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高見 悟郎 院長の独自取材記事

杁ヶ池メンタルクリニック

(長久手市/杁ヶ池公園駅)

最終更新日:2021/10/12

高見悟郎院長 杁ヶ池メンタルクリニック main

「杁ヶ池メンタルクリニック」はリニモ杁ヶ池公園駅から徒歩で約5分。きれいに整備された図書館通りから少し入ったところにあり、モダンな外観と住宅のような落ち着いたたたずまいが印象的だ。この地域で開催された国際博覧会「愛・地球博」と同じ2005年に開院。うつ病や不眠症、躁うつ病や適応障害、不安障害などさまざまな精神疾患に対し丁寧な診療を行っている。自然光とダウンライトの光がバランスよく差し込む心地よく落ち着いた院内から、患者へのきめ細かな配慮が感じられる。自分の中にある病気と向き合い頑張っている患者の姿を見て「素朴な思いやりを持ち続けられる医師でありたい」と語る高見悟郎院長。そんな高見院長が診療に取り入れている「力動精神療法」を中心に精神医療について詳しく話を聞いた。

(取材日2017年2月13日)

心の在り方に目を向けた診療で患者の回復を後押し

まず最初に、こちらでの診療の流れを教えてください。

高見悟郎院長 杁ヶ池メンタルクリニック1

当院では来院されたすべての患者さんに「力動精神療法」を用いた診療を行っています。症状を拾い出すだけで病気を決めつけることはせず、患者さん一人ひとりの困難の本質を見極めるよう心がけています。お困りの症状をうかがうだけでなく、ご本人が気づいていない行き詰まりのパターンや悪循環を、患者さんのこれまでのストーリーをうかがう中で、力動精神医学に基づいた発達的観点や防衛分析を通して明らかにしていきます。症状の軽減だけでなく、身心のバランスを保つこころの働きを取り戻し、本来の生活に取り組んでいけるような道筋を探していきます。「見立て」「治療計画」は良好な治療結果を左右する重要なポイントですので、最初の面接から直接お話をうかがうスタイルを開院以来貫いています。症状で行き詰まってしまってから後手後手に治療を追加していくのではなく、先手をうった治療で回復を後押しします。

どのような症状の方が来院されますか? またどういった経緯で来院される方が多いですか?

精神疾患としては、適応障害、躁うつ病、うつ病、身体表現性障害、不安障害の患者さんが多いように思います。夜8時まで診療をしていることもあり、お勤めをされている方の割合が多いです。「力動精神療法」は発達促進的に関わることで治療を進めていくため、思春期青年期の学生さんも多く通ってみえます。スクールカウンセラーから紹介される場合も多いです。近年ようやく睡眠薬の乱用・依存に警鐘が鳴らされるようになってきましたが、当院は開院以来、いわゆるベンゾジアゼピン系睡眠薬を使わずに良質な睡眠を確保するノウハウを蓄積してきました。不眠症の患者さんも多いですね。来院のきっかけは、ご本人がホームページを見て来られることが多いですが、ご家族やご友人など第三者からの勧めで来られる方も多いです。大切な人にお勧め頂けるのはわれわれの励みになっています。

診療の際に患者さんに対して心がけていることがあれば教えてください。

高見悟郎院長 杁ヶ池メンタルクリニック2

精神医療に取り組む上で必要となるものが2つあり、1つは「生物学的精神医学」、もう1つは「心理学的精神医学」です。双方に通じた上でそれぞれの強みを生かして治療を進められることが理想と考えます。私は専門性を高める中で精神薬理学、生物学的精神医学の分野で学位を取得し、併せて精神分析、力動精神療法のトレーニングを積んできました。患者さんの身に起きていることを精神医学的・心理学的な「見立て」に基づいて説明し、回復までの道のりを「治療計画」を示してご提案します。必要な場合はお薬の使用もご提案しますが、お薬を使うことで期待できる効果とその限界について患者さんにお伝えすることが大切と考えています。患者さんから「わかりやすかった」とお言葉を頂くことが多いですが、最短ルートで治療を進めるためには患者さんと協力することが大切と考えます。患者さんと治療内容を十分に共有できるよう心がけています。

