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蕨 謙吾 院長の独自取材記事

わらび内科ペインクリニック

(江東区/亀戸駅)

最終更新日:2021/10/12

蕨謙吾院長 わらび内科ペインクリニック main

江東区は亀戸天神社の近くに位置する「わらび内科ペインクリニック」は、麻酔技術を応用した痛みの治療に力を注ぐ。戦後間もない頃から内科医院として地域に親しまれてきたが、3代目にあたる蕨謙吾(わらび・けんご)院長が勤務を開始すると同時に、屋号や建物の一部とともにリニューアルを行った。まだ比較的新しい分野であるペインクリニックの難しさは、施術そのものより、患者の意識を高め「治す」という気持ちに持っていくことだという。団塊世代が後期高齢者となる「2025年問題」を間近に控えた今、高齢者の在宅介護といった側面でも痛みのケアが注目されてくるだろう。その時、町の医院に求められる役割は何なのか。その近未来像についてもクローズアップしてみたい。

(取材日2014年2月20日)

ペインクリニックを開設した3代続く町のクリニック

こちらは、地元で半世紀以上続く内科医院と伺いました。

蕨謙吾院長 わらび内科ペインクリニック1

当院は、祖父が戦後間もない頃に開院しましたので、もう80年近くたつでしょうか。すぐそばにある亀戸天神社は、小さい頃から親しみを込めて「テンジン」と呼んでいましたね。放課後に「テンジン」に集合して、友達と遊びに出かけたものです。当時は高度経済成長期でしたから、子どもの数も多く、みんなで野球をすることが多かったですね。祖父、父が医師として働く姿を見てきましたから、医師の道を選ぶこと、また地元で開業医として働くことに迷いはなかったですね。今、私の母校であり、昔は祖父も校医をしていた江東区立第一亀戸小学校の校医をしています。久々に母校に足を踏み入れ、懐かしさと同時に、こうしたところにも天神様の縁を感じます。もちろん受験の時もお世話になりましたし、亀戸の生活の中心には、やはり天神様があるのかもしれません。スカイツリーの開業以来、参拝者も増えているようですし、地域がさらに盛り上がっていけばいいですね。

普段は、どのようなリフレッシュをされているのでしょう?

体を動かすことが一番ですね。月に一度程度ゴルフを楽しんでいますが、メンタルというか、戦略性の高いところも気に入っています。ゴールに向けて一連の流れを組み立てて実践していくところが面白いですね。もちろん、そのとおりにいかないことのほうが多いのですが(笑)、そういったアクシデントも魅力の一つです。家では、息子が小学校に入る年齢なので一緒に野球や水泳、スキーをして体を動かしています。飲み込みが早くて楽しいですね。わが子自慢になってしまいましたが、成長を見ているだけで癒やされています。

医師の道に迷わず進んだとのお話でしたが、専門はどのような経緯で選択したのですか?

蕨謙吾院長 わらび内科ペインクリニック2

将来的には開業医として実家を継ぐことが頭にありましたので、医学部卒業時の進路ではかなり悩みました。町のかかりつけ医として幅広い知識を持つ総合診療を行える医師、いざという時に全身管理のできる救命救急医的な医師になりたいという理想はありましたが、当時はどちらも今ほどは確立されておらず、選択肢も限られていました。そんな時頭に浮かんだのが麻酔科医師という選択でした。麻酔科医師なら、子どもからお年寄りまで多くの患者さんと接することができ、緊急時の対応も勉強できると思ったんですね。結果として20年近く麻酔科医師として働き、さまざまな合併症を抱えた患者さんの手術の麻酔を行う中、多くのことを学んできました。また、ペインクリニックという概念を知ったのもこの時です。非常にハードな日々でしたが、私にとって大きな財産となっています。

他人に伝わりにくい「痛み」に寄り添い、治療していく

カンガルーのようなトレードマークがユニークですね。

蕨謙吾院長 わらび内科ペインクリニック3

これは「ワラビー」という小型のカンガルーなのです。当院は以前「蕨(わらび)医院」という名称でしたが、2009年に私が副院長として戻ってきた時、リニューアルとともに名称変更しました。学生の頃のニックネームが「ワラビー」だったこともありましたし、町のかかりつけ医として、常に安心できる「お母さんの袋」という意味も込め、トレードマークのモチーフに選びました。主な診療内容としては、内科のほかに、ペインクリニックを手がけています。「痛み」を抱えている患者さんは、どうしても内向的になりやすいですから、クリニックは明るく開放的な空間をイメージしました。広々としたトイレには大型のミラーを設置し、パウダールームとしての機能も持たせました。また、車いすの方も少なくありませんので、バリアフリー対応となっています。

ペインクリニックとは、どのような診療内容なのでしょう?

