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松谷 克彦 院長の独自取材記事

ファミリーメンタルクリニックまつたに

(世田谷区/用賀駅)

最終更新日:2023/05/30

松谷克彦院長 ファミリーメンタルクリニックまつたに main

用賀駅から徒歩1分。駅のすぐ側にある「ファミリーメンタルクリニックまつたに」。ドアを開けると優しい笑顔で迎えてくれたのは、院長の松谷克彦先生。患者のことを一番に考え、治療だけではなく人生に向き合ってくれる。「患者さんの気持ちにそっと寄り添うことができた瞬間が、一番うれしいですね。」と話してくれた。

(取材日2010年12月8日/更新日2019年12月27日)

広い意味での家族でありたい

開業されたきっかけは?

松谷克彦院長 ファミリーメンタルクリニックまつたに1

子ども専門のメンタルクリニックをつくりたかったんです。以前は、総合病院の精神科で働いていました。しかし、そこで思春期のお子さんと出会って、気がついたんです。多くの患者さんの人生をたどってみると乳幼児期から小学校低学年までの間に「自分は大変なんだ」というサインを出しているんですね。それでは、そのような時期からの治療が必要ではないかと。そこで、主に就学前、小学校低学年の子どもを専門にしたクリニックを自分でつくろうと思いました。また、前の病院から患者さんがついてきてくださったので、あまり遠くない用賀駅を選んだのですが、のんびりした雰囲気も好きですね。15年前の12月の寒い日にこの場所と出会ったのですが、部屋に入ると陽だまりができていて。あぁ、こんな温かみのある医院にしたいなと思い、ここを選びました。

「ファミリーメンタルクリニックまつたに」という名前の由来は?

子どもが育っていくためには、子どもを抱える家族が大切なので、そのイメージで名前をつけました。「抱えて」「育てる」場として家族の機能が大事なのですが、実際にはうまくいっていないことが多い。だから、ご家族全体へのサポートも必要という意味も込めて、「ファミリーメンタルクリニック」という名前にしました。また、ファミリーという言葉にいろいろな思いを込めています。親族だけではなく、その時一緒にいてその人のことを必死に考えてくれる人をファミリーと呼んでもいいのでは。そして、自分も目の前にいる子どもさんにとってのファミリーであったらと思っています。また、地域の支援も大切です。やはり、診療室だけですべて解決するのは難しいんです。地域の方々にもファミリーになっていただければと思います。

なぜ精神科を選ばれたのですか?

松谷克彦院長 ファミリーメンタルクリニックまつたに2

一言でいうと、アナログ的に人を診れる職人になりたかったからです。検査のデータを見てガイドラインに基づいて診断をして統計的に有効性の高い薬から処方、という形なら人間がやらなくてもいいのではないかと思っていました。そんな折、1冊の本に出会ったんです。大学の大先輩の本ですが、前書きに著者の恩師である教授の話がありました。その教授は臨床一筋の先生だったのですが、回診の時に患者さんの2週間後の症状変化を予測して、本当に患者さんはそのとおりになったんです。そして予測できた理由を尋ねられた教授が「前にもそんな人がいたような気がしたから」とあっさり言うくだりまで読んだところで、これこそが、データではなく経験をとおして人を診る"医師という職人"の仕事であると感じました。

子どもが気持ちを表現できるよう、遊びを使ったケアも

こちらの医院ならではの治療やケアはありますか?

松谷克彦院長 ファミリーメンタルクリニックまつたに3

医師による精神療法だけでなく、臨床心理士によるカウンセリングもやっています。精神療法では、症状の背景にある気持ちに慎重に触れてゆく作業をしていきます。年少の子どもさんに対してはプレイルームを作り、「遊び」を使ったプレイセラピーという方法を行っています。子どもにはもともと「遊ぶ」力がありますが、その力を大人がつぶしてしまうことがあるんですね。遊ぶということは、とても大切なんです。なぜなら、遊びの中には楽しむだけでなく、怒りや悲しみなど子どもの気持ちを出すという働きがあります。また場面によって自分を出したり引いてみたりする人間関係の呼吸も含まれています。基本的に子どもは、遊びたい気持ちがあるんですね。だから、遊びを使いながら、気持ちが表現されることと、その気持ちが受け止められることをめざします。

治療の時に心がけていることはありますか?

