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肌附英幸 院長の独自取材記事

田園調布醫院

(大田区/沼部駅)

最終更新日:2021/10/12

肌附英幸院長 田園調布醫院 main

後ろで一つに結わえた長髪、白衣の下にちらりと見えるロックバンドTシャツ…田園調布醫院院長・肌附英幸先生の外見は、一見したところまったく医師らしからぬ雰囲気だ。しかし医院の診療内容は、行政の施策が立ち遅れている「在宅介護」「過疎医療」に果敢に切り込むパイオニア精神のかたまりだ。これはすべて、患者さんと、患者さんを取り巻く家族の方々の"本当の幸せ"を願うためだと肌附先生は語る。多摩川沿いの沼部駅からほど近い、商店街のなかに建つ医院を訪ねた。

(取材日2011年1月14日/再取材日2014年7月24日)

医療の現場から、在宅診療の重要性に目を開く

先生が医師を志したきっかけを教えて下さい。

肌附英幸院長 田園調布醫院1


僕は子どもの頃から飛行機が大好きで、ずっとパイロットになりたかったんです。それも旅客機ではなく、戦闘機。航空自衛隊のパイロットになるのが夢でしたね。ところが高校のなかばでいざ進路を決める段階になると、親から猛反対を受けてしまったんです。そこで浮かんできたのが、医師という選択肢。自分の将来の姿を考えたときに、組織のなかでこつこつと頑張っているというよりは、何か独力で事業展開するような仕事をしていたいと思ったんですね。「医師になって開業しよう」と、最初はそんな理由がきっかけでした。山形大学医学部で学び、卒業後は聖マリアンナ医科大学内科に勤務しました。

そのご経験のなかで在宅医療の必要性に注目されたのですか?


はい。病院に入院されている患者さんに毎日どんな治療が行われているかと考えますとね、1日1回の回診、1日1回か2回の点滴での抗生剤投与。あとは時々検査。そんなところです。それ以外の時間を患者さんはただひたすら、病院というあまり居心地の良くない空間で寝て過ごすわけですね。これは病院にとっても患者さんにとっても本当に幸せなことなのだろうか?だんだんとそういう疑問を抱くようになりました。ましてや末期ガンの患者さんにいたっては、病院でできることはもう何も残されていないんですよ。それでも病院のなかに閉じ込めて、病院のベッドの上で亡くなっていく。本当は誰だって慣れ親しんだ自分の家で最期を迎えたいし、自分の家で治療を続けられたらその方が毎日はずっと楽しいはずですよね。だって、自分の本もレコードも思い出の写真も、すぐ手を伸ばせば届くところにあるんですから。もちろん、家族だってそばにいるわけですし。ちょうど「社会的入院」という言葉が話題にのぼるようになり、政府も在宅医療を推進する方針を打ち出し始めていました。よし、ここにチャレンジしてみようと。ただ生き延びるための医療ではなく、生きる質を高めるための医療、それが僕の考えの根底にあります。

そのためには医療面のハードルが色々とありそうです。

肌附英幸院長 田園調布醫院2


皆さんそう言われるんですよね。でも、先ほどお話ししたように、入院患者さんに対して病院が行っている治療は、実はさして難しいことではないんです。ただ、それを患者さんご本人やご家族が家で行うことは、やっぱり難しいですよね。だって点滴や注射なんてできるわけありませんから。ここに「在宅医療の方がたぶん幸せだろう」と分かっていてもなかなか普及に結びつかない理由があるのだと思いました。だったら、できるようにしてしまおうと。毎日、医師、あるいは看護師が回診に回って様子を見て、点滴など必要な医療処置を行う。身体を拭く・お風呂に入れるといった、病院で看護師が日々行う治療以外のサービスも、各ご家庭を看護師が回って、病院と同様に行うようにすればいい。そうすれば、家にいながら入院しているのと同じサービスを受けることができるわけです。「在宅入院」のシステムを作ってしまおうと考えました。1997年に聖マリアンナ医科大学のすぐ裏手で、在宅医療専門の医院を開業(3年後に現在の場所に移転)。実際、始めてみるとその効果はてきめんでした。たとえば認知症でまったく意思の疎通が出来ないと思われていたおばあちゃんが、自宅に帰ったとたん笑顔で返事をしてくれるようになったりね。半分以上の患者さんは、在宅医療に切り替えるとまず顔つきががらっと変わります。

