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芳賀 勝 院長の独自取材記事

医療法人勝心会 芳賀クリニック

(豊橋市/高師駅)

最終更新日:2023/06/07

芳賀勝院長 医療法人勝心会 芳賀クリニック main

県道405号線から1本入ると、昔ながらの住宅地が広がる。その一角に位置するのが「芳賀クリニック」だ。芳賀勝院長は、勤務医時代は循環器内科を専門とし、患者を助ける医療に従事。そして開業と同時に看取りを含めた在宅医療に取り組むように。一見対極に位置すると思われてしまう、「助ける医療」と「看取る医療」。この両者をどのように捉え、日々患者と向き合っているのか。芳賀院長に詳しく話を聞くとともに、その内容から、これからのかかりつけ医の一つの姿を垣間見ることができた。

(取材日2017年4月12日)

町のかかりつけ医として外来診療と在宅医療に取り組む

医師を志したのはいつ頃のことですか?

芳賀勝院長 医療法人勝心会 芳賀クリニック1

昔から漠然と医師に対して憧れがあって、小学生の時には「医者になりたい」と言っていましたね。小さい頃、よくお世話になった先生がとても優しい方で、その姿を見てかっこいいなと思ったんです。めざすのなら、先生と同じく町医者になりたい、そんなふうに考えていました。大学卒業後は循環器内科を専門に研鑽を積むことに。苦しんでいる患者さんが元気になっていく姿をダイレクトに目にすることのできる、“助ける医療”に魅力を感じまして。でもクリニック開業後からは、それまでとは反対の在宅医療、いわゆる“看取る医療”に取り組むことに。クリニック開業そのものが、医師としての転機となったと思います。

転機となった、クリニック開業の経緯を教えてください。

もともと38歳までには開業したいと考えていて、大学卒業後10年間は、愛知医科大学病院で循環器内科の医師として診療にあたるとともに、大学院でも研究に取り組みました。そして開業のタイミングに合わせて、地元に近い田原市の渥美病院に赴任。ここでの3年あまりの研鑽は、クリニックづくりに大きな影響を与えました。在籍時、田原市で開業医をしている2人の先輩医師がどちらも在宅医療に取り組んでいて、僕は病院側の医師として患者さんを町へ送り戻す立場にいました。当時は今と比べ在宅医療に取り組む医師は少なく、その現場を目にする機会は多くはありませんでしたが、先輩方との連携の中で、今後必ず求められる分野だと実感し、開業と同時に取り組むことを決めたのです。

在宅医療を求める患者さんは多いのでしょうか?

芳賀勝院長 医療法人勝心会 芳賀クリニック2

現在は60~80人くらいでしょうか。外来診療の合間に、患者さんのご自宅へお伺いしています。ここから海側の地域は、昔から生活されている方が多く、3世代、4世代で生活しているご家族もいらっしゃいます。そういった生活が受け継がれている背景からも、在宅医療の必要性を感じられ、この地での開業の決め手となりました。日々の診療では、訪問先のご家族が熱を出したら外来に足を運んでくださったり、外来診療時に在宅医療の相談を受けたりすることもあります。通院されていた方が寝たきりとなり、在宅医療を希望する、ということもありますね。在宅医療に取り組むためには、医師と患者さんだけでなく、ご家族とのお付き合いも欠かせないものです。在宅医療専門のクリニックも出てきましたが、僕は誰にでも開かれたクリニックとして、両方をやっていくことならではの良さを感じていますね。

より良い生活を送るため、信頼関係の構築が不可欠

患者さんと接する時、心がけていることは何ですか?

芳賀勝院長 医療法人勝心会 芳賀クリニック3

最も大切なのは、患者さんやそのご家族としっかりとした信頼関係を築くこと。そのためには、何でも話してもらうことが重要です。誰に対してもお話ししやすいよう、同じ目線に立つことを心がけています。在宅医療だと患者さん本人が意思表示できない場合もあるため、ご本人の意思を第一としつつ、状況に応じてご家族のご意向にも耳を傾けて応えられるようにしています。ただ現代において、人が亡くなるところを目にしたことのない方がほとんどで、例えご本人の希望に沿う形で看取ることができたとしても、残されたご家族の心のケアが求められる場面も少なくありません。これは現在も課題の多い点ですが、豊橋市では訪問看護ステーションが看取り後の心のケアに注力する動きもあり、今後うまく対応できるのではと感じているところです。

在宅医療は特に地域連携が欠かせない領域と思います。地域で取り組んでいることなどあるのでしょうか?