まず、対話を中心に治療を組み立てて、薬は補助的に使うようによう心がけています。病院は、薬を処方するところというイメージがあるかと思いますが、当院では薬をあまり処方しません。診察している子どもさんで薬を出しているのは1割くらいです。子どもの症状は、生きることに行き詰まったことを示すサインです。従って、治療において、症状を治めることも大切ですが、まずこの子の困っていることの本質は何であるかを見極めることから始めます。例えば、暴れてしまう子どもさんに対しても、感情を抑えるための薬を処方する前に、どうしてそうせざるを得なかったのかを知ることが大切なんです。そして、実は不安を感じていたということがわかって、その不安をどうするかというところで初めて薬を考えるのです。安易に処方するのではなく、症状や問題行動の本質に向き合うことが精神医学に求められていることだと思います。

先生ご自身はストレスを抱えることはありますか?

松谷克彦院長 ファミリーメンタルクリニックまつたに4

「悩みを聞いてストレスになりませんか?」とよく言われます。確かに今の世の中は、小さなことにはくよくよせずに常に前向きに明るく元気であることが求められています。けれども、そもそも人間は、前向きに頑張ろうという自分と、一方でいろいろな不安や悲しみや怒りに悩む自分と、その両方を抱えて生きているのではないかと考えています。精神科で働くことは、心の中にある前向きの光の部分だけでなく、悩みを抱える陰の部分に触れる仕事だと思うんですね。不安、悲しみ、怒りなどの陰の部分は、時として向き合うものを圧倒することもあります。ただそれらもその人の生きざまでもあるわけです。生きるということの大変さに向き合い続けて、それが人生の味わい深さへと変わってゆく時間をともにできることはありがたいことで、ストレスとは感じません。

「生きる」ことに向き合う

どんな学生時代でしたか?

松谷克彦院長 ファミリーメンタルクリニックまつたに5

高校時代から、映画が大好きでしたね。大学時代は、まだレンタルビデオとかもなかったので福岡から映画を観るためだけにわざわざ東京に出てくることもありましたよ。喫茶店の自主上映で観た映画なんかはよく覚えていますね。朝から晩までずっと映画館にいて2本立て映画を2回ずつ観たこともありました(笑)。白黒映画が好きで、誠実さと謙虚さがまだ残っていた1930年代のアメリカ映画、リアルを追求した戦後のイタリア映画、家族の日常を吶々とした語り口で描いた1950年代の邦画なんか良かったですね。観るだけでなく、仲間と8ミリフィルムで映画をつくったりもしていましたね。

奥さまとはどこで出会われたのですか?

妻は臨床心理士なのですが、研究会で出会いました。当時、大学を出て医師になってちょうど2年目ぐらいだったと思います。家族と治療していくという家族療法に当時は力を入れていたんですね。その時の、家族療法の研究会で出会いました。そういった意味でも、良き理解者であり良きパートナーです。妻は、現在保健所でお母さんと子どもの支援をしていますが、この医院にも1週間に1回来ています。私生活においても支えになってくれているのですが、仕事においても支えてくれています。実は、クリニックの開業も妻が勧めてくれたんですよ。コンセプトからデザインまで、妻がアイデアを出してくれました。だから、このクリニックでは妻がプロデューサーで、僕は現場監督という感じなんです。

最後に今後の展望をお聞かせください。

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やはり、「子どもさんがどのような気持ちを抱えながら生きてきたのか」ということを大切にしたいですね。最近は、「発達障害」「ADHD」という診断が安易になされているのではということが気になっています。それらの障害はその子の気質、つまり先天的なものとされています。しかし、子どもさんの生育史を細かく見ていくと子どもがさまざまなストレスにさらされながら育つことで、結果として発達障害的になるケースもあるような気がします。人はわからないものや理解できないものに出会うと不安になり考えようとします。しかしそのわからないものに何らかのラベルがついた途端にわかったような気になって考えることをやめてしまうのです。「発達障害」という診断がその子の生きてきた大変さに深く関わらないための免罪符になってはいけないと思っています。

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