「力動精神療法」で根治に軸足を置いた診療をめざす

こちらで取り入れられている「力動精神療法」とはどのようなものでしょうか。

高見悟郎院長 杁ヶ池メンタルクリニック3

面接の中で患者さんの「気づき」を促し変化を起こしていくのは心理療法に共通するしくみです。システマティックに行動面から気づきを促す技法に認知行動療法がありますが、力動精神療法では無意識も含めたこころ“全体”を視野に入れて治療を行います。こころは固定されたものではなく、一見変化がないように見えてもその人にとって最適になるよう変化を常に続けています。力動精神療法では無意識を含めたダイナミックなこころの状態を見極め、面接での一言を治療者が慎重に返すことでこころが新たな変化を起こすきっかけを作っていきます。理屈を押しつけるのではなく慎重な働きかけを通して変化を促すことで、患者さんが自律性を損なうことなく回復へ歩んでいくことが可能になります。変化はリアルタイムに起こってくるため診察は1回1回が真剣勝負になります。治療者に求められるものは大きいですが、根治を目指したアドバンテージが高い治療技法です。

先生から見た、こちらに通っている患者さんの印象は?

当院に通われる方は前向きに良くなりたいと頑張る方が非常に多く、一人ひとりが印象に残る方ばかりです。それだけに、その乗り越え方や治っていく形は本当にさまざまで、中には「この患者さん、こんなことができるんだ。こんな乗り越え方をするんだ」と、こちらが驚かされることも多々あります。「力動精神療法」を用いた見立ての中で、この患者さんにはこの要素を伸ばす必要があるとか、ここのやり方の幅を広げられればもっと上手にバランスが取れるようになる、といった方向性は見極められるのですが、その達成の仕方は素晴らしく、人の持つ力をというものをこのクリニックで改めて感じています。

開院された理由は、そのような患者さんとの関わりを大切にしたかったからでしょうか。

高見悟郎院長 杁ヶ池メンタルクリニック4

もちろん開院することで、患者さんと関わりながら理想の精神医療を追求したいという気持ちは大きかったです。ただ、患者さんごとに回復に差が生じやすいこの分野での開院には、正直いろいろな葛藤がありましたね。ですが「力動精神療法」は発達促進的に作用する治療技法です。若い人が多く住む長久手市だからこそ生かせるものだと感じていました。そんな希望にあふれた町だからこそ開院を決断できたのだと思います。

医師として一人ひとりの患者の心と向き合い続ける

先生が精神科の医師をめざそうと思われたきっかけは何ですか?

高見悟郎院長 杁ヶ池メンタルクリニック5

身内に医師がいなかったこともあり、私の医師に対するイメージは「病気を治そうとしている人を助ける人」というとても素朴でシンプルなものでした。精神科の医師になって最初の赴任先は総合病院の精神科だったのですが、日常のフォローアップを目的としたクリニックと異なりあくまで治すことを第一目標とした診療を行う場所でした。志のある上司にも恵まれ、精神科は医師本人の熱意と努力で高いものをめざすことができる分野との思いを強くしました。設備がないから、スタッフがそろわないから、と「病気を治そうとしている人を助ける人」を諦めずに済む精神科にロマンを感じたのは大きいですね。

印象深いエピソードなどあれば教えてください。

開院前、精神科の専門病院で担当させていただいた患者さんのことをよく憶えています。サポートにも恵まれていない方で身体障害も抱え自暴自棄になってみえました。涙ながらに不条理を訴えられたときに当時の私には「時間とこれからどんな行動を選択するかという自由だけは平等にあるから……」と答えることしかできませんでした。その後その方は職業リハビリを受ける決心をされてリハビリ施設へ転院されていかれました。困難に立ち向かい自分のため家族のために取り組む大勢の患者さんに私は付き添ってきました。私が医師をめざした頃とまったく同じ気持ちで今なお患者さんと向き合えるのは、そんな勇気ある方たちのおかげだと思っています。

読者へのメッセージをお願いします。

高見悟郎院長 杁ヶ池メンタルクリニック6

精神医療では良質な睡眠が精神疾患の回復にとても重要だと考えられています。眠れない日が2週間以上続いたときがクリニックにかかるタイミングではないかと思います。それから、当院に来られる患者さんの傾向で、周りから求められることばかりを優先して、自分のケアを後回しにしてしまう、過剰適応で苦しくなっている方が多いと感じることがあります。どなたにも当てはまることではありませんがもっと身内や家族を信じて頼ってみることも大切だと思いますね。

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