豊橋市では地域包括ケアシステムの取り組みの一つとして、豊橋市医師会の中に「在宅医療サポートセンター」を設立し、僕は2016年より理事を担当することになりました。就任以降、勉強会や講習会を積極的に開催し、それに伴い訪問看護や訪問歯科、薬剤師、ケアマネジャーといった、横のつながりが自然と生まれ、新しい広がりが出てきたと感じています。またこれとは別に、在宅医療委員会の委員長を務めていた時に、豊橋市内で在宅医療に取り組む医療機関の一覧表を作成し、介護保険事業者に配布しました。これにより、各医療機関でどんな対応ができるのか、どの地域に医療機関があるのかを簡単に調べられるようになり、在宅医療に触れる新たなきっかけづくりになったのではと感じています。

他にも貴院では、「私のカルテ」というものに取り組まれているとか。

芳賀勝院長 医療法人勝心会 芳賀クリニック4

「私のカルテ」は、患者さんの診療内容や検査数値を記録して、患者さんにお渡しするノートのことです。これも開業時から取り組んでいますね。ご自身で毎日の血圧の数値を書き込んだり、お母さんが子育ての記録を取ったりと活用されている方もいらっしゃいます。これを見れば、他の病院の診察を受けることになっても日頃受けている治療内容も把握できます。お薬手帳も兼ねて活用している方だと、例えば薬の服用後にその日の体調の異変などを記録されていれば、「薬の副作用かも?」なんて気づくこともあります。通院し始めの頃小さかった患者さんも、年齢を重ねて本人が持ってくるようになり、その成長を懐かしむことも増えてきましたね。

死を自然なものとして受け入れ、患者を孤独にさせない

院長の熱意を支えるものとは何でしょうか?

芳賀勝院長 医療法人勝心会 芳賀クリニック5

熱意なんて大それたものはありません。死という、自然の流れに寄り添うだけのことです。思い返せば、循環器内科を専門としていたことで、止まりかけた心臓を助けるかの判断もできますし、これまでの経験が生かされる場面も多くあります。最初は患者さんを“助ける”ために専門とした循環器内科が、”看取る“ためにも役立っていると思うと、不思議なものですね。でも、だからこそ助けることも看取ることも、医療だと言えますし、僕は看取る医療の道を選んだまでのことです。訪問時、患者さんのお顔を見て「変わりないですね」と手を握る、これも医療です。手を握る役割は、誰にでも担えることです。どんな形であれ、誰かがいつも手を握っていれば、例え臨終の瞬間に1人であっても、尊厳のある死ではないでしょうか。地域が協力し合い、患者さんを孤独にさせないこと。これが在宅医療、地域包括ケアシステムのゴールの一つではないかと思います。

今後の展望をお聞かせください。

2025年に本格的に直面する、超高齢化社会では、豊橋市でも年間に亡くなる方の人数が現在の1.5倍となると予想されています。多くの死に寄り添い、支えるのは僕たちのような在宅医療に取り組む医師です。これからも一医者としての在宅医療を、体力の続く限り取り組んでいきたいです。これと同時に、看取りを自然に社会に受け入れてもらえるような、啓発活動を積極的に行っていきたいです。医師たちが市民の中に出向き、人の最期は怖いものではないと知ってもらう。これもまた、僕たちの役割ですね。

最後に読者へのメッセージをお願いいたします。

芳賀勝院長 医療法人勝心会 芳賀クリニック6

人生の最期について考えることは、実感が伴わないことなのかもしれません。でもご自身はもちろん、自分の両親なら、祖父母なら、と考えてみる機会を持つことは、決して悪いことではありません。そして、できればきちんと死を目にしてほしいです。それは大人だけでなく、小さいお子さんであっても、です。怖いと思わるかもしれませんが、臨終の間際、患者さんがふと浮かべる笑顔や感謝の言葉に触れることで、“自分なら”と考えるきっかけとなります。僕が医療の道を歩み始めた頃は、今のように病気の告知がされてはいない時代でした。しかし今は患者さんが自分自身の体のことを理解し、どうしたいかを選べるようになりました。また、そのサポートも整ってきています。そのことを知ってもらい、一人ひとりが望む未来を選んでいただきたいですね。

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