在宅診療も一般診療も、すべては地域の必要のために

在宅医療というともう一つ、介護する家族の負担が大きいのではという心配があります。

肌附英幸院長 田園調布醫院3


確かにおっしゃる通りです。だから田園調布醫院では、在宅医療の「医療」の面だけではなく、「在宅」そのものをどう支えるのか、そのプランニングそのものもご提供しています。自営なのか会社員なのか、奥さんが働いていらっしゃるのか専業主婦なのか、夫婦二人だけの家庭なのか…一つ一つのご家庭ごとに全て事情はことなり、当然どのような助けが必要かも違ってきます。それを踏まえた上で、1週間に何度看護師に来てもらえば良いのか、あるいはホームヘルパーに来てもらえば良いのか、何度医師の回診が必要なのか、そもそもそういうことの全体にはどのくらいのお金がかかるのか、介護保険でどのくらいカバーできるのか…専門的知識を持ったプランナーがプランを立て、アドバイスをさせて頂きます。そのなかの1項目として、在宅診療も存在しているわけです。高齢者など、要介護認定者の自宅介護を支援するケアマネージャーという職業は既に確立していますが、"医療も含めたケアマネージャー"と考えて頂ければ良いと思います。

お話を伺っていると、医師だけではなく看護師の役割もとても重要ですね。


はい。病院では看護師が患者さんのベッドを一つ一つ回って点滴などの処置を行いますが、在宅医療ではそれが一軒一軒の家を回ることに変わるわけです。そして先ほどもお話ししたように、医療処置以外のサービス、たとえば身体を拭くとか入浴を補助するといったサービスのためにも、看護師が独自にチームを組んで各ご家庭を回ることになります。実はそのときに、看護師がある程度まで医療判断をくだせるようになっていたら、もっといいなと思うんですね。と言うのは何か突発的なことが起こったときに、遠くから医師が駆けつけて来るのを待っているのでは遅いことがありますから。看護師自身がとっさに判断をくだせるだけの知識を持っていたら、患者さんのために非常に良いわけですね。僕は在宅医療システムを日本中に広げていくためには、ハイレベルな看護師の育成が必要不可欠だと考えるようになりました。実はアメリカには、既に"エキスパート・ナース"という職種があるんですよ。医師に判断をあおがずとも、ある程度までの医療行為を行える知識を身につけた看護師のことをこう呼びます。日本で資格として認定されるまでにはまだまだ時間がかかると思いますが、それを待ってはいられません。僕の医院では既に、少なくとも医師に高度な観点から報告が出来るよう、看護師への教育を始めています。もともとぼくらは"在宅医療専門"という新しい領域に先に踏み込んだわけですからね。制度がきちんと整うことをおとなしく待ってはいられないんです。

一方で田園調布醫院では、一般診療も行っていますね。

肌附英幸院長 田園調布醫院4


はい。川向うの聖マリアンナの裏手で在宅医療専門医院を始めて、各ご家庭を回っているなかで、この辺りにいわゆる"町医者"的な医院が一つもないことに気づいたんです。ちょうどその頃、長くこの地域で診療されていた内科医の先生が病院を閉められて、町の人たちがとても困っていると聞いたんです。だったら一般診療と在宅診療、両方やる医院を作ろうと思いました。実際始めてみると、地域の方々により安心して頂けたことが思わぬメリットになりましたね。在宅医療だけだと、「何をしている病院なんだろう?」と若干不安に思われていたみたいです(笑)。現在、内科、整形外科、リハビリテーション科が診療科目。特にリハビリテーション科を作ったのは、この地域でも高齢化が進んでいますから、おじいちゃん・おばあちゃんに週に何回か病院まで歩いて来てもらって、一緒に身体を動かす。そういう習慣を作りたかったからなんですね。在宅診療も含めて、僕の病院では、難しい症例はしかるべき先生の所へちゃんとご紹介をします。僕が目指しているのは、町のなかで、とにかく身体のことをまず相談に行ける病院。わざわざ遠くまで行かなくても、ここで治せるものはここできちんと治せる病院。食の世界で言ったら、高度な専門医は高級レストラン。でも、町には気軽に行ける定食屋さんも必要なんです。僕の所は定食屋でいいんですよ。いつも気軽に行けて、決して最高級ではないけれどハンバーグでもカレーでもラーメンでもそろっている、我が町の定食屋さん、そんなイメージです。

