江村 康 先生の独自取材記事
江村精神科クリニック新宿
(新宿区/新宿駅)
最終更新日:2024/12/02

クリニックでは珍しく院名に「精神科」を掲げ、豊富な臨床経験を持つ10人の医師が診療を行う「江村精神科クリニック新宿」。西新宿の高層ビル群に囲まれながらも待合室の窓から見える木々の緑は美しく、院内は穏やかな空間だ。受付や診察室の扉には北海道東部に暮らす動物たちが描かれている。北海道根室市にある江村精神科内科病院の分院として江村精神科クリニック新宿を立ち上げたのは本院で院長を務める江村康先生。飾らぬ穏やかな人柄で、山邊義彬院長とともに地域に根差した医療提供をめざす。開業のエピソードや院名に込めた思いについて話を聞いた。
(取材日2024年6月13日)
場所は離れていても心の医療にかける思いは同じ
初めに、開業の経緯をお聞かせください。

当院は、北海道根室市にある江村精神科内科病院の分院です。母体の法人は私の祖父が設立したもので、私自身も北海道の生まれです。医師としては都内の大学病院や大規模病院で臨床経験を重ねてきました。また院長の山邊先生と同じく、東京都立松沢病院でも臨床の現場に携わっていました。現在当院には山邊先生をはじめ、精神科病院で研鑽を積まれた先生が多く在籍しています。山邊先生も私も、精神症状の重い患者さんに接する中で「入院が必要になる前に、地域のクリニックでできることがあるのではないか」と常々考えていました。都内でそのようなクリニックをつくりたいという構想もその頃からあったのですが、私は亡き父に代わって本院を支えるために2年ほど前から北海道に軸足を移しています。そこで全幅の信頼を寄せる山邊先生に当院の院長就任をお願いさせていただき、2024年4月にこの地でクリニックを始めました。
本院は北海道根室市にあるのですね。
はい。本院は北海道の最東端にある漁業が盛んな町で医療を行っています。魚介類は花咲ガニや鮭や秋刀魚が獲れます。自然豊かな地域でシカやキツネやクマなどの動物も多くおります。納沙布岬からは北方領土が見えます。新宿のクリニックの受付や診察室入り口の扉には、道東に暮らす動物や魚や雪だるまがデザインされています。私は北海道で院長を務めているため新宿での定期的な診療は難しいのですが、当院では主に診療環境や体制整備などのプロデュース的な面を担当し、本院のノウハウを当院の診療体制などの面で多様に生かしています。北海道根室市と東京都新宿区は距離も離れ気候や風土も大きく違いますが、いずれ新宿と道東地域との新たな連携を実現したいと考えています。
「地域に根差した医療」をめざしているのでしょうか?

そうですね。当院も新宿で本院のような地域に根差した存在になりたいと思っています。早期介入は私のめざす医療の形でもありますが、現代の精神科医療全体が「できるだけ地域の中で診ていきましょう」という流れです。うつ病や統合失調症など悪化すると入院が必要になるような精神疾患も、適切な診断と治療の開始が早ければ早いほど、治療に伴う負担も少なく改善が望める傾向にあります。良い薬も次々と開発されており、地域の医療や福祉と協力してできることも多くあります。「20年後、もっと輝くために」を一つのフィロソフィーとして、当院での治療によって、患者さんのこれから先の人生がより良いものとなるようサポートしてまいりたいと思っています。
豊富な臨床経験を持ち、個性と才能にあふれた医師たち
都内の中でも、新宿を開業場所に選んだのはなぜですか?

