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塩入 祐世 院長の独自取材記事

塩入医院

(杉並区/阿佐ケ谷駅)

最終更新日:2021/10/12

塩入祐世院長 塩入医院 main

JR阿佐ケ谷駅南口から南阿佐ヶ谷方面に中杉通りを歩いて6分程の場所にある「塩入医院」は、1957年開院の歴史ある心療内科・精神科だ。前院長だった父の意志を引き継ぎ、88年から院長を務めている塩入祐世院長は、途中、外科を経験したこともある大ベテラン。その温厚な話しぶりでカウンセリングにたっぷり時間をかけ、患者の回復を温かく見守る姿勢にはまったく揺るぎがない。院内は、やや照明を抑えたロビーに入っただけで、訪れる人への気遣いが感じられ、診療室も、医師と患者が同じ椅子に腰を落ち着け、対等の立場で向かい合うスタイルが印象的である。そんな、丁寧かつ真摯な診療を実践している塩入院長に、患者との接し方やデイケアの活動などについて聞いた。

(取材日2017年3月2日)

患者の置かれた環境や状況についてじっくり話し合う

医院の成り立ちと患者の傾向について教えてください。

塩入祐世院長 塩入医院1

今はJR阿佐ケ谷駅の南側、中杉通りを少し下った場所で開業していますが、ここに移ってきたのは4年前(2013年)のことで、それ以前は同じ駅の北側、早稲田通りを越えたあたりに医院がありました。今から60年前の1955年、私の父である前院長が、自宅の裏庭に有床診療所を開いたのです。現在の場所に移転したのは、この古い建物を医療とグループホームの兼用で使うことが、国の施設基準に合わなくなったからでした。ここでは心療内科・精神科の診療と、定員15人と小規模ながらデイケアも運営しています。患者さんは、20歳以下の方が比較的少ないほかは、70歳代ぐらいまで、各年代からほぼ偏りなくいらっしゃいますね。症状はさまざまですが、強いて言えば、不安や緊張で頭が痛むとか、便秘や下痢、胃の痛みなど、体に出る諸症状を訴えるケースが多いです。

患者と接する時はどんなことに気をつけていますか?

心療内科・精神科は不眠やうつ、統合失調症などの心の病気を扱っているとはいっても、さっきいくつか挙げたように、実際の症状の多くは頭や体のあちこちに表れているわけです。ですから、これは体の問題だから内科に行きなさいと投げ出すのではなく、私のできる守備範囲、例えば外科も長く経験していますので、場合によって血圧の薬を出したりと、まずは体に対するケアを行っていきます。こうした症状は自律神経失調症からきていて、普段のストレスによるダメージが、自律神経を介して体全体に及んでいると考えられます。診療の中ではカウンセリングが大きな割合を占め、特に初診の患者さんは、差し支えなければ40〜50分程度お時間をいただき、じっくりとお話しするようにしています。

カウンセリングはどのように進めるのでしょうか?

塩入祐世院長 塩入医院2

まず、患者さんご本人が置かれているバックグラウンドに注目します。ご家族のこと、生まれ育った環境のこと、学校時代のこと、あるいは友人関係、趣味、特技といったことですね。あと、ご家族の中に糖尿病や脳卒中など、遺伝性の高い病気をお持ちの方がいないかどうかも、見逃さないようにしています。バックグラウンドについてあれこれと話すのは、何か共通の話題が見つかったら、それを手がかりに、もっとその患者さんの内面を知ることができ、その後の治療に役立てられるからです。カウンセリングのほかには、生活指導、家族への相談、環境調整、リハビリテーション、薬物療法などを必要に応じて行っていきます。全体に言えるのは、誰でも知っている教訓ですが、規則正しい生活と、できるだけ体を動かすのが大事だということです。今は1日中デスクワークで座りっぱなしという人が増えているので、なおさらこの点を強調したいですね。

デイケアなど関連施設で社会復帰をサポート

デイケアはどのような方たちが利用しているのですか?