山形・川崎・千葉へも広がる在宅診療。そして、未来へ

2010年からは、山形でも在宅診療を始められたそうですね。

肌附英幸院長 田園調布醫院5

はい。月2回山形県の東根市に出張して、同様にご家庭を回っています。もともと山形大の出身ですから向こうに知り合いが多いのですが、ちょうど東根市内の公立病院に"病院―在宅診療拠点医院―養護老人ホーム"、この三つの施設を一つの区域に固めて、互いに連携し合って地域を診ていこうという計画がありましてね。在宅診療の部分をやらないかと声をかけて頂きました。地方にも在宅医療を広げたいという夢が出て来ていたところでしたから、渡りに船と参加しましたが、改めて、東京以上に、地方では在宅医療が切実に必要とされていると感じます。過疎化で病院の数が劇的に減っていますし、雪も降りますしね。点滴を受けに行くのに40km先の病院まで行くという生活が、どれほど大変なことか。「毎月山形に行くのは大変でしょう」と言われますが、新幹線で行けばすぐですし、待っていてくれる人がいるのだから行かない手はありませんよ。

東京に山形に、在宅に一般診療に…正直、お疲れになりませんか?

全然。だって毎日在宅診療に伺っていますが、僕はそれを"患者さんに会う"とはあんまり思っていないんですよ。しっかり人間関係ができていますから。そうですね、ちょうど友だちに会いに行くようなかんじでしょうかね。友だちの家に行って、お話をして…だからあまり「疲れた」なんて感じません。僕は別にこの地域の出身ではありませんが、ここへ来て町の方々の家を回るようになって、毎年お祭りにも参加するようになりました。御輿をかついで、太鼓だって叩いてますよ。そして町の人と酒を酌み交わす。この町で楽しく暮らしています。

最後に、今後目指すことについて教えて下さい。

肌附英幸院長 田園調布醫院6

在宅診療の輪を全国に広げていくことですね。そのために、フランチャイズ方式のようなシステムを確立していきたいです。これから開業する先生のなかで、在宅診療をメインにやっていきたい方。そういう先生と契約を結び、ノウハウと資金をご提供。在宅診療という新しい分野で最初から100パーセントのリスクを負うとなると、これは二の足を踏んでしまいがちです。半分のリスクはこちらで持ちますよ、というフランチャイズ方式ですね。先生方は田園調布醫院で在宅医療の研修を積み、その後、それぞれの地域で開業して頂きます。実際この数年で川崎市、横浜市、木更津市、君津市での運営が始まっております。都心部からも近い地域なのに、と思われる方も多いのですが、例えば房総半島では急病人が出た場合、ドクターヘリで搬送するようなことがあるんですよ。ですので、このシステムで日本全国に在宅医療が広がって行くことを願っていますね。だってそれは人々に必要とされている医療なのですから。また、院長として、自分の病院のスタッフに楽しく誇りを持って働いてもらうことも常に僕の目指していることですね。僕はこの医院のお父さんなんだと思っています。スタッフは僕の大切な娘であり、息子であり。そのスタッフたちが質の高い医療を行い、気持ちの面でも楽しく働いていけること。その雇用をしっかり守り続けること。院長として、これが僕の目指すもう一つの大きな目標です。

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