新宿を選んだ最も大きな理由は交通の便です。新宿駅は日本有数のターミナル駅ですから、そこから徒歩圏内の立地に魅力を感じました。医療は多くの方の通いやすい場所にあることが望ましいと考えており、新宿駅が中央線沿いということも大きな利点です。というのも精神科の病院は中央線でつながる郊外に多いんです。私の勤務していた松沢病院は中央線沿いではないものの、世田谷区にあり当院と比較的近い場所にあります。関東圏の各方面からのアクセスが良く、どなたでも通いやすく、病診連携もスムーズなこの立地は、精神科医療を行うクリニックとして一つの強みだと感じています。新宿は今の日本の移り変わりが表現された街でもあると思います。その時代に合わせた精神科医療を提供していきたいです。
院名に「精神科」とつけるクリニックは少ないのではないかと思いました。
確かに、心の問題を扱う医療機関では「心療内科」を掲げるクリニックが多いですね。精神科と心療内科の違いを一言で表すならば、精神科は幻聴・幻覚を伴う症状を含めた心の不調全般を、心療内科は心理症状に伴う頭痛や吐き気といった体の不調を扱います。ですが明確な線引きはなく、ほぼ同義として見なされることもあります。当院の医師は精神医学の知識と臨床経験を持ち、ICD(国際疾患分類)やDSM(アメリカ精神医学の研究機関の作成する精神疾患の診断・統計マニュアル)に基づいて診断します。また「自律神経失調症」や「心身症」というような表現ではなく、精神科医療のガイドラインにのっとった病名をお伝えします。その上で患者さんの健康状態や家族関係などの背景も考慮して一人ひとりに合った治療を提案します。このような専門性と精神科医療に取り組む姿勢を表す意味で、クリニック名に「精神科」を取り入れました。
どのような先生が診てくださるのでしょうか?

当院では、豊富な臨床経験を持つ10人の医師が急性期から慢性期まで幅広く診療を行います。精神科救急での勤務歴のある医師も多く、日本精神神経学会精神科専門医の資格を持つ医師も多数在籍しています。精神科救急や児童青年精神医学、老年精神医学、神経精神薬理学などについて、それぞれ専門に学んできた医師もおりますので、ADHD治療薬、ナルコレプシー治療薬、アルコール依存症治療薬といった薬剤の処方も可能です。企業で働く方々のメンタルヘルスに向き合ってきた経歴を持つ医師や、その他にもマルチな才能を持った医師もいるんですよ。才能にあふれた精神科医師が1対1で向き合う「主治医制」で患者さんをサポートしています。
心の不調を感じたらいつでも相談してほしい
スタッフの体制についても教えてください。

当院事務には精神科病院で長い勤務経験のある事務スタッフも在籍しており、スムーズに病診連携ができます。看護師が常駐しているのも特徴で、いつでも採血や血圧などの検査を行える体制を整えています。必要であれば注射や点滴を行うことも可能です。またWAISなどの心理検査を行うこともできます。医師はもちろん、スタッフ一人ひとりが各ポジションの役割を果たしながら、患者さんが安心して診療を受けられるような環境づくりに努めています。
診療の際にはどのようなことを心がけていらっしゃいますか?
まずは症状をしっかりと見極めること。例えば患者さんにうつの症状があったとして、それが脳の機能の問題であることもあれば、他の精神疾患が原因で生じるものだったり、甲状腺の問題や脳腫瘍の影響であったりと、他の診療科の病気が隠れていることもあります。当院では症状が精神科医療の範囲であるか否かを確認するため、検査にも注力しています。そして初診時にある程度の診断をつけることも大切にしています。確定ではなく疑わしい段階であってもお伝えできるよう心がけています。診断の方向性を見誤っては、適切な治療につなげられません。その上で、患者さんの希望を取り入れながら治療を考えています。医学的にどうしても欠かせない薬や治療はありますが、できるだけ患者さんが前向きに治療に取り組めるよう治療方針を一緒に考えていきます。
最後に、心の不調に悩む読者へメッセージをお願いします。

不眠や気持ちの浮き沈みや不安感の強さなど、心につらさを感じたら、いつでもいらしてください。現代社会で心の不調を抱える方は多く、受診は何も特別なことではありません。また、心の不調の治療は継続することも大切です。他院に通っていたものの続かなくなってしまったり、引っ越しなどで治療が中断してしまった方もお気軽にご相談ください。臨床経験を積んだ医師による主治医制での診療体制のもとで一人ひとりの病状に合わせた治療を提案し、患者さんそれぞれの心のよりどころとなれるようなクリニックをめざしてゆきます。人生は今が未来へとつながっていく連続性のあるものです。当院との出会いが、これからのより良き人生への一助となれましたら幸いです。「20年後、もっと輝くために」を一つのフィロソフィーとして、患者さんの人生にとって当院が夜の小道の足元を照らすような場所であれたらと願っています。