塩入祐世院長 塩入医院3

通常、外来を受診されて、お薬を飲んだりカウンセリングを重ねることである程度回復し、学校に行ける、会社で仕事ができるという段階になった方は、デイケアを必要としません。しかし、例えば思春期の高校生が心の病気を発症した場合、一人前の大人になるために人間関係への対処に磨きをかけたり、社会常識を身に着けたりする大切な機会を、病気のために失ってしまう恐れがあります。あるいは、もう少し重い症状で、病院には何とか通えるものの、社会生活を送るのは難しいという方。そういった方たちが、就学や就業を目標に、デイケアで同じ悩みを抱えるメンバーと支え合いながら頑張っています。

デイケアではどんな活動をしているのですか?

看護師と精神保健福祉士の2人の職員がチームとなり、それを私が管理するという形で対応しています。管理といっても、活動は職員と集まったメンバーさんたちにお任せしていて、私が口を挟むことはありません。診療のためのスペースとデイケアルームは隣り合っていますから、必要があればいつでも駆けつけるということです。活動の中身は、例えば美術……絵を描くとか、コラージュ作品を作って発表し合うこともあれば、みんなで合唱したり、ゲームをしたりすることもあります。また、天気が良い日には散歩に出かけ、図書館を利用したり、出先の施設で囲碁に興じた、なんて話も聞きますね。とにかく、学校の授業のように決まった形式を押し付けることはなく、みんなでアイデアを出し合い、なるべく自由な時間を過ごしてもらっています。

ほかにも関連施設を運営されているそうですね。

塩入祐世院長 塩入医院4

当院は「初期診療から社会復帰まで」をモットーにしていて、その中で、デイケアもそうなんですが、学業や仕事に参加するためのリハビリテーションに力を入れています。東京の北西部、武蔵村山市にある「たまこヒルズ」もそうした一環で運営している生活訓練施設で、もともとは昭和40年代の初め(1966年)に、通年の入所リハビリテーション施設として全国に先がけて開設したものです。狭山湖と多摩湖の少し南側に位置する傾斜地の、自然の林の中にひっそりと立っている建物なので、居心地は申し分ありません。入所期間は長い方だと1年から2年、ショートステイの場合は月に数日から10日ほど。寝泊まりする部屋は個室ですが、食堂、トイレ、バスは共同で、こういう寮のような造りにすることにより、居合わせた人たちと交流しやすい環境になっています。

患者との一生の付き合いにも意欲

薬物療法についての先生の考えをお聞かせください。

塩入祐世院長 塩入医院5

何より、患者さん一人ひとりに合った薬を飲んでいただくのが大事ですね。それと、あまり薬に頼り過ぎないように注意することも。どんな薬にも副作用がありますから、選択を誤らない、むやみに量を増やさないという基本には常に忠実でいなければいけません。一方で、飲み続けてきた薬をやめるという決断にも、勇気がいります。その後をしっかりと見守っていかないと、せっかく回復に向かっていたのがまた元通りになってしまうこともあるからです。なお、これに付随して、患者さんのお宅への訪問(精神科訪問看護)にも取り組んでいます。通院が難しい方などを対象に、週に1回か2回、あるいは隔週1回ぐらいの割合で訪問し、きちんと薬を飲んでいるかどうかも含め、今のご様子を把握するようにしています。

ところで、先生はどのような経緯で精神科を専門とする医師になったのですか?

学校では図工が一番得意で、ものを作ることが好きだった私は、初めこそ父と同じ精神科の医者になりましたが、その後は外科に方向転換して、自分がやるべき仕事はこれだという気持ちで10数年間、精進を重ねた時期もあったのです。ただ、優秀な先生方と職場をともにする中で、やがて外科の医師としての自分の力に物足りなさを感じるようになり、結局、精神科でやり直す道を選んだわけです。自分が果たして精神科に向いているかどうかはわかりませんが、回復して元気になっていく患者さんの姿を励みに、根気強く日々の診療に当たっています。

最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

塩入祐世院長 塩入医院6

両方体験した私からみて、精神科と外科の一番の違いは、治療にかける時間の長さです。外科では難しい手術を短時間で、たくさん成功させられれば名医ですが、精神科や心療内科の場合、長い方だと5年や10年、あるいは一生のお付き合いになることも珍しくありません。そうした仕事に、私は強いやりがいを感じています。70代半ばになり、この先いつまで続けられるかわかりませんが、仮にいつか医院の名前が変わることになったとしても、患者さんたちにこれまで通りの医療、デイケアを提供できるよう、最善の努力をしていくつもりです。

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