外科手術においては、術中の患者さんの全身状態を管理するだけでなく、さまざまな薬や神経ブロックという手技を用いて術後の痛みを軽減させることも麻酔科医師の大切な仕事の一つです。そして、この技術がほかのことにも応用できないかと広まったのがペインクリニックです。神経ブロックは、例えば急性の椎間板ヘルニアのように器質的な原因の存在する疾患にはよく適応しますが、一方で難しいのは、慢性の痛みや器質的な問題が明らかでない、例えばストレスや自律神経が関与するような痛みなんです。

慢性の痛みの場合、どのように難しいのですか?

蕨謙吾院長 わらび内科ペインクリニック4

治療が年単位といった長期にわたることもあり、患者さんのモチベーション維持が困難なのです。神経ブロックは慢性痛治療の一つの手段ではありますが、残念ながらそれだけでは治療しきれないケースも存在します。なので、慢性痛の治療ではまず、日常生活を送る上でどの程度の痛みなら意識しないで痛みと共存できるのかゴールラインを決め、そこをめざして神経ブロックや薬、運動療法などを行います。また、治療では患者さんの痛みに対する不安を取り除いていくことも重要で、必要であれば整形外科や心療内科の先生をご紹介し、並診をお勧めすることもあります。不安の除去は自律神経の緊張を緩め、血流の改善につながるだけでなく、患者さんの治療に対するモチベーション維持にも役立ちます。そして、そのモチベーションを支え、協力しながら治療に取り組むことで、患者さん自身の自然治癒力を高めていくのが、ペインクリニックの大きな役割だと思っています。

迫る2025年問題、開業医がめざす方向とは

つらい思いをしている患者さんに、どのような接し方を心がけていますか?

蕨謙吾院長 わらび内科ペインクリニック5

「他人と唯一共有できない感覚」が痛みだと考えています。いわゆる五感は多くの人と分かち合えますよね。ところが、どのように痛いのかは、擬音語や例えなどを介して表現するしか方法がありませんから、他人に伝えることが困難なのです。それに、苦しんでいる方ほど、一人で抱え込む傾向があります。眉間にしわを寄せ、下を向きながら暗い表情をされているのを見ると、こちらまでつらくなってきます。そのような中、少しずつでもお話を聞いて、手がかりを探っていくのです。デリケートな問題を含みますので、時には慎重に、複数回に分けて問診をしていきます。治療が進んでいくと、次第に患者さんの表情が変化してくると感じます。「痛みは人格すら変えてしまう」と、常々感じているところです。

掲げているモットーがあれば、教えてください。

適切な治療を行うことが大原則。あとは「来院することで、安心が得られる場所」でありたいということでしょうか。患者さんは皆、何かつらいところがあって不安を抱えてクリニックにいらっしゃるのですから、治療はもちろんのこと、緊張から解き放たれ、ほっと一息入れられる場であること、帰る時に「やっぱり来て良かった」と思っていただける場所であることが重要だと思っています。

最後に、今後の抱負について伺います。

蕨謙吾院長 わらび内科ペインクリニック6

「自分のやってきたことを生かして大きな病院と開業医の橋渡しをしたい」というのが開業した大きな理由の一つでした。なんでも相談できる町のかかりつけ医と、ペインクリニックによる痛みの治療、これを診療の2本の柱にしてきましたが、開業して5年、その思いはますます強くなっています。今後、団塊世代が後期高齢者となり、今まで以上に大きな病院と開業医の役割分担と連携が重要になってくるでしょう。老老介護や独居高齢者の方々の現実に接し、開業医と患者さんの家族や地域との関わり方といった、社会のフレームも無視できません。在宅医療、介護への取り組みは、今でも江東区の医師会などが中心となって確実に動いています。当院もクリニックの3本目の柱として地域のコミュニティーとも協働しながら、高齢者を対象とした在宅医療に取り組んでいく考えです。

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