妊娠・出産前後の発症に要注意
甲状腺疾患を理解し早めの受診を
はるお内科クリニック
(堺市西区/上野芝駅)
最終更新日:2021/10/12
- 保険診療
何だか疲れやすい、体がむくむ、いらいらする、やる気が出ない……。日常生活で見過ごされ受診に至らない症状が、実は甲状腺ホルモンをつくる甲状腺のトラブルである可能性がある。バセドウ病と橋本病に代表される甲状腺疾患は、正常な甲状腺細胞を自ら攻撃してしまう自己免疫疾患。病的な免疫機構により甲状腺が過剰に刺激されたり破壊されたりする結果、血中甲状腺ホルモンが増加する「機能亢進症」、甲状腺細胞が破壊された結果、甲状腺ホルモンが出にくくなる「機能低下症」があり、特に女性は妊娠・出産を契機に発症することも多いという。産後うつにも密接に関わるという甲状腺疾患の原因や症状、検査、治療内容について、甲状腺疾患における専門性の高い治療を長年にわたり提供してきた玉置治夫院長に話を聞いた。
(取材日2019年7月20日)
目次
妊娠・出産を契機とした発症も多い甲状腺疾患。早期受診・治療でしっかりコントロールを
- Q甲状腺疾患であるバセドウ病、橋本病とはどんな疾患でしょうか。
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A
甲状腺疾患の相談の多くは橋本病とバセドウ病であり、ともに甲状腺に起こる臓器特異的自己免疫疾患です。自己免疫疾患とは、本来自己臓器に対しては起こらない免疫反応が、全身あるいは特定の臓器の正常な細胞に対して発症するものをいいます。橋本病やバセドウ病においては、甲状腺ホルモン分泌が必要以上に活発になり過ぎたり、あるいは一時的に甲状腺組織に蓄えられている甲状腺ホルモンが血中に大量に放出されたりすることにより起こる「甲状腺機能亢進症」と、甲状腺細胞が破壊された結果、血中甲状腺ホルモンが不足する「甲状腺機能低下症」の2種類の病態があります。
- Q発症のタイミングや原因、主な症状を教えてください。
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A
発症は、妊娠・出産以外にも、小・中学生の場合もあれば、高齢になってからの場合もあります。原因の大半は遺伝ですから、ご両親や近親者に甲状腺疾患の方がいらっしゃるなら、早めの検査がお勧めです。症状としては、甲状腺機能亢進症では息切れや動悸、体重減少、軟便や下痢、集中力の低下、手指の震えなどがみられます。逆に、甲状腺機能低下症では脈が遅くなり、体重増加や眠気、無気力、便秘、動作緩慢などがみられることがあります。さらには経過観察中に、甲状腺機能亢進症の方が甲状腺機能低下症になったり、逆に機能低下症の方が機能亢進症になったり、亢進・低下を繰り返したりと変動することもあります。
- Q機能低下症だった方が、機能亢進症になる可能性もあるのですか。
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A
機能亢進に向くのか、あるいは機能低下に向くのかは、甲状腺疾患が発症する際にどちらに出てくるかということだけです。血液検査をしたら甲状腺機能低下症だったけれど、その後に甲状腺機能亢進症になったり、その逆のケースもあります。いずれも重症化すると、心不全や意識レベルの低下などの全身性の症状を起こし、命に関わることもあります。また、「最近性格が変わった」、「動きが鈍くなってきた」、「うちの子どもはしっかり勉強しているのに最近学校の成績が落ちてきた」など、家族や友人など周囲の方が気づくこともありますね。また、頭髪の脱毛は、甲状腺機能亢進症、および甲状腺機能低下症に共通する症状です。
- Qどのような検査を行うのでしょうか。
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A
血液検査ではTSH(甲状腺刺激ホルモン)とFT4(遊離型サイロキシン)、場合によりFT3(遊離型トリヨードサイロニン)を測定します。また、バセドウ病の診断ではTSH受容体抗体、橋本病の診断では抗ペルオキシダーゼ抗体や抗サイログロブリン抗体を測定します。場合により甲状腺エコー検査も必要となります。私は患者さまの首の甲状腺の腫れを見たり触診をすれば、経験的にある程度の診断ができることが多いですが、一般の方にこのセルフチェックはかなり難しいでしょう。健康診断では一般的にコレステロール値を測定していますが、甲状腺機能亢進症ではコレステロール値が下がり、逆に甲状腺機能低下症では上がる傾向があります。
- Q治療について教えてください。
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A
バセドウ病による甲状腺機能亢進症であれば甲状腺ホルモンの過剰な産生を抑制するために、また、甲状腺機能低下症であれば甲状腺ホルモンの補充するために、投薬治療を行います。治療開始後、安定する4ヵ月目以降は2~3ヵ月に1回程度の定期検診に移行していきます。バセドウ病の場合、治療開始直後3ヵ月間は重篤な副作用の起こりうる時期ですから、特に要注意です。また、長らく服薬しても病状が安定せず、より治療が長引いてしまうような場合には、甲状腺の摘出手術や放射線治療をご提案することもありますね。