懸念されます。そこでどこの地域に住んでいても、同じ質と量の医療を提供できるように持っていくことが重要であると考えています。自分で移動するのが難しい高齢者に対しては訪問診療・訪問看護を充実させていくことが大切です。一方、小児医療については、各地域に基幹病院を設けておけば大きな混乱は生じません。また地域医療の中核となる愛媛大学病院との連携も重視すべきです。ここ数年はそれを視野に入れた体制づくりに注力してきました。今治市は人口当たりの病院の数などを鑑みると、地方医療のモデルケースとなり得る条件を備えています。それだけに、いち早く医療体制を整えて、来たる超・高齢化社会に率先して備えなければならないと考えています。

医師は患者に何でも相談してもらえて初めて一人前

先生はなぜ、小児科の医師になられたのですか?

石井榮一院長 今治市医師会市民病院3

私は2400gと低体重で生まれて、幼少期は体が弱い子どもでした。喘息もあって、夜間にはたいへん苦しい症状に悩まされました。そういうわけで、自分の体は自分で治すしかないと思って医学の道へ進んだのです。ですが、この子どもの頃の苦しい体験が今の診療にも生かされています。子どもが夜間に体調を崩して病院へ行くと、「なぜ今頃連れてきた」と親を問い詰める人もいるかもしれませんが、私は自分の経験上、その状況がとてもよくわかります。夜に症状が出る子どもは多いですし、それを親が心配して連れてくるのは当たり前のこと。いつ来ても温かく診てあげるのが医師として当然の役割なんです。

診療の際に心がけていることを教えてください。

先輩の医師から「患者さんの手を取ることが大事だ」と教えられてきましたが、それが医療の核心だと今も思っています。要は、いかに愛情を持って患者さんと接するかということです。患者さんに気兼ねなく、何でも相談してもらってこそ、一人前の医師。嫌な顔をするのは半人前だと私は思います。そして、治療そのものは医師の目線で考えるとしても、5歳の子と話すときは5歳児の目線で、高齢の方なら高齢者の気持ちになって接することが大事です。これは自分で理解しないとできないことですが、私が先輩の医師から教わってきたように、後進にも伝えていかなければと思って言い続けています。

今後はどのような医療が重要になると考えますか?

石井榮一院長 今治市医師会市民病院4

まず第一に、社会的弱者と言われる子ども、高齢者、障がい者の健康を守る医療体制を維持することです。社会的弱者に適切な医療を提供できてこそ、健全な社会と言えるのではないでしょうか。昨年、今治市の出生数は1000人を下回りましたが、だからといって小児医療が不要になるわけではありません。人口に合った医療提供体制を整えるために、医療機関の相互連携を強めていく必要があるでしょう。また、これからの時代は病気にならないような体をつくる「予防医学」が鍵になると考えています。例えば、最近の研究では低体重で生まれた子は将来、生活習慣病になるリスクが高くなるということがいわれています。そこで近年、小児科においても予防医療に注目が集まってきているのです。あらかじめ病気のリスクがわかっていれば、それを未然に防ぐこともできるかもしれません。当院では予防医学の一環として、健診や人間ドックにも力を入れています。

人材育成や設備の充実を図り安心して暮らせる町に

医師会では人材育成や子育て支援も進めているそうですね。

石井榮一院長 今治市医師会市民病院5

今治市医師会では看護専門学校と保育園を運営しています。少子高齢化による医療従事者の不足を解消する狙いです。特に保育園は、子育て中の医療従事者をサポートするために重要です。当院は来年、小児科医師の人数を増やす予定なので、今後は病児保育にも取り組んでいきたいと考えています。子どもが病気になると、親も仕事を休まざるを得ないので大変ですよね。今治市で病児保育をやっている所はまだ少ないので、これから力になっていければと思います。また医療従事者向けの心肺蘇生法など、各種トレーニングコースも開設しています。高齢者に多い心不全や肺炎など、呼吸器・循環器を診る内科の医師にも加わってもらう予定です。それから、若い先生が先端の地域医療を経験することも大切でしょう。大学にも働きかけて、当院で研鑽を積む機会を提供していきたいです。

今後の展望についてお聞かせください。

当座の目標としては2つあり、一つはソフト面の充実を図っていくことです。患者さんのデータをスムーズにやり取りするために電子カルテを導入したり、救急患者の診断に役立てるため先進の画像解析システムを取り入れたり、といった内容を計画しています。もう一つは、グローバル化への対応です。最近は新型コロナウイルスに注目が集まっていますが、このような新興感染症をはじめ海外発の病気を診る機会も増えていくでしょう。当院は感染症を扱う第二種感染症指定医療機関ですから、外国人の診療も含めて対応していくことが求められると考えます。何をするにしてもコストはかかりますが、必要なものは赤字覚悟でもやらなければなりません。それが安心して暮らせる町にしていくためには大事だと考えています。

最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いします。

石井榮一院長 今治市医師会市民病院6

今治市民や周辺地域の方々が遠方まで出向かなくとも、ここですべての治療を完結できるように体制を整えていきたいと考えています。愛媛大学や近隣の病院、クリニックとも連携し、日常的な疾病から高度な技術を要する病気の治療まで、重症度に応じて適切な、切れ目のない医療を提供することが目標です。少しずつでも改善を図って、現在の医療ニーズによりこまやかに対応できる病院へと発展していきます。皆さんに愛され、健康を守る砦となる病院をめざしますので、今後もご支援をよろしくお願い申し上げます。

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